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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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「後から来た人たちですが、何か聞いているでしょうか」

 うさぎの氏族内で何かが起こっている。
 それが分かれば、対策が立てられるかもしれない。

「兎の氏族と山羊やぎの氏族で、内々に同盟締結の話が進んでいるわ」
 爆弾発言が飛び出した。

 技国は、九つの氏族国家がある。
 その中の兎と山羊の氏族が同盟? いや、同盟の話が進んでいるだけか。

 でもいいのか、そんな大事なことをバラして。
 いや、両方とも竜国に好意的な氏族だったかな。そうだった気がする。

「氏族については、あまり詳しくないものでして」
 なぜ同盟を結ぶのか、それがどう技国内に影響するのか、まったく分からない。

「七年前の技術競技会で、序列一位になった大山猫おおやまねこの氏族と、二位のかもめの氏族が同盟を結んでいるのは知っているかしら」

 それは知っている。
 技術競技会で勝つには、どうしても最新の技術が必要になってくる。
 勝つには多くの優秀な研究者が必要になる。だが、他の氏族も同じことを考えている。

 なにしろ、研究者の数に対して、やるべきことは多い。

 そこで同盟である。
 別々に研究をして技術を持ち寄ろう。そんな感じで同盟を組むのだ。
 昔は同盟制度がなく、これらの行為は規則で禁止されていたらしい。

「序列一位となるには、他の高位の氏族と同盟を結ぶのが良策でしょう」
 一位と二位が同盟を結んでいれば、まず負けることはない。

「そうね。だから七年前に同盟を結んだ氏族は他にもあった。兎と孔雀くじゃく、それに山羊とはとだったわ」

 兎が三位で孔雀が四位、それに山羊が五位で鳩が七位だったな。

 この同盟、理屈としては合っている。
 技術協議会で勝つには、総合力が試される。

 いくつかの分野で突出しても、全体の足並みが揃わなければ、総合で高評価を得るのは難しいという。

 女王陛下は、兎と山羊が同盟を結ぶと言った。
 これはつまり……。

「大同盟を結ぶつもりでしょうか」
「四つの氏族が集まれば、大山猫の連覇は防げると考えたのね」

 たしかに防げる。
 二氏族と四氏族では、単純に二倍の差がある。
 それぞれが得意分野の技術を提供すれば、首都の交代が現実的となる。
 そんな単純な話ではないのかな。

「それが今回の原因だと考えますか?」

「大同盟を阻止したいのは大山猫とかもめの氏族。アンネロッタが向かったのはチュリスの町」

 またまた地図を頭の中で描くことになった。

 竜国から商国や技国へ赴くには、南のアラル山脈が邪魔をする。
 技国へ行くには、アラル山脈を西か東へ回り込むしか道はない。

 チュリスの町から一番近い技国の町は大山猫と鴎にある。これは東回りになる。
 この二氏族は竜国と接しているので、実は仲がすごく悪い。

 距離が近いからこそ、問題が多い。
 大山猫と鴎の二氏族は、心情的には魔国と親しいと思う。
 竜国と国境を接しているのにだ。

「今回の事件は、その二氏族が企んだのでしょうか」
「今のところ分かっているのは、兎の氏族内で裏切り者が出たことだけ。でも、どこかの氏族の後ろ盾がなければ無理よね」

 つまり、可能性は高いと。
 先ほどの会議では、二氏族のうちのどちらか、もしくは両方が関与していると結論づけたようだ。
 裏切り者が腰を落ち着ける先がないと、今回の事件は成り立たないはずだと。

 書面は偽造されたものではなく、本当に兎の氏族内で発行されたものだった。
 そんなことができるのは、兎の氏族で高位の者だけ。

 あとから迎えに来た人物に書類を見せたら、ひどく驚いたという。

「間違いなく、我が国で発行したものです。……そんな」
 絶句して、それ以上続かなかったらしい。

「竜国としては、アンネロッタを預かった手前、無視もできないのよね。ということで、レオンには彼女を取り返しに、技国へ行ってもらいたいの」

 僕宛の緊急の指令。そうきたか。
 でもなんで僕が?

「理由を伺ってもよろしいでしょうか」

 僕はアンさんと面識がある。互いに顔見知りなので、救出の要員としてはうってつけだ。
 だが、それだけで選んだとは思えない。

「理由、そうね。アンネロッタが帰郷する前、レオンのことをたくさん話していたからかしら」
 あれえ? それだけなの?

 アンさんと出会ったのは長期休みの初日だった。
 あの日、僕は寮に戻ってすぐに手紙を出した。返信は翌日の朝には届いていた。

 王宮に呼ばれたアンさんは、帰郷を渋ったという。
 前例のないことだったので、女王陛下が直接話を聞いたらしい。

 アンさんが残りたがった理由は、僕との約束。
 どうしても会いたい人がいるのだと、女王陛下に余すところなく語ったらしい。

 個人の約束と氏族の使命。
 両者は比べるべくもない。
 結局アンさんは、竜操者とともに王都を飛び立っていった。

 女王陛下が、なぜ僕がデートの件まで知っているのか。
 それはアンさんが余すところなくしゃべったからだ。

「本当に理由はそれだけでしょうか」
 さすがに、それはどうなんだろう。

「他にも理由はあるわ。たとえば、技国の防衛って機械式なのよね」

 大事な施設の防衛には、魔道結界を使うのが一般的だ。
 だが技国だけは、門外不出の技術によって防衛している。

 聞いた限りだが、踏むとアラームが鳴る床、開けると感知器が作動する扉、登録した人以外くぐれない門、暗証番号を押さない限り絶対に開かない金庫などがある。

 潜入者泣かせの装置が満載だと、聞いたことがある。
 そして見つかったら、兵が飛んでくるし、逃げても駆動くどう歩兵が追ってくる。

 技国が開発し、戦いの切り札として温存している駆動歩兵は、最強無比という噂だ。
 生身の人間では絶対に敵わないとか。

 さてその機械式の防衛装置だが、僕の『闇渡り』ならば、かなり素通りできる。
 魔道結界もそうだが、影の中を移動する相手を想定していないからだ。

「潜入は可能だと思います」
「そうでしょ。それに、長期の指令になると思うの。だから、身分も必要よね」

 技術の流出を防ぐため、氏族長が住む都市、いわゆる本拠地は余所者よそものが入り込めない。
 ましては、長期に潜入して調査するのは不可能に近い。

 宿屋は氏族が運営したものしか認めていないし、短期滞在ですら届け出が必要となる。
 それをしないと即座に逮捕される。これは商人や技術者、他の氏族でもお構いなしだという。

 それだけ、本拠地から技術が流出するのを恐れているのだ。

「これは長期の潜入になるのでしょうか」
「おそらくね。だから、レオンは向こうの〈右耳〉と接触して、パン屋で修行する若者に扮してほしいのよ」

「行きましょう!」

 パン屋で修行する若者。行くしかないな。これは僕にしかできない。
 本場のパン屋の技術か。そこで修業できるなんて、うん、腕がなる。

「………………」
 即断した僕に、さすがの女王陛下も唖然としたらしい。

 鴎の氏族の本拠地に〈右耳〉がいるので、そこで修行先を紹介してもらうことになった。

 僕の実家も、いまアルバイトしているパン屋も技国式のパンを焼いている。
 これは僕にうってつけの指令だ。

 よし行くぞ。さあ行くぞ、もう行くぞ。

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