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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 会議は終了し、人がいなくなった。
 だが、ここで話をするわけにはいかない。

 女王陛下は執務室に場所を変えるようだ。
 ついていったのは、今日の当番の〈左手〉さんがふたりと、僕のみ。

「すぐに来てくれたのね、レオン」
「お呼びと伺いましたので」

「あいかわらず硬いわね。まあそれはいいけど。あなた、アンネロッタを知っているわね」

 ハテ? 当然知っているでしょという顔で言われたけど、心当たりがない。まったくない。

「申し訳ありません。どなたでしょうか」

「デートの約束を取り付けたのでしょ」
 でーと? それは食べ物でしょうか。甘いものとかでしたら……ああ、そうか。

「もしかしてそれは、王立学校の二年生である、アン先輩のことでしょうか」
 デートの約束というと、それしか思い浮かばない。

「そう。そのアンネロッタよ。……学校でアンと名乗っていたっけ? そんな気もするわね」
 素で忘れていたようだ。

 しかし、なんとも怪しげなことを言い始めたな。
 アンさん、堂々と偽名で通っているのか。

 そしてアンの本名はアンネロッタ。よし、覚えておこう。

 僕が手紙を出した時、二年生のアンで届いた。
 それで本人に渡ったということは、書類もすべて偽名で通っていることになる。

「僕は技国からの留学生で、アンとだけ聞いております」

「そうだったのよね。本名はアンネロッタ・ラゴス。序列三位のうさぎの氏族。ラゴス家当主の孫娘よ」
「………………」

 大物だ。大物過ぎた。
 氏族長の孫娘だったのか。氏族長って、技国で九人しかいないんだよな。
 竜国だと王族の一員とか、そんな感じだろうか。

 技国は、九つの氏族からなる氏族国家の集まりである。

 八年に一度、技術競技会が開かれる。そこで優勝した氏族の本拠地が、首都として登録される。
 いま名前の上がった兎の氏族は、七年前の協議会で第三位となり、副首都の称号を得ている。

「アン……いえ、アンネロッタ様は、ラゴス家の一員だったのですか」
「ええ。それでレオンと会ったその日、国から迎えが来たのよ」

「迎えですか?」
「帰郷するのに妾の許可が必要なのね。だから、迎えが城に来たわけ」

 なるほど、それで帰郷してしまったのか。
 どうりで会えなかったわけだ。

 でもなんで、僕とアンさんが出会ったのを知っているんだ?
 日常を見張られている気配があれば、僕は気づく。

「緊急というと、そのアンネロッタ様に関することでござますか?」

「ええ。昨晩、兎の氏族から迎えが城に来たのね」

 はっ? アンさんは帰郷したんだよな。それなのに、また迎え?
 どういうことだ?

「それではまだ帰郷していなかったのでしょうか」
「いいえ。しっかりと竜操者が国境まで送ったわ」

「……ということは、迎えの者が二組いたと?」
「どちらかが偽物になるわね」

「アンネロッタ様はいまどこに?」
「竜操者に聞いたところ、チュリスの町まで送ったらしいわ。今頃はもう、技国に入っているでしょう」

 僕は頭の中で地図を広げた。

 兎の氏族が住む都市、つまり本拠地へ行くには、ソールの町から商国にある『西の都』を経由する必要がある。
 西の都から、はちの氏族の本拠地へ赴き、そのまま東に進めばよい。

 これが一般的な移動方法だ。

 一方、チュリスの町を経由する場合、そのまま技国へ入ってかもめの氏族の本拠地へ赴き、大山猫おおやまねこ孔雀くじゃくの本拠地を経由する必要がある。

 どちらも距離的には、大差ない。

「チュリスの町でしたら、おかしくないかと思います」
「そうね。妾もそう思ったけど、今までソールの町を使っていたのよね」

 なるほど、それはおかしいな。
 アンさんは二年生だ。何回も帰郷しているならば、よほどのことがない限り、普段使っているルートを使う。

 ソールの町は、商国からの要人が首都まで飛竜に乗って行く。

 もちろん僕らのような一般民には、重要人物の情報は秘匿されているので、いつだれが出て行ったとかは知らされない。

 そうか、アンさんは帰郷の際には、ソールの町を使っていたのか。
 もしかしたら、道ですれ違ったこともあるかもしれない。

 そこでふと気がついた。
 先に迎えに来た者が偽者としたら、なぜ竜国は簡単に騙されてしまったのだろう。

「不思議そうな顔をしているわね」
「竜国を出しぬいた手際について考えておりました」

 そんなに簡単に騙されるものなのか。
 アンさんも同様だ。迎えに来た者に不審を抱かなかったのだろうか。

「書類は本物だったわ。両方とも」

 最初の使者が持ってきた書類は、正式なものだったという。
 不審に思うことすら、考えつかなかったようだ。

 帰郷の時期についてだが、昨年も長期休みに入ってすぐだったので、今年も昨年同様なのだろうと考えていたそうだ。
 あたり前だが、迎えに来る前にちゃんとアンさんの実家から、迎えを寄越す旨の手紙は届いてたそうな。

 そして迎えに来た人物。
 文官と護衛がひとりずつで、これも別段不思議ではない。

 飛竜に乗って国境近くまで送るので、人数は二人以内に絞ってほしいと、こちらから要望を出していた。
 やってきたのもふたり。怪しいところはない。

 そして極めつけ。
 迎えにきた人物は、アンさんと面識があった。

 会話などから、それほど親しいとは感じなかったが、互いに見知っているのだから、まったく疑う必要もない。

「いまの話を聞いただけですと、後から迎えに来た者の方が怪しく思えますね」
「たしかにね。でも違うのよ。だって、いつもの人が来たのだもの」

 あとから来た者は、三月と八月の長期休みのたびに迎えに来る者らしい。
 つまり偽者を疑うならば、どうしても先に迎えに来た者しかありえない。

「困りましたね」
 会議が紛糾したはずだ。

 竜国が預かった他国の重要人物。よりによって、氏族長の孫娘。
 それをまんまと偽者の使者に奪われてしまったのだ。
 竜国に落ち度はそれほどない。

 書類は正式のものであるし、文官はアンさんと顔見知りだった。
 これで帰郷を認めなかったら、両国の関係にヒビが入る。

 だが、さらわれた事実は変わらない。
 アンさんは国外へ連れだされてしまったし、ご丁寧にも送ったのは竜国が誇る竜操者。

 いろいろ言い訳はあるが、責任がまったくないとは言い切れない。
 先ほどの大臣らしき人物と竜操者が言い合いをするわけだ。

「お前たちが帰郷を認めたからだろ!」
「なぜ、いつもと違う町へ送ったのだ、おかしいとは思わなかったのか」

 あたりを延々と言い合っていたのかもしれない。

「それで本題なのだけど」

 女王陛下は扇をパチンと鳴らした。〈左手〉が周囲に気を配る。
 そんなに警戒しなくても、聞き耳を立てている者は感じられない。言わないけど。

 僕は静かに話の続きを待った。
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