12話 初迷宮2 8/1改訂 物語の大筋には関係ありませんのでスルー可。
12話
初迷宮2
慎重に身の安全を最重視しながら15階まで進んだあたりで、状況に変化が生じた。
「やばいやばい、あんなん手に負えるかよ。とっととギルドに報告して、排除して貰うぞ」
「なんでこんなところにナイトクラスが出るの!?
……あのチームいつまで持つかな?」
「馬鹿、余計なこと考えるな。巻き込み事故でも起こされたらたまったもんじゃねえ。
上手く倒せりゃぼろ儲けだろうが……レベル30台の俺達が勝てる相手じゃねえよ」
進んで行く方向から、鋼鉄製の装備品で身を固めた三人組の冒険者が声を顰めながら怒鳴るという器用な真似をしながらこちらに駆けてくる。
その様子は明らかに焦燥としており、走る以上の動悸の激しさが窺えた。
冒険者狩りをしていた頃の習性で思わず身を隠してしまったが、これは自然に情報を貰う方が良さそうである。
身を潜めていた岩陰からわざと足音を立てながら姿を表した。
「うおっ、脅かすなよ人間かよ」
「……ちっ」
「はぁ……」
瞬時に戦闘態勢に入った彼らは、こちらの姿をはっきり目にすると構えた武器を納めた……が、各々柄に手をかけており警戒を解いた様子はない。
当然のように人間同士での強盗行為もあり得るので、当然の心構えである。
今回はそういった目的ではないため、両手を上に上げ呼びかける。
「敵対する意思はない。基本的に冒険者同士は不干渉というのはわかっているが、なにやら物騒な単語が聞こえてきたものでな」
少なくとも即座に攻撃されることはないと思ったのだろう。
三人組の内一番背の高い男が一歩前に出る。
その陰に隠れるように、やや小柄な女冒険者が身を屈め辺りをくまなく観察している。
レベル自体は先程聞こえてきた通り低いようだが、冒険者としての基本はできているようだ。
魔物を警戒すると同時に、俺の仲間が近くに潜んでいないか警戒しているのだろう。
「ちっ、ああ……時間がねえから手短に言うとだな、ナイトオークが出た。しかも色違いのユニーク種みてえだ。
悪いことは言わねえ、お前さんもさっさと逃げな」
「他にも何組かこの階層にいたみたいだがほとんどは逃げた。
私達も他の冒険者に聞いて、雑兵オークと見間違えたんじゃって半信半疑だったんだけど……。
ここの通路の奥を右に曲がったところで新人パーティが捕まっちゃってるのを見かけてね」
長身の冒険者の後を引き継ぐように、今まで辺りの様子を窺っていた女が話し出した。
がっちりとした兜をかぶっているため表情は見えづらいが、話す様子から興奮状態であることがわかった。
「なんで下層まで来てるかはしったこっちゃねえが、奴は本来50階層以降に出る魔物の中でもかなりの上位だ。
奴を倒せる可能性がある冒険者はゲートを使って50階層からスタートするからね、悪いことは言わない、今日は狩りは諦めて帰りな。
信用できないって言うんなら、ちょっくら様子を見てくると良い。自分の命をベットする覚悟があるならね」
見た感じ嘘をついている様子はない。
これで演技なら、彼女は是非詐欺師になるべきだ。
「モーリア、無駄口が過ぎるぞ。
というわけだ、俺たちはもう行く」
「そうか、感謝する……流石にそんな上位種を相手にする自信はないからね。
随分息が上がっている。これ、使ってくれ」
疲労回復飲料の中でも、眠気や虚脱感の副作用が小さく効果も高いお値段お高めの物を女冒険者に渡す。
出し惜しまず素直に教えてくれた感謝の気持ちを込めて、である。
冒険者にとって情報は命だが、常に出し惜しみするものではない。
出し惜しんで逆恨みされたのでは割に合わない、そのさじ加減が難しいのだ。
どうやらそれが好意的にとられたのか、帰る道中一緒にどうだと気を使って貰ったが、魔物からドロップした重量のあるアイテムを置いているため、別のルートを通る必要があると丁重にお断りした。
隠密行動には自信があるのだ、死体から所持品を剥ぎ取るなり、上手くいけば漁夫の利が得られるかもしれない……。
最悪見つかっても、このレベルではあり得ないステータスがあるのだ。
ナイト種は重量のある装備を身につけているため、逃げるだけなら容易い物である。
