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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 かもめの氏族の本殿に侵入を果たしたが、そこからが問題だった。

「機械式の仕掛けが増えているな」

 一見しただけだと、何かがあることは分かるが、それが何なのか分からない。
 魔道結界の方が慣れている分、対処しやすい。

「時間をかければ対応策くらい思い浮かんできそうだけど……」

 悠長に仕掛けを解読しているヒマはない。迂回できるならば回避すべきだ。
 それと、僕が突破できないものがある。

 風の流れがあると作動する仕掛けがある場所へは、どうやっても入ることができなかった。
 通常、影さえつながっていれば、僕はどのような場所でも侵入できるが、風の流れを遮断しているのでその区画だけは密閉されている。

 これには困った。どこにも影がつながっていないのだ。
 ドアや窓の隙間すら密閉されているので、完全にお手上げである。

 かといって、姿を現してドアを開けたら、仕掛けが作動してしまう。
 誰かの影に潜って、その人が先に進めば入り込めるが、それ以外の方法は思いつかなかった。

「こういう仕掛けは女王陛下に報告だな」

 それと、影を感知する仕掛けがあった。ちょっと驚きだ。
 これは初めて見る。

 通路の一部だけ、完全に影が無い状態を作り、そこに影がさすと仕掛けが反応する。
 向こう側にロープを張って、空中を進む場合を想定しているのだろうか。

 この影感知の仕掛けは僕をピンポイントで狙ったようなものだ。これも突破は無理だろう。
 どこかで影がつながっていれば、その先へ回りこむことができるので、時間をかけて探せばも行けそうだが……いや、潜入初日から無理はしない方がいい。

「あまり奥にいくと、帰れなくなりそうだ。そろそろ居住区へ行くとしよう」

 この奥には大事なものがおいてあると予想つくが、今回はそれが目当てではない。
 ヘマをして見つかった場合、脱出できても明日以降の侵入が難しくなる。

 ここは諦めて、他の居住区へ行く。
 人の気配がする方に向かって、闇の中を進んだ。

               ○

 一番近くにあった部屋に入った。
 高そうな服を着た紳士が、イライラしながら室内を歩きまわっている。
 歳は五十代後半から六十代くらいか。

「トラッシュのやつは、いまだに見つからないのか」
「ええ、あの子は取り巻きを引き連れて、都市を出て行ったままよ」

 鴎の氏族のだれかだろう。
 男が不機嫌で怒鳴っていると、女は達観した様子で話している。
 ふたりの温度差に少しだけ興味を惹かれた。

「お前が甘やかすからだ。ベア様に知られたら、申し訳がたたんぞ。何かしでかす前に捜し出せ!」
「近くにはいないし、どこへ行ったのやら」

 ベア様とはベア・グラロスのことで、氏族長の母親だ。
 先代が亡くなって、息子が引き継いだと聞いたが、先代の奥方はまだ影響力を残しているっぽい。名前を出したときに僅かだが畏怖が感じられた。

 それにしてもこの男は怒りっぽいな。小物臭がする。
 分かっているのか、女性の方はまじめに取り合おうとしていない。
 男の方は、女の態度に怒っている感じか。

 なんにせよ、このふたりはあまり関係がなさそうだ。
 町を出て行った放蕩息子の心配しているだけ。

 別の部屋に行くことにする。

 鴎の氏族の本殿に住むのは、グラロス家に連なる者と、彼らが信を置いている部下や使用人たちだ。
 他の使用人は別棟に住んでいる。
 本殿内でよく見かけるのは、ここを守る兵たち。

 さすがに駆動くどう歩兵は徘徊していない。

 本殿の一階、その一部を探索したが、人の気配だけでも数十あった。結構多い。

 本殿全体だと百人や二百人はいるかもしれない。
 さっと捜索するつもりだったが、ちょっと無理そうだ。

 別の部屋へ行ってみた。

「おい、商人どもが騒いているぞ」
「どういうことだ? 黙らせたのではなかったのか」

 高級そうな服を着た壮年の男たちがいる。
 なぜみんなこのままパーティに出られそうな服を着ているのだろうか。
 あれで普段着なのか?

 自宅でおしゃれしてもしょうがないと思うが。いや、親族どうしの見栄か。
 格好だけ良くても、品性が伴っていない気もするが。男たちの会話を盗み聞く。

「暗殺に失敗したんだ。気づかれたらしく、差し向けた時には、もぬけの殻だった」
「口封じに失敗したのか?」

「馬鹿なことを。気づかれたなら、商人どもはいずれ都市にやってくるぞ」

「その前にもう一度襲撃をかければ」
「警戒されているぞ。ノコノコ出かけて捕まれば、言い逃れができない」

「だから後始末はしっかりやれと言ったのだ」
「しょうがないだろ。そもそもおまえが欲をかいたのが悪い」

「おまえだって乗ったじゃないか」
「それがどうした。最初に言い出したのはおまえだぞ」

 なにか言い合いを始めた。
 さっきから不穏当な会話をしているが、本当にこいつらは氏族の一員なのか?

 下種げすな雰囲気がぷんぷん臭っている。
 鴎の氏族がこんなのばかりなら、長くないだろ。

 ここは止めて、別の建物に向かおう。

 本殿は広いので、ひとつひとつみて回るのは大変だ。

 次に入った部屋は暗い。広い部屋なのに、使っているのはごく一部だけ。
 しかも、意識的に暗闇を多くしている。

 怪しい雰囲気だ。
 部屋には五人の男女がいる。

「レイルの奴が裏でコソコソしている。捕まえて氏族会議に突き出せ」
「ですが、証拠があるわけではありません」

 男女が話しているが、声からすると若い。ふたりとも二十歳くらいだろうか。

「絶対にあいつの隠し事を暴くんだ」
「ネーファ、お前は探れるか?」
「大丈夫だと思います」

「よし、明日から向こうのグループに入れ。報告は毎晩ここで」
「かしこまりました」

 おいおい、なんだよ。
 次の建物に入ったとたんにこれだ。

 どうも鴎の氏族というのは、互いに仲が悪いらしい。
 あと悪巧みばかり。

 陰謀や人を陥れるのが好きなのだろう。
 嫌な氏族だな。
 怪しい奴ばかりなので、アンさんを拐った連中を特定できない。

 その後もいくつかの建物に入ったが、これといった収穫はなかった。
 だいたいどこも同じような感じだ。

 ひとつ分かったことは、本殿の中は互いに探り探られの状態で、安心できる場所がないということだ。
 やはり、本殿にはいないのだろうか。

 疲れた身体を引きずって、僕は本殿を離れた。
 この氏族とは、正直関わりたくない。

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