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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 技国は八年に一度、技術競技会というものを開催する。
 八年間かけて研究開発した技術を発表し、その優劣を競うのである。

 そこで優勝した氏族が住む本拠地が首都となる。

「それでいまは大山猫の都市が首都なわけね」

 必然、リガス家が治める大山猫には富が集中する。
 そのおこぼれにあずかるのが、かもめの氏族ことグラロス家。

 両氏族は同盟を結んでおり、大山猫の氏族は来年開かれる技術競技会でも、三連覇を達成するとみられている。

 それに追随するのが、前回第三位だった兎の氏族ラゴス家である。アンさんの氏族だ。
 ラゴス家は四位である孔雀の氏族バコニ家と組んでいるが、次回も逆転の目はないと言われている。

 ところがここで持ちあがったのが、ラゴス家とカツィカ家の縁談である。
 山羊の氏族カツィカ家は序列第五位。

 もしこの縁談がうまくまとまり、同盟が結ばれれば三位、四位、五位、七位の四大同盟が締結されることになる。

 大山猫と鴎の氏族としては、面白くない展開だろう。

 それだけでなく、鴎の氏族グラロス家には、我が竜国と深い因縁があった。
 因縁というか、向こうが一方的に敵視しているだけだが。

 竜国と鴎の氏族は、国境を接しているために人の行き来が多い。
 そのせいか、「竜国に移り住み、竜紋を得よう」と考える者もかなりの数がいる。

 竜国としても、竜操者は貴重である。むざむざ他国に渡したくない。

 竜紋を得るには、若いうちから十年は竜紋限界の中に住んでいないといけない。
 理由は分からないが、十年未満で竜紋が現れた者はいない。

 そのため、「ちょっと移住しよう」という試みは空振りに終わる。
 しっかりと住まねばならないのだ。

 在留ざいりゅうするのに問題になるのがお金だ。
 他国民が竜国に長期滞在する場合、税制面でかなりの金額が必要になってくる。

 毎月の税金を年末に一括して支払うのだが、それが惜しくて支払いの時期だけ自国に戻ってしまう者がいる。

 年が明けると、またやってくる。
 それをさせないために、年間で合算して、ひと月以上滞在した者にはしっかりと滞在費を徴収することになっている。

 たとえば二月から五月までの滞在でも、日数に応じて税金を支払って帰ることになる。
 支払うのは別に年末である必要はない。
 年内に支払えばいいのである。

 ところが、それを惜しんで毎年違う名前で行き来を繰り返した愚か者がいる。

 鴎の氏族に連なる末端と、その部下たちである。

 公にしないが、竜国はそのようなズルを発見する魔道装置を持っている。
 不当に税金逃れをする者はただちに捕まり、かなり高額な課徴金を支払うことで解放される。

 名前を変えて入出国を繰り返したのだ。本人は何をやっているか理解している。
 罰は当然である。

 鴎の氏族に連なる者は、これで大恥をかいた。
 それで止せばいいものを、ムキになった者たちは、より巧妙な手口で入国することにした。

 なんとかして竜を得て、竜国の鼻を明かしてやろうと意気込んだらしい。
 結果は捕縛。同じ罪で二度目の逮捕である。

 竜国では、出入国違反の罪は重い。
 竜を守る国である。常習犯を野放しにしてはいられない。

 竜国の北には、北嶺地帯ほくれいちたいが存在している。
 人が住むのに適さない寒冷地だ。

 永久凍土のため、耕作はできない。
 どこの領土にも組み込まれていないので、竜国が管理している。生産性皆無の土地だ。

 とても人が住める地ではない。
 そこへ出入国違反の常習犯が、長期刑囚として送り込まれる。

 日中は大木の切り出しである。
 日の出とともに起きだし、延々と木を切り倒すのである。

 身体を動かしていないと凍死してしまうほど寒い。
 木の伐採はいい運動になる。
 本人たちがそう思っているかは別として。

 この措置で困ったのは鴎の氏族である。
 末端とはいえ、氏族の一員が不名誉な罪で拘束され、北嶺地帯送りになった。

「誤解だから解放してくれ」と告げれば、「誤解は一切ない」と返事が届く。
「金銭を支払うから帰してほしい」と願えば、「刑期を終えるまで、犯罪者は外には出せない」と取り付く島もない。

 これにはさすがの鴎の氏族も怒った。
 報復として、竜国の商人を何人か捕まえた。
 捕まえた理由は様々だが、ようは見せしめである。

 竜国はすぐに対応した。
 竜国全土にいる、鴎の氏族に連なる者たちをみな拘束したのである。

 やりすぎであるが、効果はあった。
 もともと技国は技術の流出を恐れるあまり、他国の人を本拠地にあまり受け入れていない。
 その反面、他国の良いものを取り入れようと、どんどん人を派遣していた。

 やり返されて困るのは鴎の氏族の方であった。
 国の大きさも違う。
 できる規模からして、はじめから勝負にならないのだ。

 しかもどこで調べたのか、竜国で見聞を広めさせようと送り出した技術者集団も、いつのまにか拘束されていた。

 そのうち、とんでもないニュースが飛び込んできた。
 最初に捕まった税金逃れをしようとした者たちが、陰月の路での重労働に配置換えされたというのである。
 凶悪犯罪者と同じ扱いである。

 北の寒さは耐えることができる。辛くとも、動いてさえいれば、死ぬようなこともない。
 だが陰月の路では、月魔獣が現れればそれでお終いである。

 魔国も竜国も、陰月の路での作業は、死んでもいい重犯罪人をあてるのが一般的となっていた。
 そこへ配置換えしたというのだ。

 月魔獣が現れれば死ぬ。
 それは今日かもしれないし、明日かもしれない。今かもしれないのだ。

 いっそ駆動歩兵で攻めるか。
 そんな案も出たが、いち都市が竜国と戦争して勝てるわけがない。

 竜国に潜入して身内を脱出させようにも、竜の移動速度は他の追随を許さない。脱出など、到底できるものではない。
 そもそも常習犯罪者になった身内がいけないというのもある。

 ここに至って、鴎の氏族は両手を挙げた。
 捕まえた商人を開放し、不当拘束した旨を謝罪し、賠償金を支払った。

 そのうえで、拘束した技術者をはじめ、自都市の者たちに寛大な措置を願った。
 竜国に捕らえられた商人や技術者の開放のため、金銭もいくらか支払った。
 完全敗北である。

 その甲斐あって、最初に捕まった鴎の氏族の身内は、北嶺地帯送りは変わらないものの、直接的な死の危険だけは回避することができた。
 また技術者も開放された。

 ただし、このことが原因で、鴎の氏族と竜国の関係はすこぶる悪い。
 五年前の話である。

 いまでも北嶺地帯送りになった者たちは、そこで働いている。
 残りの刑期は、あと五年。



「うーん、さすが女王陛下」
 容赦ないな。

 この話を聞いて、僕はそう思った。

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