■
「あれは……確かに間違いない。騎士オークか。
剣スキルレベル2の技も出しているし、表皮の色も通常より赤い……ユニークモンスターだな」
そこには、鋼鉄製の全身鎧に身を包み、兜の下から醜悪な豚面を覗かせる、2m程のナイトオークに蹴散らされている4人組がいた。
ユニークモンスターとは、その種の中でも特殊な成長をしたものだ。
非常に強力なスキルを身に着けていたり、特殊な効果の毒を使ったりする。
ナイトオークは、オーク本来の強力な膂力に加え、様々な武器スキルを身につけた強力な魔物だ。
今回のあの騎士オークは、本来のナイトオークに比べて遥かに高い武器スキルを操っている。
それに加えて体格に優れ、それに見合ったステータスを持っているのだろう。
ユニークモンスターは、その同一個体種と異なる点がある場合が多い。
大抵の場合皮膚の色や大きさが違ったり、本来あり得ない器官がついているため、魔物の特徴をきちんと把握してさえいれば不用意に近づくことはない。
駆け出しや、不勉強な冒険者が知らずに挑んで殺されるなど良くある話だ。
「称号の下剋上があるし相性的にはかなりいいんだが、今のレベルじゃあHP的にリスクが高いな」
少し高くなった岩棚に登り、出っ張った部分に身を伏せ、辺りを念入りに警戒。
不意打ちや隠密中の者が不意打ちに晒されるなど、三流の手管だ。
"補正持ち"のような人間、正義感に溢れた人間ならここで叫びながら突入するのだろうが……。
俺は利が大好きな一般人であり、そんな御立派な思想は持っていないので観察に徹する。
俺の持っている魔法装飾品中では結構な値うち物の隠密のアンクレットと、称号:隠密が本領を発揮する。
装備とスキルと相乗効果が可能にする、高レベルの存在隠蔽が観察を容易にする。
(やはり、かなり上の層からの迷子みたいだな。いや、どっかの馬鹿が逃げ回るなりしてここまで引っ張って来たとか?
通常なら考えられない事態だな、これは)
視界の4人組は今にも崩壊しそうだが、その内1人の、まだ若干幼さが残る顔立ちの、赤毛短髪で盾持ちの前衛の戦士がが果敢に時間を稼ぎなんとか戦線を維持している。
べこべこに歪な形になった兜と装甲の一部が傍らに転がっており、ナイトオークの攻撃の熾烈さが見受けられる。
もう1人の、肩で切りそろえた茶髪で、要所を防具で固めてローブを羽織ったいかにも魔法使いルックな女……。
おそらく聖職者が的確な支援魔法を使っているようだが、いかんせん残り2人が腰が引け、まともな戦力になっておらず足を引っ張っている。
このままでは戦線は維持できないだろう。
「GOOOOOOOOO」
「くそ、これ以上持たねえぞ! スイッチだ! 一旦二人がかりで抑えて……」
「ひいい、なんでこんなとこに騎士種が出るんだよ!」
「勝てないって、逃げようって! せっかく伸ばしてた髪も引きちぎれちゃったし最悪だよもお!」
「おい!そんなこと言ってる場合じゃねえだろ!」
赤毛の戦士が叫ぶが、腰がひけたクローズヘルムで顔が見えない男は錯乱しており、ひたすら槍を振りまわしている。
短刀二刀流の一風変わった髪型の女は、逃走することしか頭に無い。
会話を聞くに、ナイトオークの剣技に巻き込まれて、あのような斬新な髪形と相成ったようだ。
「そんなことを言ってる場合じゃないでしょう! 詠唱する時間を稼いでください! 今走っても、逃げるに逃げられません!」
「ならお前が出ろよ! もうヤだ! 私は女の子なんだぞぉ……」
なにやら不穏な空気が流れているな。
半泣きの女冒険者が、ちらちらと辺りを窺っている。
あの女……やらかす気か。
「ご、ごめんねっ、恨まないでねっ!」
「わっ、馬鹿誰が引けといった!」
あ……あーあ、前衛芸術のような髪型の女が、髪を乱しながら仲間を囮に逃走。
気弱そうな長柄持ちは腰が抜けそう。
あの盾戦士と聖職者、終わったかなあ。
何気に逃げた女が一番装備が豪華だな。
……あのまま殺されてくれれば装備が回収できたのに。
「GUGAAA」
「ひい!やめ、やめて――」
(あ、あ、あああ! あのオークが持ってるバスタードソード、まさか羽鋼製か!?
