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10話 一方的な出会い



10話

一方的な出会い








(さてどれにするか。新人の人相と装備をメモってた情報屋の数は数多。


 あまり腕が良すぎる相手だとペースを持って行かれっぱなしになるからな。


 能力はあるが経験が薄そうな……あれでいいか)




「やあお兄さん、いい鴨はいた?」


「あっ、ああ?……見覚えがねえな。客か?」



急に声をかけられ挙動不審になっている若い情報屋らしき男。


まあ盗み見だし、どちらかと言えば後ろ暗いことではあるから気持ちはわかるが……それで情報屋として大丈夫か?



「そう、客だよ」


「……売る方か、買う方か」


「とりあえず買う方で。10階層から20階層までの魔物のデータもらえるかな。希少種(レア)含めて」


「……あ?希少種含めても、50階層までなら迷宮ギルドでほぼ完璧なデータが買えるだろう。20階層までならはした金だ」



情報屋は困惑した顔をしている。


わざわざ情報屋で買う情報ではない。



「優しいねお兄さん、わざわざ教えてくれるなんて」


「っ、ああてめえ、駆け出しか?」


「御明察。この時期に序盤階層の敵データなんてギルドで買ってたら、初心者ですって宣伝してるみたいなものじゃないか」


「……なるほどな。でもな坊主、この情報を俺が売ることもできるんだぜ?」


「別に調べればすぐにでもわかるでしょ、その程度のこと。目立たなきゃいいんだよ。


 というかむしろ、油断ならない新人って思われるならそれはそれでお得だと思うけど」


「ははは、違いねえ。いいだろう、10~20なら5000Gでいいぜ。


 ちなみに迷宮ギルドなら2倍の値段で魔物データを冊子でくれる。俺の場合は紙がもったいねえから口頭だ。メモりな」


「いいよ、記憶力には自信がある」



称号:暗記3:膨大な数の呪文を暗唱できる。[知力++++][魔力+]持ちだからね。


暗記には補正がつくのさ。



「へえ、値引きも無しか。まあいい、言うぞ」



早口で言われていく魔物の生息状況、サービスなのか冊子に載っていなそうな詳しい情報から、おおまかな罠の種類まで言ってくれている。


情報屋にしてはお人好しというか……。


ゲームの頃wikiで見た情報と細部は違うものの、大差は無いようだ。


と言っても細部は違うわけで、これからも密な情報収集が必要だな。



「といったところだ。どうだ、覚えたか?」


「ああ、問題ない。ところで売る方の話だけど」


「ああ、といってもあまりでかいネタは買うだけの現金がねえからな」


「大丈夫、小粒のネタだよ。


 さっきまでお兄さんが観察してた孤児新人で、15人ていう大所帯のコミュニティができているのは知ってるかな?」


「っはあ。お前さん孤児出身かまさか、てか、今日来た……でその装備か!?」


「ノーコメントで……。調べればわかることだしね」


「ははは、ほんと、得体のしれない野郎だ。まあいい、続きを」


「彼ら凄く生ぬるい割に経済状況自体は悪くないよ。彼らの装備とおおまかなレベル、性格と序列までの情報を売ろうかな」



馬車で同乗したトリッパー集団だ。


申し訳ないが、彼らには俺の小遣い稼ぎになって貰おう。



「へえ……随分と調べてるな」


「たまたま機会があってね」


「15人分の情報はでかいな。2000Gなら買おう」


「装備はそこそこレベルもまあまあ高めだ。


 まとめて借金でも背負わせれば奴隷軍団出来上がりだよ?8000G」


「馬鹿野郎、新人には皆目つけてる。その内すぐに性格からなにからまで出回る。3000G」


「だからこそ現時点で詳細が分かるのが大きいんじゃないか。どんな情報も鮮度が命でしょ。7000G」


「たかが新人の話だ。チンピラ以外買わねえよ。4000G」


