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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 氏族の本拠地は、周囲が高い壁で囲まれている。
 これは技術の流出を防ぐためである、自衛と出入りを監視するためでもある。

「よし、入っていいぞ」

 かもめの氏族が住む要塞都市。
 僕は門番から渡された仮証かりしょうを受け取る。色は黄色。

 黄色は技術者を意味する。
 技国において研究者や技術者は、技術を習得または広めるために、理由さえあれば本拠地へ入ることができる。

 僕の場合は、黄色の仮証の裏に『パン職人』と書いてある。
 これは仮証なので、一定期間以内に本証ほんしょうを得ないと、この都市にとどまることができない。
 仮証の有効期間は五日間。

「町が広い。それと、人が少ない」

 それが僕の第一印象。
 道幅が広いのは、駆動くどう歩兵が通ることを想定しているのだろう。

 人が少ないのは、ここが要塞都市だからか。
 鴎の氏族の領地には、いくつもの町や村がある。

 そこで生産された食糧や品物がこの本拠地に集まる。
 配下の町や村から富を集め、それを必要に応じて貯蔵、分配している。
 あまった分は、他氏族との取り引きに使われることもあるらしい。

 新しい技術のような、他の氏族に秘匿したいものは、この要塞都市内で研究、開発している。発表されていない知識や技術は、一般の国民にはおりてこない。
 こうして技国は、氏族を頂点として国民から搾取することで成り立っているといえる。

 国としていびつなようだが、国民が納得しているのなら、他国民がとやかく言うことではない。

 僕は教えられた店の前に着いた。
 酒場である。時間が早いから、まだ開いていない。

 鍵が閉まっていたので、裏口へまわり、中へ声をかける。
 出てきたのは人の良さそうな中年夫婦だった。

「そうかい。あんたがねえ」

 すでに女王陛下から連絡が行っていたらしく、すぐに話が通った。
「お世話になります」

 先代の王の時代から、〈右耳〉としてこの地へ派遣され、かれこれ三十年になるらしい。

「あの頃のここは、もう少し出入りが厳しくてね。若者ひとりで入るのは難しかったんだよ」

 他の氏族との関係が悪化していた時代らしく、出入りする者がかなり制限されていたとか。
 そこで男女ふたりで、若夫婦に扮してやってきたらしい。
 ちなみに長年一緒にいるうちに本当に結婚してしまったとか。

「自分の場合は、すぐに料理免状を取ってね。それで居住資格が得られたんだ」

 技国はさまざまな職人がいるが、それと名乗るには、資格試験を受ける必要がある。
 たとえばこの〈右耳〉の中年夫婦の場合、旦那さんはレストランで働くために料理免状を取得し、奥さんは接客免状を取得した。

 免状は下が五級で、上が一級。
 この都市で働くには三級以上の免状が必要らしい。

「いまレオンくんは仮証だろう。はやく三級の免状を取得した方がいい」
「そうですね」

「国から連絡が来て、すぐに申請しておいたよ。明日にでも受けてくるといい」

 氏族が住む本拠地に滞在するには、何らかの技能持ちになるのが手っ取り早い。
 僕が学んでいるパン作りは、都合がいいことに技国式だ。

 問題は、三級のレベルがどの程度なのか。

「習得難易度は、免状によって違いがあるが、一般には五級が通常の職人。見習いを卒業したレベルだな。四級はその技能に習熟したレベル。ここまではある程度の能力があれば受かる。三級は熟練レベルだ。三級を持っていると、ハズレはないと周囲は認識する」

 なかなか高レベルだ。大丈夫かな。

「受かりますかね」
「駄目なら、再挑戦できる。ただし、受験は年間で三回までだが」

「なるほど」

 三級の技能試験は本拠地でしか行わないため、他の町や村から試験を受けにやってくるらしい。
 その時は僕と同じ仮証なので、滞在期間は五日間。

 試験はほぼ毎日行われているらしく、絶対に受かるぞと決めた者は、その五日間のうちで三回挑戦するらしい。

 二回落ちて後がない者は、一旦帰って半年後あたりにもう一度来るか悩むとか。
 この辺は年間で三回というのがネックになっている。

 遠くの町や村から来る者ほど、一旦帰るか悩むようだ。

「滞在費も馬鹿にならないしね。ここは安宿がないから」

 宿はすべて氏族の管理下にある。値段も他の町だと高級宿くらいするのだとか。
 試験を受けるにも金がかかるし、なかなか大変である。

 話を聞いただけだと、三級はどんなものか分からない。一度受けてみたほうがいいだろう。

「明日、受けに行ってきます」
「そうするといい。何事も経験だ」



 その日の夜。
 僕はいま、酒場の二階にいる。
 部屋はふたつ空いているというので、そのひとつに泊まらせてもらうことになった。

 アンさんがこの都市にいると予想したが、本当にいるかどうかは分からない。
 僕が探すのだが、どこを探せばいいのかまったく見当がつかない。

「まさか地下牢とかはないだろうしな」

 氏族長の孫娘だ。扱いひとつで氏族間戦争になる。
 かといって、多くの使用人がいる本殿ということもないだろう。

 本殿というのは、氏族長など、高位の氏族たちが住む一角である。
 本拠地が竜国の王城、本殿が王宮にあたる。

 いや、本殿もありえるかな。
 人を隠すには不向きだけど、逃げられる心配はない。

 氏族長の一族を誘拐するのは重罪である。
 ことが露見した場合を考えて、現在首都となっている大山猫の氏族の都市に連れて行くことはありえない。リスクが大きすぎる。

 必然的に鴎の氏族、それも高位ではない氏族が有力になる。
 一族が積極的に加担した証拠を残したくないだろうし。

 無関係を装うことは無理としても、知らないところで勝手に行われたくらいの主張が成り立つように予防線を張っているだろう。

「裏切った兎の氏族が勝手にやったことで、自分たちは巻き込まれた」
 大山猫の氏族ならばそう主張したいところだ。同時に、鴎の氏族長も……。

「自分は一切知らなかった。末端の者の責任であり、氏族全体ではそんなつもりは一切ない」
 このくらいは言いそうだ。

 そう考えると、氏族が住む本殿には連れて行かない気がする。
 ではどこだろう。思いつかない。

「まっ、地道に探しにいくしかないか」

 女王陛下から言われた機械式の防衛装置の件もあるので、まずは本殿を攻めることにする。
 早めに捜索をして、可能性を潰しておこう。

 階下の喧騒がここまで聞こえてくる。酒場はこれからが本番らしい。
「よし、行くか」

 僕は、闇に溶けた。


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