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14話 閑話 同郷の戦士達






14話


閑話 同郷の戦士達




地球から来た、スティルと同郷の15人は揉めに揉めていた。


サウスタウンに降り立ったその日、早速15人揃って迷宮に挑んだ。


元々ゲームである程度まで攻略していて、おおよその地形や魔物の習性、罠の解除法などわかっているのだ。


魔物との戦いも、センタータウンでの討伐隊で経験済みだ。


高揚はあっても不安はなかった。


なにもかも上手くいくと幻視していたのだ……。



「……散々じゃねえかよ。くそっ」


「うるせえな、てめえらが黙って言うこと聞いとけばよかったんだよ!」



卑屈なで暗そうな男に対し、偉そうにしている茶短髪の、体格の良いリーダー格の男がわめき散らす。



「いつも思ってたんだがよお、バスカ、なんでそんな偉そうなの?


 ゲームでただレベル上げてただけだろ? 

 

 だいたいさ、最初から20レベルもあったのに、5年間で12しかレベル上がらないってなんなの?」


「センターには雑魚しか沸かないんだから仕方ねえだろ! 20にもなってないやつが生意気な口きいてんじゃねえよ!」



場の雰囲気は荒れている。


酒場の一角は彼らの放つどんよりとした空気で包まれていた。



「やめい、今はそんなことを言いあっている場合ではなかろう。まずは皆が拙者の獅子爆散琥桜拳を会得さえすれば……」


「っ、ああうぜえよお前、いつまでロールプレイ(なりきり)してやがんだでめえ!


 レベルが高いから我慢してたけどよ、気持ちわりいんだよ!」


「むむむっ、聞き捨てならんぞっ今の言葉取り消し……」


「だあああちょっとストップ!! 

 

 今は置いておこう、とりあえず、今話し合うべきことは、こんなことじゃないだろう!」



今にも掴みあいになりそうな2人の間に、比較的大人しそうな顔をした、青い髪の痩身の少年が間に割って入った。



「……ちっ」


「しゃあねえ。テリンの言うとおりだ。


 というかそもそもだ、あんな下位の魔物程度問題無かったんだ。


 なんで冒険者が、たかがNPCが俺らの妨害してくるわけ?」


「……NPCとかMOBキャラとかいう考えはやめようと言っただろう。


 それで何度もトラブルが起きてるんだ。


 こっちの世界に来てもう5年も経ってる。いい加減考え直しなよ」


「NPCはNPC……わかったよ、そんな目で見るなって。


 なんか、ルールを破ったみたいなこと言ってたな」


「……そうそう、俺らが狩ってた連携の間に強引に入ってきて、俺らを分断して」


「んで毒系の魔物のモンスターハウスに追いやられて……」


「なんとか全部魔物倒したら、モンスターハウスの入り口に大量の魔物を引っ張って来やがって……!


 あれじゃMPK(モンスタープレイヤーキル)じゃねえか!


 故意に冒険者を攻撃するのは違反なんじゃねえのかよ!」


「ゲームの物価と違って、薬系統の値段がかなり高かったからケチって少ししか用意しなかったのがいけなかったね。


 ただでさえ高い毒治療薬を10倍の値段でボラれて、すっからかんだ」


「最悪だよなあいつら……ギルドに文句言いに行ってもてんで相手にしやがらねえし!


 おい、今度あいつら全員迷宮内でぶっ殺そうぜ!


 あっちから仕掛けてきてんだ、ギルドもまともに対応しねえし、いけんだろ!」





「――もういい加減にしてくれ!」


先程一旦争いを納めたテリンが机を叩きながら立ち上がる。


「君たちは不用意すぎるんだ! これは現実なんだと、何度も言っているだろう! 

 

 最初から何度も言ってただろう、装備につぎ込むんじゃなくて、多少お金をプールしておく必要があると!


 ゲームじゃないんだ! 装備だって消耗するから、買い替えだっている!


 いつ誰が瀕死になるかわからないから、いざという時の治療費を取って置くのは当然だろう!


 今回だって、下調べをしてから行こうと進言したのに……」


「ああ?テリンお前、いつも口だけじゃねえか!


