0話 とある日の潜む狩人
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とある日の潜む狩人
じっ……と息を潜める。隠密、潜伏は得意分野だ。
得意分野といっても、呼吸量を最小限にして『動かないで静止している動作』のマクロを起動するだけなのだが。
足音。
標的がやってきたようだ。弾んだ4つの声が聞こえる。
今しがたこの迷宮のボスを倒し、迷宮生成の要となっていたコアアイテムを入手したのであろう。
ホームに帰るまでが迷宮探索です……と言いたいところだが、気持ちはわからないでもない。
ランクの高い小迷宮が発生しやすい前線から離れた、『センタータウン』の区域の人目につかない僻地で、沸きたてほやほやの『ランク3の小迷宮』。
激戦区の前線では、できたばかりの小迷宮は奪い合いだ。大して成長していないダンジョンを攻略するだけでその迷宮を形成するコアアイテムを獲得できる。
攻略するだけの能力があっても、突破力に優れた高レベルのチームが出てくれば先を越されてしまうのだ。
こんな僻地では滅多に迷宮など発生しないし、精々出来てランク1~2。
ギリギリ沸きたてのランク3を制覇できるかできないか、というレベルの彼らにとってこれは得難い幸運だろう。
さらに都合のいいことに、格下のPTでも運だよりで突破可能な"爆岩男"出現MAPときたものだ。その分リスクは増すが、上手く立ち回れば戦闘はぐっと楽になる。
一定以上ダメージを受けるとその場で固まり、数秒後大ダメージを伴う爆発を起こす怪物。
遠距離からちまちま削ってやれば周りのモンスターもろとも吹き飛んでくれる。
入り組んだ迷宮内では厄介極まりない、下手に気を抜けば上級冒険者ですら命を奪われることのあるこのモンスターだが……。
沸きたてなだけあって単純で見通しが非常によろしいこの迷宮、冒険者達には追い風にしかならなかったようだ。
「ちょろい働きでぼろ儲け、俺達にもツキが回ってきたな」
「それもこれも、姐さんが里帰りしたいって言い出してくれたおかげでっすね!」
「だろう?感謝しなよ、これは配当割増ししてもらないとね」
「まあそれが妥当でしょうね。いやはや、よもやこんな辺境で魔法書を入手できるとは」
魔法書、確かにそういった。心のなかで高笑いをする。顔は動かない、動かさないではない、動かない。
この世界では魔法を会得するには、魔法書が必須となる。
書に宿る魔力を、書に記された内容を読みながら体になじませることによって魔法を覚えるのだ。
一度魔力をとりだされ、会得に使われた魔法書は使い捨て。よって魔法書は非常に高価な代物だ。
「おいまぬけのウゴト、てめえ間違ってもその罠に引っかかるなよ。大成功にケチがついちまうからな」
「ちょ、流石に俺でも忘れてませんよ!わざわざ目印までつけてんすよ?」
「でもあんたなら引っかかってもおかしくないわよねえ。この間も行きで避けた罠に、帰り引っかかってたし」
「爆岩男が多数出現するMAP、おそらくは爆発系の罠でしょう。下手すれば全滅もあり得る……ひっかかるなら巻き込まないで下さいね」
4人組の目の前、足元にワイヤーが張られた見え見えの罠。行きで発見したその罠に、さらに念を入れて目印までつけている。
慎重すぎると笑う事なかれ、冒険者は臆病でいるべきなのだ。
「ひ、ひでえなあ、ちゃんと避けますよっ……と」
先頭の軽薄そうな男が口をひくつかせながらワイヤーをまたぎ、次にいかにもリーダーな偉そうな男がまたごうとした瞬間。
どこからか飛んできた矢が、正確にワイヤーを断ち切った。
「は?」
そんな声が聞こえたか、聞こえなかったか。
リーダー格の男の足元から爆発が起きた。
凄まじい爆音の後、辺りを爆煙が覆い尽くす。
「い、いったいなにが……そ、そうだ、皆!無事ですか!」
礼儀正しい口調の優男が、全身を負傷しながらも声を荒げる。
「が……かひゅ……」
しかし返ってきた返事は、声にならない掠れた、辛うじて女とわかるものが一つだけ。
先頭を歩いていた軽薄男とリーダーは即死していた。
「なにが……くっ、確か、なにか、とんでき……」
スココン、と。後頭部に2本の矢が突き刺さり、言葉の続きを発することはなかった。
◇
「ふう……」
矢を放った残心をときつつ、その身に怒涛の勢いで流れ込んでくる魂の力(経験値)を感じ、身をゆだねる。
相手はそこまでの実力者ではないとはいえ、真っ当に冒険者をしているPTである。今の自分からしてみれば、圧倒的強者。
LV(魂の力)が段違いに違う、圧倒的格上を屠ったことにより、通常の狩りでは考えられないほどの充足感(経験値)が得られる。
その時、"ぴーん"と頭の中に音が響いた。
称号『下剋上:格上を倒すと入手することがある。格上相手だと[全ステ+][クリティカル+]』を得ました。
さらに、"ぽーん"と彼らを屠るのに使った罠のスキルが急成長するのが感じられる。
こんなにうまくことが運ぶとは、笑いが隠せない。
