15話 ゲート
15話
ゲート
■装備品
スティル
レベル23
羽鋼のバスタードソード
良質な鋼鉄の短槍(縮小)
鋼鉄のラウンドシールド
火のナイフ
胴:鋼鉄のスプリントメイル
手:鋼鉄のガントレット
足:鋼鉄のグリーブ
頭:鋼鉄のチェインフード
指:火のガードリング [守備力微+][器用微+][火耐性+]
:毒耐性のリング[出血毒耐性+][神経毒耐性+]
手:敏捷の腕輪[敏捷+]
:知力の腕輪[知力+]
足:隠密のアンクレット[敏捷+][足音隠蔽+]
:敏捷のアンクレット[敏捷+][防御微増]
首:
耳:
所持金141000G
オクラ
レベル67
良質な鋼鉄のアクス
鋼鉄のナイフx2
胴:鋼鉄のプレートメイル
手:鋼鉄のガントレット
足:鋼鉄のグリーブ
頭:鋼鉄のグレートヘルム
指:力の指輪Ⅱ[力++]
:回復のリング [時間回復微上昇][軽傷回復x5]
手:
:
足:器用のアンクレット[器用+]
:
首:
耳:
「よし、今日は真面目に迷宮探索だ。基本的に寄り道、悪だくみは無し。目標は30階でゲート登録だ」
――スティルはフル装備を終え、そう告げた。
「ああ、しかしおでれーたな。まさか数日前に来たばかりの孤児だったとは……」
「人は見掛けによらないものさ。いやしかし自発的に協力してくれて本当に助かるよ。
今までは、基本的な知識がないことを悟られないように遠回りに情報屋とやり取りしたり、酒場で噂話を盗み聞いたり。
あとははったりで誤魔化してきたからな」
「胸張っていうことじゃ……いや、確かに胸張って言っていいかもしれねえな」
干し肉を食いちぎりながら、くっちゃくっちゃと汚らしくしゃべるオクラ。
呆れながらも、どこか頼もしげに見つめてくる。
まあ、狡賢くはあってもあまり腹芸は得意ではなさそうであったし、そこら辺は一任できることの安心感があるのだろう。
「しっかし、ランクが低いとは言ってもよくこれだけ魔法装飾品やら武器防具を持ってやがるな」
「その辺は略奪品だな。ぶっ壊れた物以外はできる限り売るのは避けている。
大抵買い叩かれるのがオチだからな」
「がっはは、違いねえ」
「さて、10階層までは駆け抜けてきたけど、ここからは慎重にいかないとな」
「ああ、こっから先は分かりにくい罠が多いからな」
とは言っても、この階層レベルなら大した問題はない。
称号:隠密、鍵開け名人など盗賊系の補正があるため、専門の称号が無くても多少の補正を受けることができるのだ。
「GARUAAA」
「ゴブリンお出まし」
「がっはは、久々の戦闘だ。オレにやらせろ」
『スマッシュ』
斧スキルスマッシュ。スキルの力を借りた無造作に振りぬくだけの一撃だ。
基本技であるスマッシュも、67レベルという中級冒険者でも上位であるオクラのものを、ただの洞窟ゴブリン風情が防げるはずも無く、頭から肩まで綺麗に吹き飛んだ。
「汚いな」
「おいおい、オレの豪快な技を見て言うことかぁそれ?」
「わあすごい。おじさん、ゴブリンの魔石……ああ、飛び散りすぎてどこにあるかわかんないね。やっぱりいいよ、進もうか」
「……いや、正直すまんかった」
◇
『隼斬り』
羽鋼の軽さから放たれる隼斬りは、4つの刃となって突出していた斧オークに襲いかかる。
「GUGYAAAA」
先頭の斧オークの頭をばらばらにしたところで、後続のオーク4体が斧やメイスを振りかぶって襲いかかってくる。
「スイッチ」
「ぐはは、任せろ、いざ必殺の……!」
『ドラムクラッシュ』
体中の筋肉をみちみちとを引絞り、頭上から斜めに叩きつけるように振りおろす。
先頭のオークが弾けるようにして絶命し、その勢いのまま他2体の手足を巻き添えに吹き飛ばした。
「GYAGUAAAAA」
ドラムクラッシュの範囲外にいたオークが、怒りにまかせて襲いかかるものの、
『真空斬り』
届かない。
高速で振られた羽鋼の剣から放たれたかまいたちで利き手から頭までずたぼろに刻まれ、その命を終えた。
「おいおい……真空斬りでその威力ってどういうことだよ」
「そこら辺は気にするな。あ、おじさん、魔石とドロップ品回収よろしく」
