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16話 略奪






16話

略奪








――オーバーワークで疲れた俺達は30階層まで降り、迷宮入口付近のゲートに転移した。


ゲートから離れ、人気も魔物気も少ない隅に移動する。


内密に話をするなら、下手な所よりも、広大な面積の迷宮内の人も魔物も気配の薄い所の方が良い。



「オクラ、お前は奴隷になる前の、冒険者時代のツテ、まだあるだろ?


 ギルドで中級冒険者レベルの奴らに声掛けておいてくれ。気のいいご主人様ができたってな」


「ああ、そろそろ名前広めていく気か。


 孤児出身の駆け出しでも、30階層に登録済みならある程度のレベルはあるって思われるもんな。


 ……実際は、まだ20代なわけだが」


「そういうことだ。これで酒でも飲みながら話してろ。後で合流する。


 ……可能な限り、"補正持ち"の噂も集めておいてくれ。さりげなく、話の流れで構わない」



銀貨を数枚放り投げる。



「ぐっはは、任せとけ! オレが認めたご主人様っつったら、舐められることぁねえからよ!」


「荷物持ちのおっさんにも1杯位飲ませてやれよ。俺はここの、下位層の掃除人スイーパーと交渉せねばならん」


「ああん?交渉?」


「そろそろ[掃除人]……格下の戦闘が有利になる称号も欲しい頃合いだ。あいつらに引っ張ってきて貰った雑魚を掃討しまくればその内とれそうだろ?


 褒章は払った上で、狩りで出た魔石とアイテムはあっちに全部渡すという契約で……だめでも、まあ顔見せと挨拶をしておくさ」


「おうわかった、んじゃあ、後でな」




そう言って別れ、スティルは単身掃除人(スイーパー)を探す。


夜も近いためか人も減ってきている。


もうスイーパーの面々は引き揚げていてもおかしくないな……無駄手間だったか?


夜になると魔物は獰猛性を増すため、機械的に格下の魔物を挑発し集め、一気に掃討するという繰り返しの指揮を取るスイーパーと、その取り巻き達にとっては割に合わない戦闘になるのだ。


よって今からの時間は、スイーパー達の中に加えて貰えなかったはぐれものや、上の階層に進むことのできない新人達が割に合わないながらも入れ替わりで戦うのだ。



(丁度入れ替わりの時間で人数ががくっとへるこの時間―――嫌な予感がするな)



丁度魔物が出現しにくく、それ故冒険者も少ないスポットにいる。


――ここはまずいな、さっさと離れるか……。


その時後ろから走り寄ってくる人間がいた。



「よお、誰を探してんだよ」



茶髪で短髪、ラグビーでもやっていそうな体格――冒険者ではありふれているが――をしている男。


同郷の15人組のリーダー格をしていた、バスカ……だったか。


隣に見たことの無い、いかにも悪いことが好きそうな人相の男が、にやにやとこっちを見て笑っている。



「……この階層の掃除人(スイーパー)の指揮とってる人に用があってね」


「おお奇遇だな、そいつなら居る場所を知ってる。案内してやる、ついてこいよ」



嫌な予感的中。


1階層で狩りをしないため、地形をあまり把握してないことが仇となったか。


……あれか? 俺がこいつらの情報売ったのがどっかから漏れたのか?



「いや結構だ。日を改めることに……」


「おいバスカだめだ、そんなに馬鹿じゃねえよこいつ」


「ちっ、黙ってさっさと着いて来いよ! 逃がしゃしねえぞ!」



さりげなく散っていたのだろう。


見覚えのある、同郷の孤児戦士が1人と、こちらは見覚えの無い男が3m程後ろについた。


見覚えの無い2人は、俺を狩るために雇ったのだろう。



「へっへへ、下手に逃げようとすんじゃねえぞ。


 どんな手品使ったか知らねえが、早々に羽鋼製の武器なんざ手に入れやがって生意気なんだよ!


