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8話 サウスタウン



8話


サウスタウン





「お疲れです。飯貰いに来ました」


「おおスティルじゃねえか。ほれ、飯と、こいつも持ってけ!


 今日街道で野生の豚仕留めてよお、おすそ分けだ」


「おお実にうまそうだ、頂きます。


 ルーソさんの槍捌きは見事ですからね! さらにそつなく弓まで扱うし、参考にその狩りを生で見たかったなあ」



ルーソの槍スキルはおそらく1の上位。


基本的なスキルはだいたい網羅しているため、もうすぐで2に到達できるか……といったところか。


この若さでスキルレベル2になればかなりの腕前と言われるから、下っ端の兵士にしてはなかなか研鑽を積んでいる方だろう。



(……今つなぎを付けておけば、将来万が一栄達した時にはいいコネになる)



勿論スキルレベルが武器の扱いの全てではなく、間合いの取り方、技の選択は経験に基づいたものになる。


武器の攻撃速度や威力はステータス――力、器用、敏捷など――とスキルの熟練度と掛け算のような形になる。


よってスキルレベルが高ければレベルを上げれば上げただけ飛躍的にに実力が上がって行く。


きっと現実にあったRPGの主人公達は、レベルを上げる前に鬼のような訓練で体の基礎の固まりを築き上げていたに違いない。



「へっへ、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか!」


「おいおい、ルーソの槍捌きが見事ってんなら、俺の剣捌きはサウスタウン一になっちまうぜ!」


「なあにいってやがるへっぴり腰が! てめえのは剣捌きじゃなくて魔法剣だろ!」



今野次を飛ばした男は魔力適性値が高く、銀製の武器に魔法文字(ルーン)で加工した魔力を通しやすい、人工物ではなかなか良い魔法剣を持っている。


そのためスキルレベル自体は1の下位だが、魔力でブーストした近距離攻撃から、魔力を込めた魔強化スキルでの中距離攻撃などの、多彩な攻撃手段を持っているのだ。




――サウスタウンにつくまでの10日程の道のりで、中隊長以外にそこそこの人数の兵士と交流を交わすことができた。


魔物の襲撃で馬車に積んでいたお酒がおじゃんになったときに、賄賂用として多めに持っていた酒を出し惜しみせず兵士達に振るまったのだ。


俺以外にも他に酒を多めに持っていて、出し惜しみしていた奴も勿論いた。


結局その出し惜しんでいた酒も、兵士に騒いだなどと難癖をつけられ、罰だと奪われていたのだが。


おかげで俺とヘネークは、将来有望な(賄賂的な意味で)孤児戦士としてコネを一気に増やすことができていた。



「スティル、明日の早朝にはサウスに着くようだよ」


「ああ、いよいよか」


「孤児戦士は一応安い宿が貸しだされるみたいだけど、そこに入るの? それとも行くあてでもあるのかい?」


「孤児宿なんぞに入る気はないな。狭いし不衛生、治安も最悪……多少割高でも宿を取る」



孤児戦士の宿舎とはいうが、そこは稼げないやつが入るものだ。


50階を突破し、さらに一定額のお金を払うか一定以上の魔石を国に納めなければ、より過酷な兵役が課せられるから皆必死なのだ。


無計画に装備新調などをした新人孤児戦士はもれなくこの宿舎にお世話になることになる。


そしてそのうち何割かは、窃盗、強奪等のいずれかで財産を失うことになるだろう。


この宿舎に住んでいるというだけで他の冒険者たちには舐められるので、より稼ぎ辛くなる……悪循環のスパイラルだな。



「そっか、僕は同じ孤児院出身の身内がいるからそっちを頼るつもりだよ」


「そうか、ではここでお別れだな。お互い無事に落ちついたら飲みにでも行こうか」



といっても、元々連れだって行くつもりはなかったのだが。


確かに新人が一人でいるのも危険かもしれないが、足を引っ張られるのはごめんだ。


落ちつくまでヘネークが無事でいる保証はないが……交渉の末だとしても酒を飲み交わした仲だ。


情をかけ過ぎないレベルでなら、無事をを祈ってやるのは無料タダだしな。







「諸君、諸君らは国に育てられた。つまり祖国こそが父であり、母である。


 両親のために、そう、国のために働いてくれることを期待している」



俺みたいなプレイヤーには、しっかり両親がいるわけだけれど。


……あちらの世界に、だが。



