挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

89/660

089

「あんた、すごい腕だね。この中じゃ、最初に終わってたよ」
 休んでいると、課題を提出し終えたヘレンさんがやって来た。

「ありがとうございます。僕のはただ速いだけですよ」

「いや、焼き色も見事なもんさ。あれだけの手際は、ついぞ見たことがないよ。ずいぶんと修行したんだろうね」

「パン作りは父から教わりました。最近は、父の師匠からも手ほどきを受けています」

「そうかい。やっぱり努力しているんだね。わたしは今回も駄目だろうね。あんたは大丈夫だよ。あれだけ見事なパンが焼けたんなら、ここでも十分やっていける」

 たしかに出来上がったヘレンさんのパンは少々形がいびつだった。
 ねが足りなくて生地がよく混ざっていないのか、焼き上がったときに全体がまんべんなく膨らまないパンがいくつか出てしまっていた。

 普段ならそういうこともないのだろう。
 時間の制限をつけられると、人はどうしても焦ってしまう。
 それで普段やらないようなミスをする。

「よほど人気のパン屋以外は、時間に追われながらパンを焼くようなことはないからね。どうしてもゆっくりになってしまう。今日も二人ほど間に合わなかっただろう」
「そうですね」

 六人受験して、時間内に課題を提出し終えたのは、四人だけだった。

 焼き上がった人でも、慌てたのか、パンの大きさがバラバラの人もいる。
 意外に難しい試験なのかもしれない。

「そういえば、パンを一個、一個計っている人もいましたね」
 なんでそんな無駄なことをするのだろう。手で計ればいいのに。

「課題パンは大きさと重さが決まっているからね。それより小さくても重くても駄目なのさ」
「でも持てば分かりますよね」

「そこに到達するまでは大変よ」
 四級までの免状は地元で取れる。

 たいした技量がなくても、試験を受けるのも審査するのも同じ職人どうしだ。
 知り合いだから、通してしまおうとなっても不思議ではないのだとか。

 記念受験の意味を込めて、技量が届かなくても観光がてら一度はここに受けにくるような人もいるらしい。

「そういうもんなんですか」
「それでも昔より記念受験は減ったわね。今のほうが生活が大変だし」

「そうなんですか?」
「急に物の値段が上がったからね。上がり幅は他の氏族の都市よりもひどいって商人が言っていたけど、どうなんだろうね」

 かもめの氏族は、序列が二位の都市だ。
 副都市に任命されていることから、氏族の中でも発展しているはず。
 物の値段があがるのはしょうがないが、それだけではないような言い方だ。

「人も増えたし、物もたくさん入って来ますよね。そうなれば、物の値段だって上がりますよね」

「副都市になってから、生活は苦しくなったねえ。昔はここの都市ものどかで、暮らしやすかった。氏族のみなさまも朴訥ぼくとつでいい方が多かったよ。いまの方々はちょっと欲の方が強いね。そのせいでここ以外の町では、生活が成り立たなくなってきているかしらね」

「そうなんですか」
 繁栄しているように見えるが、生の声を聞くとそうでもなさそうだ。

 この辺も一応あとで女王陛下に報告しておくか。
 どうせ知っていると思うけど。

『……それでは、結果を発表します』

 審査が終わったらしい。
 六人の受験者は、固唾を呑んで発表を見守った。



 試験の結果だが、僕は合格した。
 僕ともうひとり。若い女性が合格していた。

 ヘレンさんは「やはり駄目だったね」と落ち込んでいたが、このまま田舎に帰って、パン屋を続けるらしい。
 もう受験は諦めるそうな。

 結果を考えると、この試験は集中力がある人か、体力がある人が有利な気がしてきた。
 体力や腕力がある人の方が、捏ねる時間が圧倒的に少ないのだ。

 そうすると時間に余裕ができて、成形や焼きにより多くの時間が割ける。
 その辺の余裕のあるなしが、合否に影響しているのではないだろうか。

 なんにせよ、これで僕の滞在許可が降りる。仮証から本証に変わるのだ。
 問題はひとつ片付いた。



 その日の夜。
 昨日行けなかった本殿の残りを探索するため、僕は闇に溶けた。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