挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

91/660

091

「聞いてはいたが、レオンくんは本当に若いね。それと合格おめでとう」

『焼きたてベルナー』の主人、ハンス・ベルナーさんは、僕の許可証を確認し終えると、握手を求めてきた。

「ありがとうございます。合格する前に紹介があったようなので、無事受かって良かったです。というか、ホッとしています」

「ラングさんが太鼓判を押していたから、わたしは確信していましたよ。ホホホ」

 手で口を隠して上品に笑ったのは、奥さんのエニッタさん。
 ふたりとも僕と同じパン職人の三級を持っている。

 ちなみにエニッタさんのいうラングというのは、この都市に長年潜入している〈右耳〉のラング・ロルトで、酒場の主人だ。

「早速だけど、明日から大丈夫かい? 仕込みから手伝ってもらいたいんだが」
「はい、もちろんです」

「私たち夫婦だけでやっていたので、ラングさんから紹介していただいて助かっているんですよ」
「僕の方こそ、本場のパン作りにたずさわれるので、とても楽しみです」

 ハンスさんとエニッタさんは、ふたりそろって朴訥とした人柄で癒される。
 お客さん相手に噛みつくどこぞの自称看板娘をここに連れてきたい衝動にかられた。

「じゃ、作業場の説明をしようか。覚えてもらうことはあまり多くないから、大丈夫だと思うけど、朝は忙しいからね」
「はい」

 ここでしばらく働きながらアンさんを探すことになる。
 運良く見つかって保護できたら、都市を出なければならないが、そのときはラングさんが言い訳を考えてくれるという。

「両親が馬車の事故に巻き込まれたあたりが定番だな」

 両親が死んだ……としないところがミソらしい。
 大怪我をしたと連絡が入り、取るものとりあえず駆けつけることができるし、万一どこかで出会っても、「無事回復しました」や「亡くなってしまったので、後を継ぐことにしました」と臨機応変に変えることができるからだとか。

「これは処世術ってやつだ」
 女王陛下の指令を全うするにあたり、知らずに協力させてしまう人々へのフォローだとか。

 もっとも、後処理のことよりも、アンさんの行方を探す方が重要なのだが。

 だからこそ、この短い期間で吸収できるだけの技術を吸収しよう。
 それが今後の僕のパン作りに必要なのだから!

 ……いや、指令もちゃんと覚えている。

 だが、それはそれ。
 疑われないためにも、ここはしっかりとパン職人として働く必要がある。
 僕が疑われると、ラングさんにも迷惑がかかるのだ。
 うむ、しっかりと働かねば!

 それにこれは、〈右手〉の潜入活動なのだ。女王陛下の〈影〉として恥ずかしい真似はできない。

 決意も新たに、この日は道具の置き場や仕込みのやり方、それぞれの段取りなどを聞いて終わった。
 やはり実家とあまり変わりがない。すぐに慣れることができそうだ。

 父さんは僕に忠実かつ手を抜くことなく教えてくれたらしく、ハンスさんから本場のパン作りの手順を聞いても、まったく戸惑うことがなかった。

 さあ、明日から本場での修業だ。
 頑張るぞ!



 その日の夜。

「ここからは〈右手〉本来の仕事だ」

 そろそろアンさんの行方か、それに繋がる手がかりを見つけたい。
 今夜は、昼間に聞いた話。駆動歩兵が向かった場所に行ってみようと思う。

 都市の北側はなにもないと聞いていた。なので、捜索する予定はなかった。
 向かうと本当に何もないことが分かる。

 農業試験場に使うのだろう。畑が一面に広がっている。

 技術競技会で競うのは、なにも発明品ばかりではない。
 農業生産物もまた、立派な品目である。

 病害虫に強い品種や単位面積あたりの収量が多くなる品種など、食に関する発明も重要な要素となっている。
 ゆえに農産物の改良試験をする場所が必要になってくる。
 それが農業試験場だ。

「……広いな」

 周囲は畑ばかりで、明かり一つない。
 移動は楽だが、何かを探そうとすると心もとなかったりする。

「ここは引き返した方がいいかな」

 人の姿すらない。
 駆動歩兵はどこへ行ったのだろう。もう戻ってしまったとか。

 念のため城壁まで行って、そこで周囲を探索したら戻ろうと思う。

 そう思っていたら、金属を打ち鳴らす音が聞こえた。
 音の発生源は遠い。耳を澄ますと右手の林の中からだ。

 不思議だ。林の中に金属音は似合わない。
 闇に潜ったまま、林に向かう。そこには……。

「……駆動歩兵がこんなにたくさん!?」

 見える範囲で五十体くらいいた。
 木々の奥にもまだいそうだ。

 ほとんどは直立しているが、何体かが動いている。
 先ほど聞こえた金属音はそれらが出した音のようだ。

 駆動歩兵……思ったより大きいな。
 竜国にあるものは高さが三メートルくらいだったが、ここにあるのは五メートルくらいだ。
 駆動歩兵はみな人型で、胴体部分に人が乗り込んで動かすようにできている。

「たしか、筋肉の代わりに特殊な繊維を使用するんだったよな」
 大きくなれば、よりたくさんの繊維が必要になってくる。

 つまり駆動歩兵が巨大になるほど、一体あたりの制作費が跳ね上がる。
 メンテナンスはかなり頻繁に行わなければならないので、基本、駆動歩兵は贅沢品なのだ。

 それをこんな夜中に惜しげも無く稼働させている時点で普通じゃない。

「気になるな。探ってみよう」

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