この称号はLVが上がれば上がる程取得がシビアになる。この時点で取れて、幸運だった。
ステータスを開く。
――――――――――
熟練度
ナイフ熟練度(1000)MAX ナイフスキル3:ナイフに補正。短剣装備で[力+][敏捷++][器用さ++]
刀剣熟練度(1000)MAX 刀剣スキル3:刀剣に補正。刀剣装備で[力+++][敏捷+][器用さ+]
長柄熟練度(1000)MAX 長柄スキル3:長柄武器(棍、棒など)に補正。長柄武器装備で[力+++][器用さ++]
槍熟練度(1000)MAX 槍スキル3:槍武器に補正。槍武器装備で[力++][器用さ+++]
射手熟練度(1000)MAX 射手スキル3:射撃に補正。射撃武器装備で[器用さ++++][敏捷+]
鈍器熟練度(1000)MAX 鈍器スキル3:鈍器に補正。鈍器装備で[力+++++]
斧熟練度(1000)MAX 斧スキル3:斧に補正。斧装備で[力++++][器用さ+]
鞭熟練度(1000)MAX 鞭スキル3:鞭に補正。鞭装備で[力+++][器用さ++]
爪熟練度(1000)MAX 爪スキル3:爪に補正。爪装備で[力++][敏捷++][器用さ++]
素手熟練度(1000)MAX 素手スキル3:素手に補正。素手で[力++][敏捷++][器用さ++]
盾熟練度(1000)MAX 盾スキル3:盾に補正。盾装備で[器用さ++][耐久+++]
称号
隠密3:まじスネーク。もはや壁の染み。[隠密行動補正][敏捷++][器用さ+]
筋トレマニア3:何年筋トレしたらこうなるのだろうか。[力++++]
歩行距離3:凄い歩行距離。どこまでいくの?歩行速度補正。[耐久+++][敏捷++]
鍵開け名人3:針金一つでお邪魔します。[解錠補正][器用さ+++]
武芸多芸3:全武器項目が3以上[全ステ+++]
達人3:短剣、刀剣、長柄、射手、鈍器、素手が熟練度3(全て)[全ステ+++]
詠唱3:唇がめくれるほど詠唱を繰り返した証。[詠唱速度+++]
暗記3:膨大な数の呪文を暗唱できる。[知力++++][魔力+]
重装鎧3:重装の鎧が体に馴染む。もはや体の一部。重装装備補正。
軽装鎧3:軽装の鎧が体に馴染む。もはや体の一部。軽装装備補正。
基礎の塊:基礎が異常に整っている。[熟練度、習熟度の成長率が上昇][全ステ++]
努力の鬼:自分の体をいじめ抜いている。もはやマゾ?[熟練度、習熟度の成長率上昇][耐久+++]
英才教育:幼少時から厳しい訓練を受けている。[熟練度、技の習熟の成長率が上昇][全ステ+]
精密機械:同じ動作を繰り返し行う。[器用さ++]
才能を覆す者:適性の低い武器の熟練度、技を一定以上上げた。[最低適性値、熟練度成長率が上昇]
魔法知識人:一定以上魔法の知識がある。[魔法会得の時間短縮]
眠り魔人:どんな辛い状態、場所でも眠りにつける。[睡眠での体力回復増加]
超回復:幾度となく体を壊しながら回復してきた。[耐久++][体力回復速度上昇]
New!下剋上:格上を倒すと入手することがある。格上相手だと[全ステ+][クリティカル+]
―――――――――
おっと、ぼうっとしている暇はない。魔物が来る前に戦利品(遺品ともいう)を剥ぎ取らねば。
今の自分ではこのランクの迷宮は沸きたてとはいえきつすぎる。
熟練度や称号は数多く持っているが、レベル自体は低いのだ。
だからわざわざ、付近の村で丁度いいレベル帯、高すぎず低すぎないレベルのパーティを探して、さりげなくこの迷宮の情報を流したのだから。
自分でこの迷宮を、確実に攻略できる確信があれば、こんな遠回りをすることもなく、賞金首になる可能性のあるリスクを冒す必要もなかったのだが……。
ボーナスでこのパーティから戦利品を得られたのだから文句は言うまい。
それに、仕方がないだろう。
――なにしろ、俺は『この世界』に誕生してまだ、5年ぽっちしかたっていないのだから。
□戦利品□
・魔法書:地図念写(その地域、階層の地図を念写することができる。その広さや階層によって消費MPが上がる。隠し通路や罠などは表記されない)
・縮小の柄頭(弱)x4(武器に装着することにより、その武器の大きさを半分程度に縮めることができる。ねじることでON,OFFが切り替えられる、中級以上の冒険者の必需品。)
・怪力のリング [力+]
・回復のリング [時間回復微上昇][軽傷回復x5](軽傷回復の魔法が5回分こもっている。ノーリスクで使用可能)
・敏捷のアンクレット[敏捷+]
・良質な鉄の両手剣(中破)
・鉄のプレートメイル(大破)
・良質な鋼鉄の短槍
・鉄のバックラー(小破)x2
・練鉄のリングメイル(小破)
・鋼鉄のナイフx2
・硬皮の軽鎧x2(大破)
・鋼鉄のメイス
・ポーション(小)x4
・出血毒薬x2
・麻痺毒消し薬x2
・火炎瓶x5
・出血毒消しx1
・火傷治しx4
・聖水x2
・回復薬弱x4
・回復薬中x1
・その他食料水
98000G