 こっちはお前が新人って知ってるんだ。精々あってレベル20だろ……この人たちはな、30階のゲートに登録してる面子なんだ。


 羽鋼持ってようが、お前が敵う相手じゃねえんだよ」


「ってか、まず4対1だしなあ。げっへっへへへ」


「装備、アイテムに有り金全部、置いてけば命だけは助けてやるぜ。おっと、迷宮の方のギルドカードもだな。


 そいつを割っちまえば俺達が襲ったって証拠は残らねえしな」



迷宮ギルドカードには、迷宮という犯罪に打ってつけの場所での冒険者同士の不当な略奪の防止のため、効果は迷宮のみだが、記録魔法がかかっているのだ。


明らかな違法行為や略奪があった場合、被害者側がギルドカードを提出することで被害を訴え出ることができる。


ただし、逃げきれずにカードを壊れてしまえば証拠は残らない。


奴隷の売買の場合は、売られる奴隷側の記憶を一通りチェックするため、暴力で強引に奴隷にすることはできないが、略奪のみならば逃げられさえしなければ問題無いのだ。


基本的に襲われた側は、逃げるか返り討ちにするしかない。


――争いが絶えぬこの世界で、人間同士の争いはなるべく防止せねばならないが、いちいち弱者にまで万全の身の安全を保証する余裕はないのだ。


襲う側は、疲れ切った相手に万全を期して襲うのだから、基本的に逃げの一手しかないのだ……あくまで、基本的には。



(はぁ、こういうことがないように、30階層登録ってのを喧伝してもらおうとしていたのに……。タイミング最悪だなこいつら。


 おそらく俺がこの数日で30階層に到達したのを知ったら、こいつらも手を出さなかっただろうし)



「それにしてもどうしたんだい、バスカ。 15人もいたのに、お前を入れてもう2人か。随分と減ってるじゃないか」



にやにやと、余裕の笑みを作りながら挑発してやる



「う、うるせえ!」


「半分は離反、4人奴隷になって2人は離れていっちまって散々らしいじゃないか。


 はっははは、哀れだなあお前」



「…………まさか、お前か!? 俺達の情報を売ったのは! 同じ馬車だったよなあ!」



(4対1……装備と立ち姿を見るからに2人は40レベル相当かな。30階層登録済みってのは間違いじゃなさそうだ。


 伊達にセンタータウン時代から冒険者狩りはしてないよ。


 60レベル以上がいるか、もっと人数が多ければまずかった。……こうも都合よく『倒せて、尚且つひん剥いたらおいしいレベル帯』の冒険者を連れてきてくれるなんてな。


 [歩行距離]の称号補正で逃げるだけなら容易い……しかし――うまくやれば大儲けだな)



「おい、聞いてんのか!」


「言いがかりはよしてくれよ。っくはは……まあ、情報を売ったのは俺だけどね」


「て、でめええぇえ!」


「おい待て、ここじゃまずい!」



バスカを隣の冒険者が止めに入ったのを確認した瞬間、持ち前の敏捷と[歩行距離]の称号に物を言わせたダッシュで、囲まれた状況から離脱する。



「て、てめえ待ちやがれ!」


「くそっ、絶対逃がすな、賞金首なんて勘弁だぞ、俺ぁっ」



(囲まれないように、追いつけるぐらいの速度で、奴らが人気の無い所に俺を誘導しやすい(・・・・・・)ように走ってやればいい)