ナイトオークの標準装備じゃないってことは……上層の宝箱から魔物が拾ったもの、だな。
欲しい!あれは欲しい!
倒すか、ああいや、倒した後あいつらに所有権主張とかされたら面倒だな。あいつらが死ぬのを待つか?)
思案に明け暮れていると、いつの間にか戦況に変化があったようだ。
「――ゲロン!」
「ぎゃあああああ!手がてが、ぁぐ、が、僕の手が」
不用意に動いた槍持ちの戦士――ゲロンというらしい、の右肺から先を、ナイトオークの剣技『ハードスラッシュ』が引きちぎったようだ。
「……げ、ゲロ」
「――ナイト、もうあの人はだめです!今のうちに引きましょう!」
「……っくう、すまないゲロン……っ行くぞ!」
(引くなら槍持ちがやられた瞬間すぐに引けよ……。
ああだめだな、あの様子じゃ聖職者の方は足を負傷してる。
逃げきれそうにない――が、これ以上待っていたらギルドから依頼を受けた冒険者が来るか。
依頼や報酬無しでも、ナイトオークのユニーク種が単独でこんな浅い層にいるなんて、ある程度のレベルの冒険者からすれば垂涎の獲物だからな。
それに、あの男女二人から薄っすらと感じるこの感じ……まさかとは思うが)
案の定逃げようとした聖職者の女が、ナイトオークの剣+素手スキル『ショックウェーブ』で吹き飛ばされ壁に激突する。
「GYAUGUA!」
「きゃあっ」
「くっ、クーシャ! ちぃっ、このままじゃ……」
コンポジッドボウの縮小を解き、弓スキル『急所射ち』と隠密スキル『サイレントキル』を併用させ……撃つ!
「GUGAAAYAAAAAAAAAAA」
斜め向かいから放たれた矢が左目を眼窩から吹き飛ばし、突然の暗闇と激痛に剣を振り回しながら錯乱するナイトオーク。
「ちっ、目から脳を撃ちぬくつもりだったんだが、そう都合よくはいかないか」
「な、なんだ!誰かいるのか!?」
「おいお前、この場のアイテムの所有権と、PT全員の全財産を譲渡しろ。
手持ち分だけでいい。5秒で決めろ」
『五月雨射ち』
『パワーショット』
『パワーショット』
しゃべりながらも手を休めない。
熟練の弓の腕前で、ばら撒くように速射する五月雨射ちも狙いが付けづらいパワーショットも、的確に弱い部位に当てていく。
ああもったいない、敵が固いから矢がの穂先が潰れていく……再利用は絶望的か。
「あっ、ああ、俺のも、こいつのも持ってってくれていいから!助けてくれ!」
さすがに自分の立場が分かっているのだろう。
別に承諾を得ずとも、放置しておけば自分達は死に、自動的に俺の懐にその装備や財産が入ってくるのだと。
そう、これはあくまで、何か含んでいることがあろうがなかろうがあくまで親切心なのだ。
「いいだろう、その女を連れてなるべく離れろ」
「恩に着るっ!」
わざわざ親切に命を救っているのは、微弱にだが、あの2人から不思議な魅力と引力を感じたのだ。
この感じだと、"補正"があまり高くはないのかもしれない、となぜか俺は奴らが"補正持ち"だと確信を持っていた。
そもそも冷静に理屈だけで考えても、こんな浅い層で50階層レベルを越えるユニークモンスターとエンカウント。
しかも相手は羽鋼製の武器持ちなど、普通どう考えてもあり得ない。
きっと彼らは、その中途半端に感じる"補正"が呼び寄せる、イベントという名の試練に打ち勝つだけの力が無かったのだろう。
もしかしたら、こうして自分が介入して助けることまでイベントのシナリオに含まれてやしないだろうな……と薄ら寒い想像をしながら矢を放ち続ける。
「ああくそ、矢切れ……大して持ってこなかったからな」