 レベル15の癖にいつもギャーギャーうるせえなー」


その彼に対し、バスカを中心に、レベルフリークな面々が冷たい目を向ける。


「いつもそうだ。君たちはレベル志向主義過ぎるんだ。


 ゲームの時みたいに死に戻り(デスペナルティー)じゃ済まないのに、戦略はゲーム自体のまま。


 この世界の暗黙の了解すら守ろうとする所か調べようともしない。


 スキルやステータスやレベルがあっても、結局は現実なんだ。


 いつまでのそのやり方が通用するなんて、思わないことだね。


 ……僕はここで抜けさせてもらうよ」


「はっ、勝手にしろよ。口だけのてめえ1人でなにができる!」



そのバスカの言葉に否を唱えるものがいた。



「俺も抜けることにする。テリンに着いて行くぜ。前々から気に食わなかったんだよ、バスカのやり方」


「俺も、ここのやり方には限界を感じていた。抜けさせてもらう」


「拙者もここにいるわけにはいかんな。我が武技を侮辱した者の下にいるつもりはない。


 本来ならば斬って捨てる所だが、同郷のよしみだ。勘弁しておいてやろう」


「じゃ俺っちも抜けよっかなー」



結局、抜けると宣言したのは、レベルが余り高い方とは言えない4人に、この中でバスカの次にレベルの高い、武士風のしゃべり方をする1人で5人。



「糞っ、勝手にしやがれ! 低レベル組に、頭が沸いた侍が1人、数日中には死ぬだろうさ!」


「どうだろうね、僕に声をかけてくれているクランの人がいるとは、考えないのかな?」


「はっ、いつもの口からでまかせだろ! もういい、失せやがれ!」



(最後まで思考を放棄して、どうするつもりなんだろうね。


 ――もしこれが、裏がある話なら、狙いは――。


 ……これは早いうちに離れられて、正解だったかもしれないな)



こうして、15人の少年達は二分されたのだった。








ビッグ1 25階層





「くそっくそっ、なんでこんなことに……」



「おいバスカ!さっさと壁になれやボケ! てめえにはその無駄な図体しか取り柄がねえだろうが!」


「おら、孤児共さっさと囮になって走りまわれ!敵を集めろ!

 

 俺様のファイアレインに巻き込まれないようにしろよ!ひゃはあぁああ」



「ひいぃっ、無理だって、はやく、たすけっ」



「てめえらが25階層でもいけるって言ったんだろうが!はっはっ、おらいくぞファイアレイン!」



「あちぃ、あずぢいいぃぃ」


「やめっ、まだ逃げきれて、があぁああ!」



「ちっ、もうダウンかよ」


「まあいいんじゃねえの? 上出来だろ、今の一網打尽でユニークモンスターも狩れたし。


 ――うひょお、ついてるぜ! 見ろよ、魔法書だ!」


「ラピッドファイアか、下の上くらいの呪文だが、20万Gは硬いな」



希望の光が見えた。


大量に魔物を狩ったし、魔法書を売った金と合わせれば一人頭24000G程入るだろう。


こっちが格下ということで取り分を半分にされても、一人頭12,000G。


10人で12万Gだ!


「ま、まじか……!きた、きたこれ、火傷しまくった甲斐があった……!」


「よし、よし!これで薬と、低級の魔法書でも買えば……」


「へっ、壁をし続けた甲斐があったぜ!」



しかし、



「は?何言ってんだお前ら」




彼らの喜びは容易く打ち砕かれる。




「ちゃんと契約したときに言ったよなあ?報酬は撃墜数出来高払いってよお。


 つまりは殺した分量で決めるってことだよ。


 そしてその判断は俺に一任されるって話になってただろ?


 あっはっはあ。お前らは聞き流していたけどなあ!」



「そしてぇ、わかってるとは思うが、壁と囮と削りしかしてないお前らの殺害数は?


 俺達3人とお前ら10人で、20:1って所か?


 お疲れ様だなあ。一人頭1700Gがいい所だ!くはっはっは!」



「んでもって、狩り終了次第現地解散、ってわけだ。これにて解散っ!ってな。


 ほんとよお、お前ら交渉のこと何も知らないのな?


