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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 話を整理しよう。

 アンさん、つまり兎の氏族長の娘アンネロッタがさらわれた。
 これは誘拐事件だが、犯人は竜国のお城から正式に出立した。騙されたのである。

 これで兎の氏族内に裏切り者がいることが確定した。

 犯人が向かった先は、まだ分かっていないが、序列二位のかもめの氏族が住む都市である確率が高い。

「あとで誘拐が問題になると、技術競技会への参加資格が得られなくなるでしょ。だったら、大山猫の氏族はないわね」

 とは女王陛下の弁。
 まあ、鴎の氏の本拠地にいなかったら、大山猫の本拠地に移動するつもりだ。

 技国の防衛は強固だが、僕の『闇渡り』なら問題ない。最高の人選だと言われた。
 そもそも救出作戦である。
 アンさんに信用してもらう必要がある。僕ならば問題ない。

「でも、救出に来たというのはナシね。あくまで偶然を装って助けてあげて」
 あれ? 難易度が上がった。

「できるでしょ」
「まあ……できるかもしれません」

 偶然を装うのか。難しいな。

「救出についての制限はなにかありますか?」
 制限とは物を壊すな、要人を殺すなからはじまって、魔国の仕業に見せかけろなど様々だ。

「制限はないわね。好きにやっちゃっていいわ。でも、顔を見られた時だけはちゃんと処理するのよ」

 ふむ。顔さえ見られなければ、好きに活動していいらしい。

 竜国が介入したと思われなければ何をやっても良さそうだ。
 重要なことだから、もう一度言おう。竜国・・が介入したと思われなければ、何をやってもいい。

 さすが女王陛下は太っ腹だ。
 実際はスタイルの良いおばさんである。あっ、睨まれた。ここはお姉さんというべきか。

「それでね、引き受けてくれると思って、すでに人をやっているの。レオンも今夜には出発できるかしら」
 急だな。だけど、緊急案件だったのでしょうがないか。

「分かりました。いくつか顔を出しておくところがございますので、夜にもう一度伺います」
「よろしくね。国境までは飛竜で送らせるわ」

「ありがとうございます。では後ほど」
 僕は深く頭を下げた。



 夜までに王宮に戻らなければならないので、やるべきことをすぐにやってしまおう。

 まず、アルバイト先の『ふわふわブロワール』に顔を出した。
「どうしたんだ、こんな時間に」

「本当に急なんですけど、帰郷する技国の友人がいまして、その人に本国のパン屋を紹介してもらえることになりました」
 方便だが、大まかな部分で合っている。

「技国のパン屋か。もしかして、この長期休みは?」
「はい。本場のパン屋で修行してこようかと思います。短い期間ですけど、今後のためにと思って」

「そうか。一度は行ってみるのもいいかもしれない。だが、竜操者が今後のためを考えて、本場の技を学びに行くのか……」

 ロブさんは、最後微妙そうな顔をした。
 それはそうだ。僕はもうパン屋への道は閉ざされてしまっている。いや、気持ちを切り替えよう。

「技術を身に付けるのは悪いことじゃないですし」
「そうだな。来年になると竜の世話が入ってくる。よし、行って来い。……しかし、急だったな」

「ええ、一緒に帰郷しないと、あの国は面倒そうなので……分かりますよね」

「あー、そうだな。ということは、氏族の住む都市か。まあ、竜国の王都に来る連中なんざ、本拠地出身がほとんどだしな。がんばれよ」
「はい」

 これで、ブロワールさんのところは済んだ。

 リンダには手紙を書いておこう。
 急にパンの修行先が見つかったとしておく。

 実家に帰ると書くと、絶対に追いかけてくるだろうし。
 戻ってくるのは、長期休みが明ける直前としておけばいいかな。

 手紙を寮の管理人さんに渡すついでに、長期休み中は寮を出る旨を話す。
 管理人さんは慣れているらしく、手際よく書類を作成してくれた。

 一回生の半分以上が帰郷するので、行き先を告げなくても、「ちゃんと戻ってきてください」と言われた。

 同室の二回生、セイン先輩とマーティ先輩だが、竜の世話があるので長期休みはほとんど寮にいるらしいが、部屋に戻ったときはいなかった。

 手紙だけを残しておいた。
 アークはデート中だろう。最近、交際の幅を広げて、毎日忙しいようだし。

 アークにも手紙を書く。
 もし期日までに間に合わなくても心配しなようにと伝えておいた。

 さて、準備は以上かな……いや、実家に連絡するのを忘れるところだった。
 それと姉さんにも手紙を書いておこう。

 手紙をすべて書き終えると、寮の手荷物を片付けた。
「よし、これでいいかな」

 父さんと姉さんにも、技国のパン屋で修行するので帰れないと書いておいた。

 女王陛下からの指令については書けないが、父さんならば察してくれるだろう。
 ようやくすべての準備を終えた僕は、闇に溶けて王宮に向かった。



 王宮には専用の竜舎があり、多数の竜操者が詰めている。
 緊急時に人や手紙を運んだりするのだ。
 あと、女王陛下の散歩のお供とか。

 今回、緊急の指令ということで、僕が重要人物(VIP)扱いされた。

 飛竜に乗せてもらうが、王宮から飛竜で出発する場合、細かいことは一切聞かれない。
 竜操者は黙って目的地まで運んでくれる。

 飛竜で王都を夜に出発すると、翌日の昼前にチュリスの町に着く。
 馬車で六日か七日かかる距離をひとっ飛びだ。

「そうそう、レオンの竜紋を隠す必要があるわね。これを左手の甲に貼りなさい」

 透明なシートを女王陛下が手渡してきた。
 言われたとおり、竜紋の上に貼ってみる。

 透明だったシートを貼ると、なぜか竜紋が消えた。
 驚いた。すごい技術だ。

「任務が終わるまで、これを剥がしてはだめよ」
「かしこまりました」

 こんなものがあるのか。知らなかった。
 不思議そうな顔をしていたのだろう。
 女王陛下はクスリと笑って、説明してくれた。

「レオンは忠義の軍団(ロイヤルレギオン)に入ったのでしょ。だからこれを使う資格があるの。あれに入った竜操者は、普段それで竜紋を隠しているのよ」

「……!?」
 そういえば、〈左手〉のヒフが言っていた。
 竜は公称の二千騎に対して、実数はそれ以上。
 なるほど、普段このシートで竜紋を隠していたのか。

 そりゃバレないわけだ。
 なぜ竜操者の数が多いのか疑問は尽きないが、謎の一つは解けた。

 それと、これが使えば、僕の〈右手〉生活はずっと楽になるに違いない。
 ずっと使っていいよね?

「女王陛下、ありがとうございます。必ずや、指令を成功させて戻ってまいります」
「期待しているわね」

 すぐに僕は、飛竜に乗せられて首都を出発した。

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