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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 魔国の首都イヴリール。
 魔国王ロイス・フロストのもとに、第十二階梯ララが戻ってきた。

「よくぞ戻った」
「使命、達成できませんでした。この罰はいかようにも」

 ララは結果を魔国王に伝える役目。
 それゆえ襲撃には一切加わっていない。

 跪くララに、魔国王は優しげな声をかける。
「危険な任務だった。それに命をかけて挑んでくれたのだ。なにを罰する必要がある。本当によく戻ってくれた」

「もったいないお言葉です」

「詳しい話はあとで聞く。いまはゆっくり休むといい」
 見るからにやつれているララを別室へ赴くよう指示し、魔国王は一人になりたいと別室へ篭もった。

 真の目的は女王の命を奪うこと。だがそれは失敗した。
 女王さえ倒れれば、竜国は混乱する。

 地方領主が様子見をすることは予見できた。
 王子が即位しようとも、すぐに竜国全土を掌握できるものではない。

 混乱に乗じて、領土の半分を奪える自信があった。
 だが、それも泡と潰えた。

 ふたつの月と大転移の関係は、魔国でも研究されていた。
 過去の記録から、もしかすると近いのではと言われ始めていた。
 ただ確証は得られなかった。

 竜国の予想をもとに研究させてみると、ほぼ間違いないという結論が出てしまった。
 大転移は来る。

「月魔獣の襲来か」

 どう考えても魔国は滅ぶ。
 人口をいまの三分の一にしても無理だ。

 魔国南部は、どういうわけか植物が育たない。
 岩場と砂漠が大部分を占め、残りは荒れ地である。
 水も少ない。

 新たに開墾したとしても、満足な収穫は望めないだろう。
 首都を含めた東西にのびる穀倉地帯が、魔国唯一の食料収入源なのだ。

 ここが大転移によって荒らされれば、自活の道は完全に閉ざされてしまう。

「すでに計算はできている」

 商国には穀倉地帯そのものがない。
 大部分が輸入に頼っている。
 そもそも人口が少ないのだから、自給できなくても問題ない。
 買えばいいのだ。

 技国は、魔国以上に対人に特化した軍隊を持っている。
 そして長年、月魔獣の被害がないために人口が多い。

 動員できる兵力は十万とも言われている。
 そのうちの何割かが、駆動くどう歩兵である。

 技術力に加えて大量の兵士を持つ技国に、わざわざ戦争を仕掛けるほど愚かなことはない。
 伝え聞いたところによると、いま技国の間では氏族クラン同士が揉めているらしい。

 だからといって、ここで介入すれば逆に団結される恐れがある。
 そもそも技国は、九つの氏族によって都市も運営もそれぞれなのである。

 竜国のように、頭を取れば国が乱れることもない。
 技国と戦うならば、氏族すべて滅ぼすくらいの総力戦を覚悟しなければならない。
 どだい無理な話だ。

「まだ時間は残されている」

 すでに計算は終わっている。
 この大陸で採れる穀物の総量と四つの国の人口はほぼ釣り合っている。
 魔国の穀倉地帯がなくなれば、どこかの国が飢える。
 もちろん、飢えるのは魔国だ。

 自国民を生きながらせるためには、やらなければならない。

 今回の襲撃で竜国の対応力は分かった。
 やはり王宮を攻めるのは得策ではない。
 ならば、狙うは女王が城の外へ出たときだろう。

「一番近いのは、竜迎えの儀か」

 年が明けたらすぐである。
 そこに狙いを定めて、いまは力を蓄えるしかない。
 魔国王は次なる計画に向けて、書類にペンを走らせた。

               ○

 魔国からの襲撃があったことは、隠しおおせるものではない。
 城を守る多数の兵が死んでいる。

 それだけではない。
 演習に出た若き竜操者たちも襲われた。
 襲撃自体は未然に防げたが、ここでも死者が出ている。

 そのため、襲撃の事実を最大限利用する政策が採られた。

 魔国十三階梯の四人までもが部下を引き連れて、王宮と若き竜操者たちを同時襲撃した。

 まず書面にて魔国のみならず、商国と技国にも通知し、魔国を糾弾した。
 竜を国境線に配置し、魔国の出入りしようとする商人を捕らえた。

 竜国が本気であると見せつけたのだ。
 魔国の対応如何では、国境付近にいる竜操者たちがこぞって行動を起こすだろう。

 王都が襲撃を受けて、本の数日のうちにそこまで進んだのだから、竜国の対応はかなりすばやいと言える。
 学院生たちはいまだ演習中なのだ。

 この事態に対し、魔国からの返答はそっけないものだった。
「かつてそのような者がいたことはあるが、素行不良により、とっくに解雇、放逐している」

 すでに十三階梯からは除名しているという。
 ついでにいい機会なのでいまの魔国十三階梯を紹介しようかという一文まで付いてきた。

 一緒にいた者たちは、おそらく彼らを拾った非合法組織であろうとも。
 非合法組織には手を焼いていたので、排除してくれて助かったとまで書かれていた。
 魔国はこれに関して一切関わりがない。そう締めくくられていた。

 もちろん方便であり、どの国もそれは承知している。
 ただ、形式を整えただけだ。

 ならばと、竜国は別の手に乗り出した。
 魔国からの感謝もあったことだしと、竜国内にある非合法組織の壊滅に乗り出した。

 とくにずっと泳がせていた魔国からの間者については、末端にいたるまで全員を捕らえた。

 中にはごくわずかしか協力していない者もおり、そのすべてを捕らえるのは異例のことだった。
 商国と技国にも、「魔国が非合法組織の暗躍に困っているから協力しよう」と呼びかけた。

 結果、商国や技国で活動する魔国の商人が捕らえられたり、出入国を制限されたりした。
 両国とも自国の利益のために分かっていてやっているのである。

 もちろん、空いた穴を埋めるのは、自国の商人たちである。
 普段から商品の流通ひとつにもうるさい魔国である。

 このままでは物の流通がなくなり、経済が一気に悪化してしまう。
 竜国の行為に、魔国は多大な文句を言い出した。

 だが竜国は取り合わない。それどころかけしかける始末である。

 商国も技国もそれに乗っかった。
 言い出したのはすべて竜国だと、責任を竜国に押し付けている。

 竜国とてそれが分かってけしかけている。報復である。

 魔国は、長い時間をかけて竜国に潜り込ませたスパイが捕まっていく。

 他にも魔国の商人だけを狙い撃ちして、かなり厳しい検品と身元調査が行われているのだ。
 商品の到着が遅れれば違約金を支払うのは魔国の商人である。たまったものではない。

 また、財を取り上げられ、解体させられた魔国の有力者たちも数多くいる。
 彼らは竜国に住み、魔国の利益となるように動いていた者たちである。

 よくぞここまで調べていたと思わせるほど、捕まり、財産を没収された者たちの数は多い。
 捕縛の手がもっと下、つまりほとんど魔国とかかわりのない一般人におりる前に、魔国は両手を挙げた。

 たとえいまは違うとしても、過去要職にあった者たちの所業は遺憾である。
 魔国が公的な謝罪と多額の賠償金を支払うことで落ち着き、両国の関係は元に戻った。

 表面的はであるが。


 そして竜国の女王は、やるときは徹底的にやる人物なのだと、他の国々に広く知れ渡った。
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