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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 僕が乗った馬車は、ソールの町を出発して、半日後にはネイトの町に到着した。
 クリスタン義兄さんとエイナ姉さんがいる町だ。

 ここはソールの町から王都へ行こうとすると、必ず通る町だ。

「出発は明日の朝になります。それまでご自由にして結構ですよ」
「ありがとうございます」

「明日は、宿の前に馬車を持ってきますので」

 そう言うと、御者は頭を下げて、行ってしまった。
 馬車を預けに行ったのだろう。

「さてと、姉さんに会いにいくか」
 半日ほど馬車に揺られただけなので、日はまだ高い。

 ここから次の町までは、ほぼまる一日移動しなければならない。
 なので、はじめからここで一泊するのは想定通りだったりする。

「姉さん、いる?」

 雑貨屋の裏口から入り、僕は中に声をかけた。
 義兄さんの実家は、この町で雑貨屋を営んでいる。

「あら、レオンくん。いらっしゃい。もしかして、竜の学院に向かうの?」
「ヨーランおばさん、こんにちは。そうなんです。……本当は行きたくないんですけどね」

「あらあら。国中の男の子も女の子も憧れる竜操者だというのに、レオンくんは変わっているわね」
「僕はパン屋になるつもりでいましたから。あっ、これ父さんからです」

 今朝焼いたばかりのパンを差し出した。

「いつもありがとうね。エイナさんはいま、夕食の買い出しに行っているの。もうすぐ帰ってくると思うわ。中で待っていてね」
「そうですか。じゃ、遠慮なく」

 ヨーランおばさんは、クリスタン義兄さんの母親で、ここの雑貨屋を切り盛りしている。

 夫のドロドフさんは、いつも店番をしているので、きっと表の方にいるのだろう。
 足を悪くして、杖が手放せないため、裏方はいつもヨーランおばさんの仕事だ。

 ドロドフさんもまた、かつては女王陛下の〈右足〉として、町と町だけでなく城の中にまで情報を伝えていた〈影〉のひとりだったらしい。

 任務の途中で敵の襲撃を受け、足を怪我したため引退することになったという。

 姉さんやヨーランおばさんは、ドロドフさんの裏の仕事を知らない。
 怪我も、荷運び中に強盗に襲われたことになっている。

 だからクリスタン義兄さんの〈右足〉の仕事も知らない。

「あら、レオン。来ていたの?」
「おかえり、姉さん」

「ただいま。……もしかして、竜の学院に行っちゃうの?」
「そうだけど、よく分かったね」

「ウチの宿六やどろくがこの前、父さんのパンを持ち帰ってきたからね。ソールの町に仕入れに行ったんでしょ? 近いうちに来るとは聞いていたけど、まだ日があると思っていたわ」

「学院の生徒ひとりひとりに馬車が用意されたみたいだし、順番なのかな。たしかに学院が始まるまで、まだ日にちがあるからね」

「しかし、あんたが竜操者とはねえ。最初聞いたときは、耳を疑ったけど」
「僕だってそうだよ。まさかって感じ」

「まっ、がんばんなさい。きっとそういう運命だったのよ」
 姉さんはカラカラと笑った。

「そうだね。父さんのパンをヨーランおばさんに渡しておいたから」
「ありがと。……それで、今日はゆっくりしていけるの?」

「宿が取ってあるんだ。それで明日の朝に出発だね。馬車の予定があるらしくて、それに従わなくっちゃならないんだ」

「じゃ、せめて夕食を食べていきなさい。アイツは、王都に仕入れに行くって、すぐに出て行っちゃったから。しょうがないんだから」

 クリスタン義兄さんは、僕の報告書を届けに行ったんだろうな。
 馬車よりも早いはずだから、そろそろ王都に着いている頃かな。

「分かった。じゃ、ドロドフおじさんに挨拶したら、宿に食事は要らないって、言いに行ってくるよ」

「すぐに戻ってきなさいね。用意して待っているから」
「了解」



 久しぶりに、エイナ姉さんの手料理を堪能して、僕は宿に戻った。

 案の定というか、竜の学院を卒業したらしばらく戻れないと言ったら、絶対に戻って来なさいと、それはもう強い調子で言われた。

 竜の学院は二年制で、一年目の終わりごろに竜を得る。
 竜迎りゅうむかえのが、新年早々にあるのだ。

 そして学院の二年目は、竜に慣れること。戦いに慣れることになる。

 卒業した後は、軍属に入るか、フリーの竜操者になるか選ぶことができるのだけど、ほとんどの場合、生活に困らない軍属を選ぶらしい。

 よほど実家が大金持ちか、訳ありの場合を除いて、その方が先々を考えても有益なそうな。

 僕はまだどうするか決めていないが、できればフリーで、しかも辺境の片隅で暮らしたいと思っている。
 それができるかどうかは、パトロン次第なところもあるのだけれども。

 それとは別に、クリスタン義兄さんの事が気にかかる。
 姉さんの話によると、このところ、ものすごく仕入れが忙しいらしく、あちこち飛び回っているという。

 仕入れは忙しい……本当のところは、〈右足〉の仕事だ。
 このネイトの町は、商国からの出入りを監視するに都合がいいと、義兄さんに聞いたことがある。

 ここからソールの町までは半日。
 王都に向かおうとすれば、一番近い町でも、ゆうに一日はかかる。
 だから、どんな馬車でも、この町で一泊せざるを得ない。

 一方、竜国の七大都市のひとつでもあるソールの町は、規模も大きいし、人も多い。
 出入りを見張るならば、ひとつ隣の、ネイトの町の方が、やりやすいのだという。

 そのせいか、それほど大きくないこの町で働く〈影〉の数は、ソールの町と遜色ないらしい。

 にもかかわらず、義兄さんがそれほど忙しくしているのに、何かわけがあるのだろうか。

 今度、義兄さんに会ったら聞いてみるか。
 教えてくれるか分からないけど。



 翌朝、僕はネイトの町を出発した。
 残りの旅程はあと四日。

 やはりというか、姉さんやヨーランおばさん、そしてドロドフおじさんも見送ってくれた。

 ドロドフおじさんが、こっそり教えてくれた事によると、義兄さんは王都で僕を待ち構えているらしい。
 人の悪い笑みを浮かばていたから、気をつけるようにと言われてしまった。

 気を抜かないようにしよう。

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