「なお、ここにいる諸君は巨大迷宮ビッグ1の探索、敵の間引きを選んだ者のみだろう。


 今から2年間で50階に到達することが、兵役免除の最低条件だ」



輝かしい未来でも夢見ているのか、明るい面がほとんどだ。


この内何人が、一月後にも同じ表情をしていられるのだろうか。



「しかし、もし50階に到達できなかった場合だが……通常より過酷な兵役を課せられるだろう。


 言わずとも分かると思うが、より危険な地域での兵役となる。心にとめておきたまえ」



暗い未来を想像したのか、さっと青ざめる面々……表情豊かだな、こいつら。


表情を代えないのはごく数名だ。


当然、あの主人公補正持ちだと思われるあのレイツェンも平然とした顔をしている。



「孤児宿所に滞在するものは、手続きを済ませておくように。


 それと迷宮に潜る前に迷宮ギルドには顔を出しておけ。


 それでは各人、検討を祈る…………解散!」



顔見知りになった兵士に軽く頭を下げ、親交を深めた見どころのある孤児に手を軽く振り、荷物を抱えて人込みに紛れた。


――今現在、孤児の集まりは衆人環視下にある。


下手に顔を覚えられれば、新人ですカモですと宣伝してしまうようなものだ。


顔を俯け人目を避けて歩きながら、年季の入った外套をを羽織る。年期は入っているものの、材質自体はなかなかよい品だ。


これで少なくとも新人には見えないだろう。


親しくなった兵士の一人に聞いた、値段が手頃で治安も悪くない、そしてなにより飯がうまい宿に入る。


食は人間のモチベーションを握る……人は何かの生きがいのために働く。そして上手いものを食うために働ける人間は多いと思う。



「いらっしゃい、泊まりかい?それとも飯?」


「泊まり、とりあえず2週間分。飯は食う時に払って食うよ」



じゃらりと銀貨を7枚置く。


値段は前もって聞いている。1泊500G、14日で7000Gだ。


飯代込みにすれば割り引かれるが、毎食ここで食えるわけではないので泊まり分だけにする。


ちなみに1G=約10~20円が目安だが、現代とは価値基準が違いすぎるので大して当てにならない数字だ。


ここで値段を聞かず、さっさと済ませるのには訳がある。


どこかの漫画やアニメにありがちな、施設に入った時に受付で行われる懇切丁寧な説明。


これが行われることで、店主、店員には勿論、周りの客にも注目される可能性が上る。


時期が時期――新人が大量に流入してくる――なので、会話の流れ次第では初心者だな、と睨まれることだろう。


そしてもう一つ、装備を整えて先程の孤児宿舎周辺を見に行きたいのだ。


第三者として見ることで、ここでの初心者狩りのやり方を把握しておきたいのだ。



「はいよ、2階の一番奥の部屋だ。案内はいるかい?」


「いや、急ぎなんでな……結構だ」



カウンターの奥にちらりと、素朴だが見てくれは悪くない娘が見えた。


所謂こういう物語的に見るなら、間違いなく鼻の下を伸ばしながら案内して貰い、フラグを立てるなり玉砕するなりするのだろうが……。


勘違いしてはいけない。


これは甘い少女漫画でも、異世界ライトノベルでもない。


血と臓物が飛び散るデスゲームなんだ。






部屋に入ると、なかなか広めの部屋だ。


冒険者は鎧や武器を置くので多少広い部屋でないと辛いのだ。


手早く擬装用の弱い装備を脱ぎ捨てると、練鉄製のリングメイルを着こみ、その上に硬皮製のクロースアーマーという防具兼衣服のようなものを着る。


膝に筒状の金属のブーツをはいて完成だ。


本格的に迷宮に行く場合は、クロースアーマーを脱ぎ代わりに鋼鉄製のプレートメイルを装備する予定だ。


今日は、というよりこれから数日は迷宮に行かないのでこれは別にいいだろう。


リングメイルとは、チェインメイルの劣化版である。

金属製の輪っかを組み合わせて作った、西洋版鎖帷子といったところか。


チェインメイルはリングメイルより、より輪っかが小さく密度が高い。つまり値段が高いというわけだ。


プレートメイルはそのままの意味、板金装甲の鎧である。


クロース(服)アーマー(鎧)は、嵩張らない鎧の上に着る防御能力のある服、ドラ○エでいうなら皮の服の強化版みたいなものだ。


あとは、火のエンチャントされた最下級の位置する魔法武器、ファイアナイフを懐に隠し、防具の機構やそでぐちに普通のナイフ、針を数本仕込む。