1階層は人が多いが、それ以上に広い。


魔物の沸きにくい場所もある程度は決まっているので、意外と人が少ない場所が多いのだ。


ついに1階層の端の壁が見えてきた。


ここから先は逃げ場が無い……まずいっ、という顔を見せながら、武器で牽制しつつ、振り向いてやる。




「へっへへ、馬鹿め、情報通り背伸びして上の階層に行ってるから、地形を知らねえんだな」


「逃げ場はないぜえ……手こずらせやがって。こいつ命は取らないでおいてやろうと思ったが、もうやめだ」


「ぜぇっ、ぜっ、こいつ足はええ……」



もうすでに勝ったつもりで強奪後の相談をしてやがる。


後ろを取らせないよう、囲まれないようにじわじわと少しずつ動きながら、剣から槍へと持ちかえ、邪魔になった盾を後ろに放る。


……準備は整った。囲まれない内に、一番単純かつ30階層の2人組ほど攻撃力の無いバスカを挑発する。



「……っていうか、1階層でこんな強引な強奪するのも大概馬鹿のすることだろ。


 リスク高すぎっていったらこっちが上だっつーの。


 おっと悪い、そんなこともわからないから、今じゃたった二人になっちまったんだったな」


「うるせぇっ、脅されたらさっさと差しだしゃいいんだよ!『スラッシュ』!」



激高したバスカが、周りが止める間も無く、絡め手も無しに大振りに剣を振りおろしてくる。


迂闊な馬鹿が、1人突出しやがって……。


受け流すまでもない。


素手スキルを磨いてMAXレベルに達した『見切り』で、わざと紙一重でかわし、隙だらけになった所に


『スマッシュ』


槍の石突きで、バスカの頭を長柄基本スキルのスマッシュで打ち据える。


長柄スキルは体勢を崩させる(スタン属性)スキルが多く、基本技であるスマッシュもまた例外ではない。


この一撃で脳震盪を起こし気絶したようだ。



「なっ、はええ!」


「おい一瞬かよっ」


「ばっ、バスカあああ!」



40代の2人は驚き慌てて攻撃しようとしてくる。


同郷の1人は……いい的だな、腰が引けてやがる。


スキル後のほんの僅かな硬直だが、油断せずバスカの体を盾にして万全の態勢を保つ。



「おるああっ」


「しっ」



腰が引けて動けない足手まといは放っておかれ、40代2人は同時に攻撃を仕掛けてくる。


あえて僅かだが隙の生まれるスキルは使わず、お互いの隙をカバーし合う、対人戦に特化したなかなかのコンビネーションだが……。



「くっ、こいつなんだ!? 槍さばきが半端じゃねえぞ!」


「っ、……まともに攻撃が通らねえ!」



HPMPなどのステータス以外は称号と鍛練で伸びているため、単純な力などのステータスは俺の方が上だろう。


さらにこちらとあちらでは、技術に差があり過ぎる……2対1でも圧倒できる。



槍とメイスでタイミング良く攻撃してきているが、疲れが見え始めて、攻撃に精彩が欠けている。


思わず大振りになったのであろう、勢いよく繰り出される槍を卓越したポールウェポン(棒状の武器)の技術で受け流し、槍持ちの体勢ががくっと崩れる。



「くっ、まずっ」


「ちぃっ、くらええぇえ!『ハードラッシュ』」



メイス持ちが限界を悟ったのか、一か八かスキルを放つ。


『ハードラッシュ』、体のスペックに応じた力で振りまわされる質量の嵐……しかしスキルレベルが低いのか、2連撃で終わってしまう。


まともに牽制もできてないのにそんな大振りな攻撃に当たるはずもなく、ラッシュをサイドステップでかわし、


『足払い』


上手く並んだ2人まとめて強烈な足払いを仕掛けた。



「がっ」


「ごあぐっ、くそ」


「沈めっ」


『大車輪』


槍を乱回転させながら縦横無尽に打ち据える。


――といっても片方は槍の刃がついているので、致命傷を与えないように注意しながら、だが。



「あっ、ご……かほっ」


「ぐ、づえぇ……」


「ひ、ひいぃっ」


「ふう……終わったか」



油断なく構え、薬が入っているであろう荷物袋を槍で切り離し手元に引き寄せる。


そうして縄を取り出し、腰が抜けて逃げることすらできなかった、情けない同郷に縄を投げ渡す。



「死にたくなかったら、武装解除して荷物をこっちに寄こして、この3人を縄で縛れ。ほらさっさと動けっ!」


「ひ、はひぃっ、はい、はいやりまふっ」



手が震えて非常に手際が悪く、何度か体を打ち据えながら、ぐずぐずしている間に回復されてはかなわないと、結局俺が全員を縛った。



「ちっ、手間掛けさせやがって。おら、全員ついて来い」



腰を抜かしていた腑抜けと、気絶状態から文字通り叩き起こしたバスカに、動けそうにない冒険者2人を担がせ迷宮を出る。


1階層で狩りをしていた面々が一斉にこちらを見ていたが……そろそろ名を売りたいと思っていた所だ、丁度いいだろうとほくそ笑んだ。




◆獲得品

錬鉄の剣

鋳鉄の剣

良質な鋼鉄の剣

良質な鋼鉄の槍

鋼鉄のメイス

錬鉄のフルプレートアーマー

鋼鉄の軽装セット

硬皮の鎧セット

錬鉄の重装セット


風のナイフ

力の腕輪x2

敏捷の腕輪Ⅱ

敏捷の腕輪

力の指輪x2

敏捷の指輪x2

力のアンクレットx2

敏捷のアンクレットⅡ

敏捷のアンクレット

消費アイテム諸々


180000G


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