顔に2本、庇っていた両手に8本、両足の関節部分を中心に5本。ハリネズミのようになっている。
鋼鉄の防具でガチガチに固めていた相手なら上等だろう。
レベルがある程度あれば、力や器用さのステータスが上がりもっと刺さっていたのかもしれないが、今そんなことを考えても仕方あるまい。
『ダブルスロー』
投げナイフを2本顔面めがけて投げつけながら、ひらりと岩場から飛び降り、突っ込む。
「うおおおおおあああ!」
槍スキル『フルチャージ』
一気に加速したその速度をそのまま威力に変え、渾身の力で突きを放つ。
「GUJAAAAA!!」
「ははっ、漲るぞ……『下剋上』のプラス補正」
のけ反りノックバック状態の内に追撃を図る。
素早い足さばきでオークの側面に回り込み、
『足払い』
すねの骨を避け、人間で言うアキレス腱の辺りをばっさり切りながら転倒させる。
「よし、し……くうおっ」
転倒した状態から『薙ぎ払い』を放たれ、なんとか重装スキル『部位受け』で、装甲の厚い部分で受け流す。
「ち、しぶとい……!」
1歩半下がり、投げナイフスキル発動。
『パワースロー』
鋼鉄のナイフが、剣を持っている右腕手首の、やや薄めな装甲の上から強引に突き刺さった。
「GU,GA」
「ふん、それで思ったように振れまい。これでっ」
『サイクロンスラスト』
手の中で高速で乱回転した槍が、ナイトオークの残った左手を中心に上半身をずたぼろにする。
「GU,GYA……」
「これで……トドメだ!」
倒れているナイトオークの上に飛び乗り火のナイフに魔力を、発動に必要な量を超過してぐいぐい注ぐ。
(燃費は悪いがこれで終わりだ、喰らっとけ!)
――――過剰に魔力を注がれた火のナイフの刀身が白熱し、高温の熱を持つ……!
「ああああ!」
『シャープエッジ』→"属性変化"→『フレイムシャープエッジ』
――シャープエッジにより鋭さを増したナイフスキルが、火属性の付加されたナイフによってフレイムシャープエッジとなる。
属性付加で鋭さを増し、さらに強化スキル発動によって瞬間的に一気に温度を増したナイフが、ナイトオークの兜ごと頭蓋から肩までを真っ二つに寸断した。
魔法武器を使う場合、属性攻撃を発動するだけなら魔力だけで発動できる。
だが、魔法効果を伴った強化スキル技は、魔力だけでなく武器スキルを上げないと発動できないのだ。
火のナイフは魔法武器の中でも最下位レベルの力しかない。
このような弱い魔法武器で強化スキルを放つには、膨大な魔力に、その武器を完璧に使いこなし、武器の力を限界まで引き出すだけの能力――。
――そう、熟練度レベルを3まで上げないと発動できないのだ。
「ぜぇっ、はあっ、かってえこいつ……疲れた……」
ずるりと座りこんでしまう。
短時間にスキルを連発しすぎた。
せっかく武器熟練度がMAXなのだから、スキルばかりでなく普通の通常攻撃もうまいこと使って行かないと速攻でガス欠になりそうだ。
その際、火のナイフを見えないように布で覆い隠し荷物袋にしまってしまう。
火のナイフで強化スキルを発動できるとばれるよりも、高価な装備を持っていると思われた方がマシだからだ。
■獲得品
羽鋼のバスタードソード
力の指輪Ⅱ[力++]
騎士の心臓
おおう、魔法装飾品ドロップまで出た。
騎士の心臓は騎士系魔物からしかドロップせず、薬の材料になるため結構な高値で売れる。
これはほんとに、主人公補正持ちの運を横取りした感じだな。
「す、すげえ……あの騎士オークを、補助なしでソロで倒した……すげえ!