身体能力やスキルに補正がある魔法装飾品を各種身につける。


効果は弱いものばかりだが、装備できるだけすれば大分能力が底上げされる。


小迷宮のコアアイテムで手に入ることが多く、効果はピンキリだが、魔法武器からすればまだ手が届く価値だ。


駆け出しには厳しいが、中級者の冒険者なら、低級の魔法装飾品を装備できるだけ装備するのが普通だ。


リング2つ、腕輪2つ、アンクレット(足)2つ、ネックレス1つにピアスが1つまでしか効果は発揮されない。


が、余裕がある者は、一か所に複数の装飾品を付けて、状況によって効果を発揮する装飾品を切り替えることもできる。


とはいっても高価であることに変わりはない。

念のため長めの手袋をして隠しておく。


縮小の柄頭(武器をある程度小さくすることができる装着アイテム)で小さくした良質鋼鉄の短槍を足につける。これがメインウェポンだ。


そして見栄えを重視するために、柄にまあまあ綺麗な装飾の施された鋼鉄の剣を腰に差す。咄嗟に引き抜くためのサブウェポンだ。


本当にとっさのときにはナイフを抜くからあまり出番はないであろうが……戦士の誇り的な要素が強いのか、剣はなぜか示威効果が高いのだ。


剣の適性は低い者が少なく、スキルレベルが低いころから使い勝手の良いスキルがあることから、普及率が高いのもその理由の一つだろう。



(槍の方が武器としては絶対に優れていると思うんだが……)



まあ、この世界では前の世界ほど、

槍>剣

という方式は成り立たないのだが。


それというのも、スキルの存在だ。


これが結構めちゃくちゃで、射程距離も手数も向こうの世界では考えられない攻撃が出せる。


さらに、"レベル"、"ステータス"、そしてなにより"スキル"が存在するので、跳躍力や敏捷さが段違いなのだ。


レベルが上がれば槍の間合いを飛び越せるし、スキルによっては中距離以上の距離に攻撃も可能だ。


となると単純にリーチの問題だけでは片づけられないだろう。


だが、扱いが難しく、狭い空間では使い辛いが、こちらの世界でもやはり安定した強さを出せるのは槍なわけで。


――全ての熟練度が平等に高い俺は、あらゆる武器を使いこなしそのネックを容易く解消できるわけだ。


また、迷宮内でドロップする"刀"という武装、引いて切るという使い方をする日本産の武器。


これはあまりに作るのが非効率的すぎて、現実的には可能だが刀鍛冶師の人間はほとんどいない。


ドワーフの鍛冶師から買うか迷宮で拾うしかないので希少価値が高い……のだが、使い手が少ないので値段はなかなか高い、程度にとどまっている。


これもスキルが充実しているので強いのだが……ちょっと趣味じゃない。


というかこの世界ではガチガチの防具や、ソードブレイカ―など特殊な用途の武器、そしてなにより硬い表皮を持つ敵が多いので、切る武器はスキルが相当高くないと実用性が薄い。


……まあ、俺なら使いこなせるんだが。


その加工の難しさゆえに、整備にでさえべらぼうな費用がかかる。


戦闘中にそこまで気を使って戦うなど、気疲れしてしまうのはごめんである。


と、手に入れてもいないタヌキの皮算用はこれくらいにしておこう。




「さて、搾取される同輩を見に行くか。君たちは無駄死になどではない。その無念は俺が引き継ぐからな……」






■装備品


・良質な鋼鉄の短槍(通常品より威力+耐久+)

・華美な鋼鉄の長剣(通常品より魅力+)

・火のナイフ(火属性+)

・鋼鉄のナイフx3

・鋼鉄の針x8


・鋼鉄のリングメイル

・硬皮と絹のクローク(上)

・硬皮と絹のクローク(下) 上下で魅力+

・硬皮の鋲付きブーツ

・土蜥蜴の皮手袋


・力のリング[力+]

・毒耐性のリング[出血毒耐性+][神経毒耐性+]

・敏捷のアンクレット[敏捷+][防御微増]

・隠密のアンクレット[敏捷+][足音隠蔽+]

・力の腕輪[力+]

・知力の腕輪[知力+]

[off]回復のリング [時間回復微上昇][軽傷回復x5](軽傷回復の魔法が5回分こもっている。ノーリスクで使用可能)(つけているだけで、効果は発揮していない)

[off]火のガードリング [守備力微+][器用微+][火耐性+](つけているだけで、効果は発揮していない)

[off]器用さのアンクレット[器用+]


280000G


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