「6000Gと1~10階層の魔物生息情報と、1~10階層のスイーパーについての情報」


「――ってめ、最初からその情報聞くつもりだったな。その情報だけで5000G貰ってもいいくらいだぞ」


「スイーパーの詳細なんて酒場ではビール1杯で聞けるでしょ。

それじゃあ、サウスタウンに着くまでに兵士とコネを作っていた将来有望な孤児新人のリストもつけようかな」


「――っかあ、お前が一番有望じゃねえのかよ……。5000Gと情報だ」


「そりゃ光栄だ。……それで手を打とう。これからもよろしく頼むよ。スティルだ」


「ヨージだ。お前さんは敵に回したくねえなあ」



これで、なんの金もかけずに1~20階層までの敵情報と1~10階層のスイーパーの情報をゲットだ。


この情報を新人共に又売りしてもいいんだが、来ていきなり情報屋の領分を侵すのもあれだから、やめておくことにする。


情報収集はこんなところでいいだろうと、50000G返済すべく役場に向かうことにした。









サウスタウンの街役場の中に入ると、外気から比べると大分温かかった。


空調用の魔法アイテムでも使っているのだろう。


俺も自分ホームを持って、空調アイテムを買える程稼ぎたいものだ。



この街役場は国営で、サウスタウンの冒険者ギルドと迷宮ギルドの統括をしている。


つまり冒険者、迷宮とギルドをわけてはいるが、どちらもお役所どころの地方部署の一つにすぎない。



役場で働いている事務員だが、あちらの世界のようにもやしはいない。


皆力強いオーラを感じる。流石にサウスタウンの住民だ。


中に入って数秒、ざっと事務員たちの様相を見回し、カウンターへ赴く。


中には、ぽてぽて(・・・・)とした天然ボケしていそうな巨乳のの事務員がいたが、絶対に近寄らない。


俺の直感が、というか見た感じ……漠然とした違和感を感じるのだ。この世界の人間から浮いている感覚。


あれ"補正持ち"……だろ。


あくまで見た目だけの話だが、手続き中に書類ひっくり返したり、人の個人情報を「ええーっっ!○○ですかーっ!?」とか叫んで公開しちゃうまぬけなタイプに違いない。


俺は女も巨乳も大好きだが、色気につられて百害あって一利(体)しかないやつに迂闊に近寄るつもりはない。



「手続きをお願いしたい」



俺が選んだのはがっちりとした肩幅のむさいおっさん。


一番無難だろう。



「はい、どちらの手続きですか?」



ぐっと声をひそめる。


到着早々に50000G返済するのだ。目立たないに越したことはない。


正直、目立たないように時間をおいてから返済したかったのだが、地位が孤児だとトラブルが起こったとき損する可能性が高いのだ。


いくらある程度の兵士にコネがあるといっても限界がある。



「孤児育成支援金の返済だ」



「ほう、お早い。2つ隣に美人がいるのになぜこちらの受け付けに来るのかと思えば……将来有望ですな。


 書類を準備してきます」



この仕事をして長いのだろう。


声ひそめた意味もしっかりと読みとっていた。



「よろしく」









「ええぇー!!今日来たばかりなのに、もう孤児基金の返済ですか!?」









がたんっ、と膝を受付にぶつけてしまう。


おいまさかわざわざこっちの書類を見に来たのかこいつ!?


……と思ったら、2つ隣の受け付けで50000G支払おうとしている孤児新人がいた。


「ああ、色んな人と縁があってね……。


 センタータウンで地主の家の友人に、さっさと孤児から抜けろってまとまったお金を押しつけられちゃったんだ」



おうおうおう、3人目か。


顔はかなりの美形で、中性的な顔つき。なのにどことなく惹かれる、ほっとけない感じ……おそらく補正持ち、登場人物だな。


というか、属性的に主人公(ヒーロー)クラスじゃないか?