てか全然見たことねえスキル連発! す、すっげえっ」
「……っいつつ、あなたはすげえしか言えないの? それはともかく、助かりました。恩に着ます」
「ああ、いいよ。ちゃんと報酬は貰うからね」
にこにこで羽鋼のバスタードソードを眺める。
通常の鋼より遥かに軽いが強度が落ちない羽鋼。
攻撃速度、攻撃回数は勿論増え、スキル使用時の消費HPが5割は減るだろう。
「えっと、報酬?」
「ああ、クーシャは気絶してたんだっけ」
「この場のアイテムの所有権と、あんたとこいつの手持ち分の全財産の譲渡。
それが契約内容だ」
「全部……装備も!?」
「そう、全部だ」
驚いてる驚いてる。
まあ寝ている間にこんな契約結ばれてたら驚くか。
「す、すまんクーシャ……あの時すぐに返事しなきゃ、俺らどっちも死んでたかもしれないんだ」
「ぐっ、あ、あの、ムシのいいお願いだとわかってるんですが……」
懇願するように見上げてくる、クーシャという、長柄武器である棍術を納めた聖職者。
茶色の目に茶髪を結わえて、今はポニーテールにしている、やや小さめな女だ。
「ちなみにだ、あの時奴隷契約を結べと言ってもよかったんだぞ」
目は大きく小顔、顔立ちも整っていて、胸もなかなかある。
あの役所の巨乳のニュウとか言う奴ほどではないが。
しかしこの顔ならさぞ高値で売れるだろう。
さらに現役冒険者で複数の魔法を所持。
金持ちに売りこめば、目が飛び出るほどの値段になりそうだ。
「それは、重々承知です。1つだけ、どうしても譲れないものがあるんです。お願いします!それだけは……」
お願いします、という割には殺気が漏れている。
下手に断ると戦闘も辞さない……ってか?
この様子に、この性格、物語の展開的に考えるならば、形見的な何かだろうか。
なんとなくだが、アンクレットから良品のオーラがぷんぷんしてやがる。
「そのアンクレットか」
「あ、いえ、確かにこのアンクレットは高いものですが……この指輪なんです」
「クーシャ、この指輪大切そうに持ってたもんな、大事なもんなのか?」
「母の……形見なの」
やっぱり、という顔を押し隠す俺と、愕然とした表情をするナイトという赤毛ツンツン男。
特徴でかい、筋肉、頭ツンツン。以上。
「俺は、なんて契約を……すまん!クーシャ!
あの、ほんと助けてもらっておいて申し訳ないんだけど、指輪だけは勘弁してくれないか?いや、もらえませんか?」
ぱっと見た感じ、指輪の方からは大した能力の増加値は感じない。
おそらく本当にただの形見か、後々パワーアップイベントでも起こる鍵なのかもしれない。
付与能力は平凡でも魔法装飾品だ、売ればいい値段にはなるだろうが……ここで戦闘にでもなったら目も当てられない。
せっかく穏便に他の装備を引き取れるんだ。というか正直儲け過ぎて怖いんだ。
それに、ここで補正持ち候補に恩を売っておくのは悪くはない。
「それでは契約と違う……といいたい所だが、そんなに大事なものなら強引に取るわけにはいかないな」
あからさまにほっとする2人。
「とりあえず、迷宮出るぞ。流石にここで装備を譲渡するわけにもいくまい」
といって、とりあえずさっき死んだ気弱な冒険者から装備と所持品を剥ぎ取る。
2人は気まずそうにしているが関係ない。
というかこれが迷宮内での常識だ。
それがわかっているから文句を言って来ないのだろう。
"補正持ち"……というより、漫画やアニメにありそうなキャラクターのように文句の一つも出るんじゃないかと思っていたので、正直意外だった。
死体を持って帰りたいなどと言われたらどうしようかと思っていたほどだ。
……そういえば、オークから逃げようとした時この男のことを見捨てようとしていたな。
"補正"が低い程、性格が常識人に近づくのだろうか……?