「は、はい……」
「お前のスキル、尋常じゃないな。いくら羽鋼っていっても、隼斬りで4連攻撃なんて出せるもんじゃねえよ」
「まあ、趣味が鍛練だった時期があってな。大抵の武器は使いこなせる」
「底が知れねえな……。それでレベルが23……ああ上がったんだったか、24レベルだってのが信じられねえよ」
「さっきもう一つ上がったから25だね。それと余り人がいる所でしゃべるなよ。
お前にレベルを教えたのも、首輪つけてるからだからな」
「ああ、わかってるさ。見えたぞ、あそこがゲートポイントだ」
魔物がゲートエリア内に入らないように見張りが数人巡回していた。
ゲートは冒険者の命綱と言ってもいい存在だ、その分求められる腕前も高いが、給料はいい。
「――いらっしゃい。あんた、初めて?」
特に個性の無い顔立ちの女が、ゲート横の小屋で受付をしていた。
「ああ、登録を頼む」
「ギルドカードを出して、こっちの石に血を垂らして」
言われるがままにカードを出し、血を垂らす。
「――っ!あんた、ギルドランク最下級じゃないか。
っていうか登録してから数日、入場記録はあるのに魔石提出も到達階層報告もなしって……あんたなにしてたんだい」
「ああ、面倒だったしまだ金には困ってないからな。まあある程度貯まったらまとめて持っていくことにするよ」
というのは建前で、最低1人は従者なりPTなりを作るまではギルドに近づくつもりが無かっただけだが。
「はあん。しかしなんでまたいきなり……」
「詮索が趣味なのか? それとも俺の思い違いで、ゲート登録にはインタビューなんて儀式があったのかな」
「ちっ、生意気なガキだね。……まあいいさ。
で、そっちの大男さんはどうすんだい?」
「延長手続きは割と最近にしてるから、今は別にしなくていいぞ」
「だそうだよ。俺だけで結構だ」
「はいはい、新規登録だから2万G頂くよ」
庶民からすれば非常に高い――が、冒険者からすれば必要経費だ。
「ほら、2万Gだ。――所で、最近新人は登録に来たか?」
「新人ねえ……どうだったかね、最近忘れっぽくてね」
銀貨を放ってやる。
「ああ、思い出したよ。女っぽい顔をした孤児出身のガキが女連れで来てたね」
ぴんときた。
「まさか、そいつの名前はオリシュっていうんじゃ」
「ああ、そんな名前だったね」
「そして、その連れの女は美人だったろう」
「……なんだい、知ってるのかい。そうだね、美形の剣士って感じだったかな」
「なるほど、なるほど……参考になったよ、ありがとう」
そう言い残してその場を後にした。
◇
「オリシュっつったか?ありゃ何の話だ。楽しいネタか?」
オクラがにやつきながら話しかけてくる。
どうせ、一儲けできるか、いい思いができる話だとでも思っているんだろう。
「残念だが、お前の思っているような話と直結しているわけじゃない。
……ただ、そいつらの周りには常にイベントが起きるんだ」
「イベント?祭りかなんかか?」
「いいや。例えば、その階層にふさわしくないレベルの敵がまぎれこんでいたり。
例えば、たまたまひっかかった罠に落ちた先にボスがいて、倒したらレアな武器を手にしたり。
例えば、いつの間にか大規模な陰謀に巻き込まれていたり」
「……なんだそりゃあ。近づきたくねえ奴らがいるもんだな」
「その通り……普通に考えれば、だがな。そういった大きな事件が起こると、人間も、お金も、物も激しく動き出すんだよ。
彼らが引き寄せる強敵っていうのは、倒すと、驚くほどの経験値や称号、アイテムが手に入ることがほとんどだ」
「ぐっはは、なんだか絵本の物語みたいな話だな」
「はっははは。まさにその通りだな。主人公が持っている、事件を引き寄せる力。
"主人公補正"っていうのは確かに存在する、俺はそう思っている」
(そういえば、いつからだったかな。俺が"補正持ち"が憎くなったのは)
「はあん。なんだかよくわかんねえ話だな。占いかなんかか?」
(憎くなったのは……? なんで俺はまず"補正持ち"やイベント、シナリオなんて与太話を信じ込んでいるだ?
