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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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「さて、どういうことか説明してもらいましょうか」

 長期休みの三日目。
 場所は前回と同じ、レストランの個室。

 そこで僕は、リンダに詰め寄られている。

「パン屋でアルバイトしているところを、偶然アンさんに見られてしまったんだ」
 偶然、つまり不可抗力であることを強調しておいた。

「パン屋でアルバイトって、なによそれ」
 リンダの目がまたたいた。

 そういえば、説明するのを忘れていた。

「僕の父さんと母さんが王都で出会ったのは知っている?」

「聞いたことがあるわね。王都で修行していたあなたのお父さんを見初めたとかなんとか。実家に引っ張ってきたんでしょ」

 引っ張ってきた……世間的には、そういう解釈なのか。まあいいけど。

「両親が若いころ働いていたパン屋が王都にあってね、僕もそこで働かせてもらっているんだ」
「働く? だってあなた、竜操者になるんでしょ?」

 意味が分からないらしい。学院生は衣食住のほとんどを支給されるわけだし、働く必要はないもんな。
 やっぱり珍しいのだろうか。

「でもホラ、別にアルバイトしちゃいけないわけじゃないし、物心ついたころからパンを焼いていたんだから、その生活をすべて止めろと言われても困るでしょ」

 生活のために働くのではない。これは今までの生活の延長に近い。

「そういえば、そんなことを言っていたわね。……で、どこで働いているの?」
「商業街にある『ふわふわブロワール』ってお店だよ。ふだんは裏方なんで、店にはあまり顔を出さないけど」

「偶然って言っていたわね。たまたま店に出たら、会ってしまったとか?」

「そういうこと。顔を知られているとは思わなかったんだ。それでお店に来られても困るし、へんに噂されたら大変だから、黙っていてもらう代わりに、外で会うことにしたんだ」

「ふうん。……まあ、そういうことなら、許してあげるわ」
 なぜ今のでリンダの許しが必要なんだろうか。

「分かってくれて良かったよ」
 理解してくれたなら、それでいい。この話はおしまいだ。

「ねえ、私もそのパン屋に行っていいわよね」
 話を聞いてなかったのか。

「店に来られると困るから、外で会うことにしたんだけど」

「なら、アンって人はもうお店に行かないの?」
「彼女は技国式のパンを焼いている店に来ただけだから……でも普段は僕もいないし、来ないと思うけど」

「そういえば、あなたの家も技国式のパンだったわね。美味しいけど量が少ないっていう」
 美味しいけど、量が少ない……竜国の民は、みんな同じ反応をする。
 あと少ないのに高いとも。

 褒め言葉なら、柔らかくて美味しいとよく聞く。
 だがそれ以上に、高いのに量が少ないパンという意見が多い。

 両手に持ってみるとすぐに分かるが、技国式のパンは軽い。
 それがいいというお客さんもいるが、「どうも食べた気がしない」というお客さんも多い。

 その辺は好みだと思っている。
 あまり人気になると、ライバル店も増えるだろうし。
 今ぐらいの認識がちょうどいいのではなかろうか。これは決して負け惜しみではない。

「長期休みが終わったら、僕も早朝だけの手伝いになるし、店に来てもいないからね。それでも来るの?」
 そう告げると、リンダは「だったら行っても意味がないわね」とつぶやいた。

 やっぱり、会うのが目的だったか。

「じゃ、定期的にここで会いましょう。それでいいわね」
「なんで?」

「親交を深めるため」
「今更?」
 幼なじみなのに。

「お互いをよく知るためでもいいわ」
「いや十分知っているでしょ」
 幼なじみだし。

「他を牽制するためよ」
「本音が出た!」
 やっぱりだ。

「そうよ。悪い? もうパパがうるさくてしょうがないの。従業員も、入れかわり立ちかわりやってくるし」

 王都に家があるリンダは、ちょくちょく帰ってくるように言われているらしい。
 入学前はそんな話は一切なかったらしく、急に過保護になったのは僕のせいだろう。

 リンダの自宅には、事務所が併設されている。工房や販売店は別にある。
 そして自宅にリンダが帰ってくると、従業員の出迎えがすごいのだとか。

 竜紋が現れてから僕も同じ経験をしたので分かる。
 人がワラワラと寄ってくるのだ。あれは厳しい。

 友人、知人たちが示し合わせたかのようにやってくる。
 ひとり帰ったかと思うと、すぐに別の人が来たりする。僕の知らないところで順番待ちをしているんじゃないかと思うほどだ。

 僕の場合、途中から愛想笑いが売り切れた。

「毎月会えるか分からないけど、なるべく時間を作るから」
「本当ね! 約束よ」

 リンダの目がマジだ。
 僕は神妙な顔で頷いた。



 リンダと会った翌日、僕はアンさんとの待ち合わせ場所に向かった。
 最初の手紙に、希望の日時と場所を書いておいたら、オーケーの返事が来ていたのだ。
 帰省すると言っていたし、早いほうがいいと思ったのだ。

 待ち合わせ場所は、技国噴水前にした。
 どんなからくりか、時間で吹き上がる水の形が変わるのだ。

 待ち合わせ場所としてはかなり有名だが、学院からだと馬車を使う必要がある。
 ここなら知り合いに会うこともないだろう。

 一応僕から誘ったことになるので、その後の予定も決めておいた。
 ミラから聞いた女性が好みそうなお店に連れて行く。さすがにリンダには聞けなかった。

 その後はブラブラと町を探索し、ちょっとだけ高級なレストランで食事でもして別れようと思う。
 アンさんならば、行き慣れているだろうが、僕にはそうでもない。
 ちょっとだけ高級な店で我慢してもらおう。

 そんなことを考えながら噴水を眺める。そろそろ約束の時間だ。
 今日の流れを頭の中でシミュレートしつつ、周囲を見渡すが、アンさんの姿はまだない。

「まだかな」
 独り言を呟きつつ、ぼくはアンさんを待ち続けた。



 だが、いくら待っても、待ち合わせ場所にアンさんは現れなかった。
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