◇
「っふう、やはり地上が落ち着くな」
迷宮から出て、すっかり日が暮れた地上で、夕焼けの赤を浴びながら伸びをしていると、
「あの、約束の装備と所持品です」
「俺の分も、受け取ってくれ」
「ああ、ありがたく頂くよ」
赤毛のナイトは、名残惜しそうに剣を見ていた。
材質はそこそこ良い鋼鉄で、剣の形状は半月に近い程曲線を描い幅広い剣。
種別的にはファルシオンか。
曲刃で幅広重厚、その重量を生かした振り下ろしが強力な武器である。
癖が強いし俺の好みではない……珍しいので買うときは高いだろうが、いざ売るとなるとなかなか売れないので安値で買い叩かれそうだ。
「お前ら、予備の装備くらいはあるんだろ?」
「はい、ランクは下がりますけど、一通りあります」
「ああ、なら大丈夫だな……この形状の剣は?」
「……ない。ファルシオンは余り一般的な剣じゃあないからな」
「ふうん、そうか」
一度刀身を撫で、派手な音を立てながらファルシオンを鞘に戻し、ナイトに放り渡す。
「あっ?」
「そいつはお前が使うといい。余り盾越しに攻撃するのに向いてるとは思えないが、こだわりか、愛着があるんだろ?」
どうせ買い叩かれるなら、恩に着せておくのがいいだろう。
俺の感通りこいつらが"補正持ち"だった場合、ここで印象に残しておけば、イベントが起きた際うまく介入できるかもしれない。
そのためにわざわざ、慣れない格好をつけた仕草で大物感を出しているのだ。
「ああ……ああ!そうなんだ! でも……いいのか?
クーシャも俺のも、契約とは大分違う」
「気にすんな。
そうだな、変に目立ちたくないからな、騎士オークを倒したのが俺ということは口外しないでくれ。お前らはなんとか逃げ切った。
その剣と装飾品は口止め料ということでいい。
……じゃあ俺はいくよ」
「あ、なあ、名前教えてくれよ!」
「スティルだ。クーシャにナイトだったか。また縁があれば……ってやつだ」
余りにわざとらしいその仕草は、娯楽小説でさえ乏しい世界の少年少女の心をつかんだようだ。
命を救ってもらい、報酬まで減らしてくれた……それ以上の憧れの様な視線を感じる。
下手に頼られるようになるのも、纏わりつかれるのもごめんなので、突き放すような空気も忘れてはいけない。
どうせある程度の実力者とでも思っているのだろうが、こっちは君達より新参者の若造なんだけどね……。
(それにしても、本当に儲かった。あの気弱君も大分持ってたし、羽鋼に魔法装飾品までゲット!
補正持ち狩りをしたくなるほど好調だな。いや、調子に乗るな俺、補正を甘く見たらいけない。
万全の準備をした状況さえ覆されかねない。
……適度に距離を置くのが一番だ)
■獲得品
・羽鋼のバスタードソード
・力の指輪Ⅱ[力++]
・騎士の心臓
・錬鉄の長槍
・鉄棍
・鋼鉄のスプリントメイル
・錬鉄のリングメイル
・錬鉄のチェインメイル
・錬鉄のクローズヘルム
・レザーヘルム
・錬鉄のガントレットx2
・レザーグリーブ
・鋼鉄のグリーブ
・術者のアンクレットⅡ[魔力++][知力+]
・力の指輪x3[力+]
・魔力の指輪[魔力+]
・敏捷の腕輪[敏捷+]
・器用のアンクレット[器用+]
・出血毒消し
・麻痺毒消し
・出血毒消し
・聖水
・回復薬弱x3
48000G
レベル21→23
8/1 結構いっぱい改定。
補正持ちは都合のいいことが起こるっていうけど、スティルも結構ご都合主義だよね。
ということでその階層(15階層)にいた冒険者が複数人気付いていたということにしました。
50階層以下のレベルではこのオークに勝てる人はいないし、そのレベルの人はゲート使ってこの階層通らないよ!大分時間があった、やったね!
と考えていたのですが書くのが面倒でカットしていました!
まあその日に出くわしたのは偶然ですけど、そこまで書き加えちゃうと物語全体の改定がががが状態になるのでご勘弁を。
ちなみにもうちょっと詳しい内容を活動報告に書いてますが、もし見てやろうかなという方がいましたら、ネタばれなので最新話まで読んでからご覧下さい。