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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 アンさんは語り始めた。

「わたくしの名は、アンではなく……アンネロッタ・ラゴスといいます。ラゴス家、つまり兎の氏族に連なる者です」
「アンネロッタ・ラゴスですか?」

 僕が驚いた顔をすると、アンさんはゆっくりと頷いた。

「驚かれたかもしれませんが、現氏族長のディオン・ラゴスがわたくしの祖父にあたります」

「そうだったんですか。……でも王立学校では僕の手紙が届きましたけど」
「女王陛下より、ラゴス家の者が通っていると、いたずらに混乱を招くだろうと。そこで、愛称のアンで通わせてもらったのです。ですので、このことを知っているのは多くありません」

 もちろん僕は知っていたけど、「そうだったんですか」と感心したフリをする。

 高貴な身分のひとが留学したとして、だれもが好意的に見てくれるわけではない。

 取り入ろうとするくらいならまだいい。スパイや人材の引き抜きを疑う者も出るだろう。
 対立している側の誘拐や暗殺の可能性だってある。

 竜国の力を相対的に落とすために無関係の相手から狙われることだって考えなければならない。
 女王陛下の言う、いたずらに混乱を招くとはそういうことだ。

 他者の思惑に利用されないためにも、身分を隠し、名前を変えて王立学校に通うのは、別段おかしなことではない。

 身分を隠した高貴なる留学生。それがたまたまアンさんだったという話だ。

 アンさんは続ける。

「今回、帰郷するにあたって、特使外交の任があると伝えられました」
 迎えに来た者がいつもと違うのは、それが理由だと説明されたらしい。

 序列二位の鴎の氏族との友好のため、帰るついでに寄ってほしいと言われたそうである。
 アンさんはなんの疑いもなく承諾した。

「チュリスの町から馬車でこの都市までまいりました。ですが、特使外交の任は真っ赤な嘘でした。わたくしの身柄をなにかの交渉材料に使うため、そのまま人質としてどこかの屋敷に監禁されたのです」

 ここへ来るまでの経緯は、女王陛下からの説明とほぼ同じだ。
 アンさんの話から、兎の氏族の裏切りも確定した。
 その結託相手が鴎の氏族であることも分かった。

「では都市に入ってからずっとあそこに監禁されていたんですね」

「はい、そうです。あのとき、夜中に物音がして目が醒めたのです。何事かと小窓から覗いたらレオンくんがいるのですもの。本当に驚きました」

 あらためて説明されると、結構ザルな救出劇だったかも。
 出会った僕に不審を覚えるのも分かる気がする。

「僕もアンさん……いや、アンネロッタ様があそこにいて、とても驚きました」

「ふふっ、では一緒ですね。それと……わたくしのことは今まで通り、ただアンとだけ」
 こんなときなのに、アンさんは笑顔をみせた。もちろん僕は、それに了承した。

「ひとつ伺いたいのですが、いま起こっているクーデターとアンさんの誘拐。両者は関係があると思いますか?」

 ここはぜひとも聞いておきたい。
 僕は潜入したときに聞いたので、アンさんの誘拐がクーデター側の策略であることは分かっている。

 だが、それ以外に関与している人がいるのか。とくに鴎の氏族全体が絡んでいるか知りたかった。
 どこぞの黒幕が誘拐を企てて、トラッシュがそれを掠め取った可能性もまだ残っているのだ。その場合、いまだ敵地にいることになる。

「わたくしの誘拐とクーデターがですか? ……そうですね、タイミング的にはそう考えていいのかもしれません。ただ、わたくしが見たのは見張りの兵だけです」

 なるほど。徹底してアンさんに情報を隠そうとしていたわけか。
 きっと兵も自分たちの所属を名乗らなかったに違いない。
 そうすると、この判断は保留だな。

「それでは、この後の事ですけれども、アンさんはどうしたいですか?」
「できればすぐにでも兎の氏族の領地まで移動したいと思います。両親と祖父が心配していると思いますし」

「都市の出入りは厳重に管理されていますので、かなり難しそうですね」

 本証を持っているか、入るときにもらった仮証がなければ、一旦留め置かれて身元を照会されるだろう。その時点で、アンさんはアウトだ。

 氏族長のもとに話が行けば、都市を出ることはできなくなるかもしれない。

「アンさんを探す人がいるかもしれません。とりあえず、ここにいた方がいいですね。ラングさんには僕から言っておきます。それと都市の外ですが、こんな状態じゃ、普通の人でも出られるか分からないと思います。幸いここは酒場なので、いろんな情報が集まってくるので、少しだけ様子をみることにしたいのですけど、どうですか」

「わたくしがここにいて、よろしいのですか? ご迷惑をかけるかもしれませんよ」
 アンさんと一緒に追っ手がかかるのを心配しているのか。

「おなじ竜国で学ぶ仲間ですし、監禁されていたなんて知ったら、ここの氏族にはいい印象を持てませんよ。アンさんのことは、できるかぎり僕が面倒みます。いえ、見させてください」

「……はい、ではレオンくんのお言葉に甘えることにします」
「ありがとうございます」と、アンさんは優雅な仕草で頭を下げた。



 自分の部屋に戻った。
 さて、僕はこの後、どうしようか。

 ラングさんは、下の酒場で情報収集してくれるだろう。
 常連さんもいるようだし、任せていいと思う。

 そう言えば、一緒にパン職人の試験を受けたヘレンさんはどうしているだろうか。
 子供たちにお土産を買って町に帰ると言っていたので、もう都市を出てしまっているだろう。

 クーデターに巻き込まれなくてよかったと思う。
 僕ももう少し早く気付けていれば、アンさんを連れて出られたのだけど、こればかりはしょうがない。

「よし、クーデターがどうなったのか、本殿に行って確かめるか」

 ただし、いまは日が高いから無理だ。
 夜まで待って出かけよう。

 それまでは、町中を歩いてみるかな。
 何か発見があるかもしれないし。


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