というより俺はどこでそんな知識を――――)
「おい、おーいスティル。どうした?」
「ん、ああいやなんでもない。
別に信じなくてもいいさ、ジンクスみたいなものだ。
しかしだ、もしジンクスが当たって、うまいことつかず離れず距離を保ち、絶妙なタイミングで介入できれば……」
ひゅひゅひゅん、と羽鋼の剣を振る。
「こんな風に、分不相応な物を手に入れることができるのさ」
「そのバスタードソード、まさか……」
「"補正持ち"が15階層で騎士オークのユニークと戦っていてね。うまいこと介入して手に入れたのさ」
「15階でナイト種のユニーク……? くっ、がっはっはははは! なるほど、なるほどなあ!
それが本当ならあながちありえねえ話でもねえなあ!」
「一度覚えれば忘れないよ、奴らの気配は。
強い求心力。引力のような魅力だ。お前と同時期に奴隷商に入った奴隷のエルフがいただろう」
「ああ、500万Gとかいうふざけた額の女だな……まあ確かに、嫌に目というか、気が惹かれる感じはしたけどよ」
「漠然とでいい。もしかして、と思ったら言ってくれ。なにかうまい話でも横取りできるかもしれない。
……今日はとりあえず、いけるところまで行ってみるか」
(――そうだ、普通じゃありえない。15階層でユニークが出るなんて。 あんな圧力や魅力を感じるなんて、あり得ない。そうだろう。
シナリオっていうのはあれだろう。所謂普通のアニメや漫画ならこうなるだろうな、っていうテンプレートみたいなものだろう。
普通じゃあり得ない。あいつらは普通じゃない。そうだ、憎たらしい奴らめ――)
「おいスティルー?」
「――いや、今行く。すまんな」
◇
40階層
「くっ、『隼斬り』『偽疾風突き』」
みちみちっと腕の筋肉が悲鳴をあげる。
隼斬りでホーンウルフの顎から先をを斬り落とす。
スキル発動直後の硬直を、マクロで無理矢理発動した偽疾風突きで強引に埋め、オークの横から忍び寄っていたアシッドスライム(酸性流動体)の核を貫いた。
「GUOAAAAA」
後ろから襲いかかる剣闘虫の一撃――避けきれないかッ。
「ちぃっ、『見切り』『金剛身』『シールドバッシュ』」
攻撃の軌道見切って芯を外し、素手スキル金剛身でダメージを抑え、盾スキルシールドバッシュでビートルの攻撃を弾き、体勢を崩し素早くスイッチ。
数々の熟練度をMAXに上げた者でないと出来ない芸当――複数スキルの組み合わせ――だ。
もうそろそろ呼吸を合わせるのにも慣れ、阿吽の呼吸とまでは言わないが、無言でスイッチ(攻守、位置交代)ができるようになったのはでかい。
命がけなので、お互い必死なのだ。
「がああああ、くたばっれえええええ」
『兜割り』
オクラが素早く前に出て、ブレイドビートルを真っ二つに斬り落とした。
「くそっ、キリがないな……オクラ、一旦下がるぞ」
「だあ、やっぱ2人じゃ無理があるなあ。壁するから体勢立て直してくれ」
剣をしまい弓を構える。
『五月雨射ち』『偽五月雨射ち』
追撃を仕掛けてくるニードルバット(針蝙蝠)や亜種ゴブリン、ウルフ、スライムなどの魔物に雨あられと矢を浴びせてやる。
「おいスティル、エレメンタル族が来やがった! 火の奴だなんとかしてくれ!」
「ちっ……」
エレメンタル族は物理攻撃が非常に効きづらい。
それはスライムも同じだが、スライムならば俺くらいのスキルがあれば核を正確に狙いうてるから問題ない。
エレメンタル族相手に戦う場合、魔法か属性武器で戦うのがいいのだが、手持ちの火属性のナイフでは火のエレメンタルに有効なダメージが入りにくい。
「俺から行く、後に続け!」
『ショックウェーブ』『偽真空斬り』
ああくそ今日で何回目だ?