ヒーローが主に引き付けるのは異性……その中でも格段に個性が強い異性が中心だ。


男の俺にはいまいちわからないものがあるのかもしれない。


……ていうか、地主の家の友人って絶対お嬢様とかだろうな、想像できる。


というか、色気につられてあっちに並んでたら、天然巨乳だけじゃなく主人公クラスともフラグが立っていたわけか。


色気出さなくてよかった、怖い怖い。





■それからの会話のダイジェスト―――――


「そういう人との縁をつなげるあなたも凄いと思います!私はニュウといいます」


「ありがとう。僕はオリシュというんだ。よろしく。君もなにかの縁があってここに?」


「……いえ、私実は、国保有の奴隷なんです……」


「奴隷!?なんだって!?」


「見た目と事務能力を、国家所属の奴隷人材の能力チェックをする方に目をとめられたらしくて、国が私を買い上げ、国保有の奴隷に。


 国保有になった奴隷は教育や礼儀、職種によっては戦闘訓練を受けて、色んな所で働くことになるんです。


 それで、私のようなお役所勤めの奴隷は、一般の方でも手続きしだいで買い上げることができるんです」



「な、なんだって!ほんとかい、それは!?」



「……はい。勿論普通の奴隷よりは高いんですが、買うことができます。


 ここは冒険者の方が多くいらっしゃる所なので、結構高い確率で買われると同僚から聞きました。


 仕方ないことだとは思ってるんですけど、知らない人に買われるかもと思うと、不安で……」




………………凄いな、これがテンプレ展開か。


――――――――――――――――テンプレ通りならこの後は……。





「あなたみたいな人だったら――なんて、ごめんなさい」


「いいよ、待ってて。すぐお金を貯めて君を買い戻しに来る。すぐに奴隷から解放するからね」


「えっ」ズキュン


「キラン」バキュン


「いやん!」ズギャン



――――――――――――






…………………………ひどい茶番を見た。





あまりの茶番っぷりに呆然としていると、受付のおっさんが戻って来た。



「お待たせしました……こちらが証明書になります。ご確認を」



称号『独り立ち』:あなたは独り立ちした。[全ステータス+] を得ました。



「おや、あなた以外にも返済者が。今日は6人ですか。今年はなかなか豊作ですね」


「他に4人もいたか」


「ええ、あなたとあの方を含め、有望そうな方が多いですね」



人数までは言うが、返済者の名前や経歴を明かすことはまずないだろう。


役所勤めの人間が情報を迂闊に漏らすと罰があることもある。


……あの天然巨乳ならありそうだが。


ちなみにだが、このおっさんは奴隷ではない。



「ついでに迷宮探索の許可証も発行してくれ。


 わざわざ迷宮ギルドに行かなくても、ここでも申請は可能なんだろう? 申請書類は、この通り作成済みだ」


「おや、良くご存じですね。確かにここでも発行は可能ですが、ここで許可証を発行された場合諸注意や解説を聞けませんがよろしいですか?」


「構わない。下手にギルドで手続きして、『新人講習』なんてまとめてやられたら目もあてられない。


 飲み代や小遣いが欲しい『自称先輩』に顔でも覚えられたら面倒極まりない」


「確かにそうですな。その様子だとある程度のことは調べてきているようですし、構わないでしょう。


 そういえば知っていましたか?


 ……こちらでも冒険者申請手続きが可能なのを公にしていない理由は、新人冒険者に諸注意をするためだけじゃないんです」


「ほう、初耳だな。ご教授願えるかな?」


「それはですね、『仕事が増えるから』という人間味あふれた理由ですよ」



そういって、にやりと笑う受付の男。



「……なるほどな。頑張って働く職員を見ていると、酒の一杯でも奢りたくなるな」



そういって、料金分にプラスして半銀貨を置く。これは銀貨の半分の価値の貨幣だ。



「いやあ、ありがたいですな。催促したようで心苦しいですなあ、はっはっはっ。


 心付けを頂くとやる気が出て仕事が捗るというものです。


 ささっと用意してきますのでそのままお待ちを。


 ああ、先にこちらの針を指に刺して、血液を付着させて頂けますかな?個人登録が必要ですので」



指を刺し針を渡すと、また書類を取りに別室へ行った。


ここでチップを出さないか、ケチると、待合室でお待ち下さいと追いやられ、仕事を後に回されていた所だっただろう。


別に急ぎの用事があるわけではなかったが、金払いがいいと思われていればあちらから融通を図ってくれるようになるだろう。


先行投資的に考えて無駄にならない。



そして特に不備も無く書類の手続きを終え、長々と主人公達が話を軽く盗み聞き、オリシュのこれからの大雑把な予定を把握した所でとっととその場を後にした。



これで身分は一般市民。


大手を振って外を歩けるな。




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