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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第2章 技国内乱編

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 目の前の女性は僕のことを知っている。
 人違いで押し通そうと思ったが、顔を知られ、名前と学院所属までバレている。

 ここでとぼけても、毎日店に来られたら逆に大事おおごとになってしまう。
 それだけは避けたい。

 店内に他の客がいないのを確認してから、僕は覚悟を決めた。

「たしかに僕はレオンですけど、あなたは?」

「以前お会いしておりますの。直接お声をかけたことはないのですが……」

 どう話そうか迷っている顔だ。これだけでもう予想がついた。

「王立学校でお会いしましたか?」

「はい! 二年に在籍しております、アンと申します。よしなに、レオンさま」
 やっぱりだ。

 王立学校の生徒か。
 ここは距離も離れて、途中にはもっと高級な店がいっぱいある。出会う可能性はかなり低いはずだった。

 それに僕は裏方だから、同年代の客に注意することをすっかり失念していた。
 まったくもって迂闊うかつだ。

「すみません。ここはパン屋で、僕は従業員です。そしてあなた……アンさんはお客です。ここでさま付けはご遠慮ください。それと学院の件も、店に迷惑がかかるといけませんので、一般には隠しています」

「まあ、そうでしたの。それは失礼しました」

 アンさんはすぐに謝罪した。やはり、いいとこのお嬢様のようだ。
 しつけというか、教育が行き届いている感じだ。

「僕を見知っているのは、顔合わせ会ですか?」
「はい。一回目のときに、同じテーブルにつかせていただきました」

 ニッコリと微笑むアンさんの顔を見て、少しだけ思い出した。
 積極的ではなかったので、他の人に紛れてしまったが、たしかに同じテーブルにいた気がする。

「思い出しました。たしか、技国出身と自己紹介されていたように思います」
「まあ、覚えていただけたのですね!」

 王立学院は他の国にも門戸を開いている……わけではない。
 他国籍の者は、受験資格を得るのが大変なのだ。

 両国の許可が必要で、授業料も竜国の民に比べて高い。
 王立学校には多くの税金が投入されているのだから当たり前だろう。

 それでも、技国や商国からの申請があとを絶たないと、聞いたことがある。

 このアンさんも、入学を許可される程度には、重要人物なのだろう。
 あとで女王陛下に聞いてみるか。

「それでレオンさま……いえ、レオンさんとお呼びすればいいかしら」
「僕の方が年下ですので、レオンくんでどうでしょう」

 三年生のロザーナさんがレオンくんと呼んでいたのを思い出した。
 どうしているかな、いじめられてないといいけど。何となく憎めない人なのだ。

「分かりました。これからはレオンくんと呼ばせていただきます」
 アンさんはにっこり笑った。これからは?

「ぼ、僕はアンさんと呼ばせてもらいますね」
「はい。……それでもしよろしければ、このあと食事でも」

 内心の同様を押し隠して答えていると、さっそくお誘いが来た。
 分かっていたことだが、他国からわざわざ王立学校に入学するのだ。
 理由は言わずもがなだろう。

「申し訳ありませんが、まだ仕事がありますので」
 アンさんの顔が、目に見えて落ち込んだ。

 あまり無下むげにして、店に日参されても困る。
「ですが、日を改めてでしたら可能です」

「まあ、そうですか。ありがとうございます!」
 アンさんの顔が華やいだ。とても分かりやすい表情をする。

「そうですね。僕から手紙をしたためましょう。それでよろしいですか?」
「はい。お待ちしております」

「それでは申し訳ありませんが、店の方へはどうかご遠慮くださいませ。いろいろと迷惑がかかりますので」

「そうですわね。でも、どうしましょう。故国の味が楽しめると思いましたのに」

 そういえば、『ふわふわブロワール』は、技国式のパンだった。
 竜国式のパンは中身が詰まっていて、固くて重い。
 技国の人には合わないだろう。

 竜国の人は慣れているし、食べごたえがあるので、竜国式のパンを好む人は多い。
 とくに力仕事する人には大好評だ。
 僕は実家が技国式なので、軽くて柔らかい方に慣れてしまったけど。

「店に顔を出しませんので、長期休みの時だけ気をつけてもらえれば構いません」
 授業が始まれば、早朝に買いに来ることもないだろう。

「そうですか。では休みの間はなるべく顔を出さないようにします。わたくしももうすぐ帰郷ですし」

 なるほど、長期休みに入って、今日は二日目。
 そろそろ帰りはじめる頃だ。この分なら、あまり気にしなくて平気かな。

「では手紙を出しますので、よろしくおねがいします」
「はい。楽しみにしていますわ」
 上機嫌でアンさんは帰っていった。



 夕方、寮に帰ってからすぐに、アンさん宛に手紙を出した。

 その翌朝、アンさんからの返信が来た。素早い。
 ……が、それだけではなく、シルルさんが花束を抱えて現れた。

 宛名はリンダ。僕の幼なじみだ。
「またやらかしたの? すごく怒っていたわよ」

 昨日出したアンさん宛ての手紙のことか?
 学年が違うはずなのに、情報が早いな。

「……どうして分かったんだろう」

 もらった花束もそこそこに、僕はリンダへも手紙を書くはめになった。これは遅れちゃいけないやつだ。
 字が震えていたとしても、それは致し方ないだろう。

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