偽真空斬り――肉体の動きの模倣のみでスキルを再現するために、通常の真空斬りよりさらに出力(倍率)を上げた筋肉の動きに、腕の筋肉が悲鳴をあげる。
無茶なスキル発動が多すぎて、HPは回復しても筋肉疲労の方は厳しい。
2連続の大気ごと攻撃するスキルが――それもスキルランクMAX状態のものが――余波で周りの雑魚魔物を巻き込みながら吹き荒れる。
本来1体、精々2体程度を攻撃するスキルだが、スキルレベルの高さによって生じる、副次的攻撃であるかまいたちや広範囲に広がる衝撃波で、レッドエレメンタルが揺らいで小さくなっている。
「今だ!」
「おうさ!」
『ドラムクラッシュ』
大上段からの斧の一撃が、質量の嵐となり揺らいでいたレッドエレメンタルをちりじりに吹き飛ばした。
「ぜっ、はぁあ……しんど」
一旦敵の少ない地点に引いた俺達は、武器の整備と体の休息をとっていた。
おっさんに手伝わせ、特に疲労の激しい右腕に回復薬を塗り込んでいく。
ああ糞、こんな時綺麗どころの女だったら回復力が――精神的な――段違いなのに。
「がっはは、だが、たった2人でしかも魔法無しで40階層を戦えるなんぞ、あるもんじゃねえぞ。
お前がどういう手品か、スキル連発でそれだけ蹴散らせるからできる芸当だな」
「おかげでまた2つレベル上がって27だぞ」
「敵が50レベル付近ばっかりだからな。格上補正で経験値が割り増しになってるんだろう」
「……今日中に50階はさすがに無理か。というか、レッドエレメンタルが厄介だ。
火属性じゃ手持ちの武器じゃ辛いし、魔力をいくら込めても火のナイフのランクじゃ出力が足りない。
理想は無属性のランクの高い魔法武器……だが予算が足りる筈もない。
せめて魔力が通りやすい銀製の武器を買ってくるべきか」
「そりゃあなあ。
属性付きの魔法武器の方が同じ予算でも威力が上だが、一つしか武器を持たないなら属性は無い方がいいな。
というか、20レベルでサウスタウンに来て数日で40階層なんて、普通あり得ねえぞ。
そんなに先に進むことを考えるより、ここいらでレベルを上げることを考えた方がいいんじゃねえか?」
「普通なら、な。
"補正持ち"の奴らは驚くべき短期間で成長する。
ああ、お前にはまだわからないんだったな。……異常にトラブルにあう代わりに成長する機会が多いと思えばいい。
オーバーかもしれないが、"補正"が強い奴なら、迷宮に行くと毎回ユニークモンスターが複数出るレベルだと予想している」
「ぐふ、ぐっはっはっは。 おいおい、そんなことありえたらユニーク狩りを中心にしてる奴らから闇討ちされるぞ」
「だから理解しなくてもいいと言っているだろう。
俺も自分で言ってて、なんでこんな与太話を……って困惑することがあるんだ。
まあ兎に角だ。どういったわけか俺の同世代には"補正持ち"が大量にいるみたいなんでな……。
オリシュって奴はごく最近30階層まで来てる、ってことはだ、イベントが起きるはずなんだ。初ゲート登録なんていう切りのいい物語の節目的に考えて。
手柄を横取りするチャンスがあるかもしれない。
もしチャンスがあっても、その時にそいつらを超越した、最低限ついていけるだけの強さを持っていないと後悔する羽目になるだろう」
「まだイベントってのは見た事ねえし、フラグ?なんかよくわかんねけどよぉ。
お前がそこまで言うなら……がっはは、あながち虚言ってわけでもねえだろ。楽しみだな、ぐふ、ぐははっはは」
■獲得品
レベル23→27
魔石、換金ドロップ品 2万G相当
鋼鉄のレイピア→売却