 PTも形式上のもので、俺ら3人は別PTにしてるから経験値も大して入ってないだろうし」



バスカら10人とPTを組んでいた、平均45レベルの3人組が、冷酷に事実を述べる。



「くそっ、でめえらっ、騙したのがあっ」


火傷を負い、うまくしゃべることができない男が、悲鳴ともとれるような声で弾劾するも。


「人聞きが悪いなあぁ。俺達は契約通りにしてたんだぜえ?」


その追及もさらりとかわされる。


「くそ、くそくそくそくそっ、いいもういい!


 報酬はいいから、こいつらの火傷と傷を治す薬を寄こせ!


 薬の支給は、お前らの担当で、契約に入っていただろ!」


せめて傷ついた仲間を、このまま放っておけば、間違いなく致命傷になってしまう仲間を救おうとした言葉も。


「はあい残念。


 契約では、『PTを組んでいる間、戦闘に支障が出るレベルのけがをした場合薬を支給する』だったよなあ。


 もうPTは組んでないし? PT解散のタイミングも、俺に一任されてるしねえ」


愕然とし、凍りつく10人。


「ふっ、ふふふざけんじゃねえぞ!ふざけんじゃねえぞおおおおおおおおおおお」


バスカが愛用の剣を握りしめる。


「お?やる?こっちの平均レベル、そっちの2倍だけど。


 君ら大半半死半生だしねえ。正当防衛なら殺しても罪にならないし、大歓迎だよ」


「まーまー、あんまいじめてやるなって。


 いいよ、火傷治療薬に傷薬、売ってあげる……君らの装備全部と、有り金全部と、奴隷契約承認と引き換えにねえ」


にやにやと、嫌らしい笑みを浮かべる3人組。


バスカは怒りのあまり血管が浮かび上がり、視野が酷く狭窄していた。


「な、ふ、ふざけんじゃねえぞ! 奴隷契約の強制は、冒険者のルール違反だろ!


 しかも今回は完全に嵌めてるじゃねえか! 言い逃れなんか出来ねえぞ!」



「そうだねえ、普通ならこんなことしたら、まともにギルドでPT組めなくなっちゃうんだけどねえ。


 君ら、新人の癖に暴れすぎたんだよ。


 今回のこれもね、ギルド内での最大派閥で暗黙の了解が出ることになってるんだ」


「そーそ。これは間違いなく君らの同輩だろうけど、君らの情報を売った人がいてね。


 御親切に、君達の装備とおおまかなレベル、性格と集まりの序列までこと細かく……ね。


 お陰で君達の仲間の交渉を一手に引き受けていた、頭の回る子達は引き抜いて、内部分裂させるのは簡単だったよ」


「いやあでもまさか、いくら交渉役じゃないにしても、甘すぎでしょ。


 自分達の生命線の薬を、いくらこっちが用意するって言っても丸々信用して持ってこないなんて」



呆然とする10人。


その静寂をバスカが破った。


「……くそふざけんな! 俺は装備も渡さないし奴隷にもならない! まだ動けるんだからな!」


「なっ、ふざけんなよ! お前が考え無しに飛びついて、薬代まで武器につぎ込むからこんなことに……!」


「うるせえうるっせえ!


 動ける奴、さっさと行くぞ!……覚えてろよ、いつか絶対殺してやる……!」


「お、おい、見捨てるのかよ」


「じゃあお前、奴隷になりたいのか!」


比較的軽症な男が慌てたように問うが、その返された問いに是と答えることはできなかった。


「……わかった」


「っ、み、見捨てるのかよ!まってくれよ!」


そうして、動ける6人を引き連れてバスカはそそくさとその場を後にした。



残された4人は――。




「冷たい奴らだねえあいつら。


 仕方ないから、所有物全部と君らの奴隷権でいいよ。はい、この契約書に血判押したら、命は助かるよー」






――奴隷に身を落とした。



25階層での出来事。魔石と通常ドロップ品で3000~8000程度の稼ぎを見越しています。

バスカ君達の捨て身の壁、釣りとファイアレインで13万Gと多めに稼げ、魔法書で20万G合計33万Gを、20:1でわけて、バスカ君達の稼ぎは16500G。一人頭1650Gです。お疲れ様っ!


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