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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 竜国の王宮、謁見の間。

 そこへ一歩踏み出したイメルダは、背後からの衝撃で吹き飛ばされた。

「――なっ!?」

 ルクノスが周囲の警戒するよりも早く、大質量の何かが上から落ちてきた。
 すぐにそれが不可視の盾であると気づく。

 こんなものを使う魔道使いは一人しか知らない。
 だが王都にいるはずがない。

「嵌められたかっ!」

 密かに呼び寄せ、待ち構えていたとしか考えられない。罠だったのだ。
 床に押さえつけられたルクノスの近くには、いつの間にか男が立っていた。

「この雷杖、まだ持っていたのか」
「くっ、キサマ……」

 ルクノスの手から転がった杖を拾い、ハルイは背後を指差した。
「それであっちは新顔か?」

「答える必要はない」
「ふむ。それは女王陛下の前でも同じことが言えるか?」

「………………」
「……と言うと思ったか?」

 ――ゴキリ

 ルクノスの首が、不可視の盾によって、あり得ない方向に曲がった。
「それで通路は……後人はなしか」

 わずかな間に、ふたつの屍が転がった。

「………………」
 女王陛下の〈左手〉たちが呆然としている中、ヒフだけが我にかえった。

「じ、尋問のために、生かした方が良かったのでは?」
「この雷杖から雷を打ち出す魔道……」
「はっ?」

「そう思わせて、実は身体から雷を出すんだよ、コイツは。ずっと隠せていたと思ったんだろうが」
「まさか」

「そのまさかだ。ここにサヴァーヌを連れてきてみろ、自爆覚悟で撃ってくるぞ。そうすればみんな感電死だ。あっちに転がっている女は知らないが、目的は同じだろう」
「………………」

 これは二段構えの作戦。

 多数を囮に使い、少数が女王の暗殺に赴く。
 たとえ失敗したとしても、自分たちの身柄が外交に使えると欲を出すはず。
 そのとき自爆すればいい。

 ハルイが謁見の間の奥に視線を送った。

 サヴァーヌ女王がでてきた。
 すぐに〈左手〉が跪く。女王はそれを手で制して、立ち上がらせる。

「おつかれさま」
「大した手間じゃない」

 サヴァーヌの登場に、〈左手〉の面々は脇に移動する。

「だれが来たのかしら」

「ここに倒れているのが『サンダーレイン』のルクノスだ。竜国だと『雷杖らいじょう』の方が通りがいいか」

「第六階梯ね」
「もうひとりは知らないな。まだ若いし、魔道を使う暇なく倒したから、判別しようがない」

「そう。この中に『石眼せきがん』はいなかったのね」

「逃走経路の奪還がまだだし、そっちに回っている可能性はある。ただ普通ならば、直接ここを目指すだろうから、出張っていないのだろう」

「外にヒラングを準備させていたのだけど、無駄になっちゃったわね」

 竜操者ソウラン・デボイは、女王陛下と同じ特殊竜を駆る。
 口から青い炎を吐く青竜に乗る竜操者だ。

「もとから来るかどうかは半々だったから、そういうこともある」
「そうね。片付けの邪魔になるから、ハルイこっちへ」

 奥の間へハルイを誘おうとする女王は、ふと気づいて手をヒラヒラと振った。
 すぐに片付けをしろという命令である。

 サヴァーヌとハルイが奥に消えたあと、みな大急ぎで謁見の間を片付けはじめた。

               ○

 城内に侵入した襲撃者をすべて排除し、片付けも終了した。

 襲撃から半日経って、その報告がサヴァーヌの元にもたらされた。

 女王陛下の護衛にハルイがつき、残りの〈左手〉が侵入者の殲滅、城内の見回りをした。
 同時に城外へ監視の目を向け、すべて異常がないことを確認し終えている。

 その間、ハルイは女王陛下と紅茶を飲みながら談笑している。

 ヒフからしてみれば、いろいろ言いたいことがある。
 その一方で、久しぶりにハルイとの実力差を見せつけられ、反抗心が潰えている自分を自覚している。

「謁見の間に倒れていたもうひとりは『バンク』のイメルダらしいわ。わたしたちは『敷布しきふ』と呼んでいるけど」
「聞かない名だな」

「第九階梯ね。『雷杖』に比べたら、知名度は低いわ」
 まだ若いしと、女王は言った。

「魔国がずいぶん追い詰められているようだが、襲撃に使う戦力が中途半端な気がする」
「そう? ハルイがいなかったら敵もいい線いっていたんじゃないかしら」

 謁見の間にいる〈左手〉だけで、第六階梯と第九階梯を相手にできたかといえば、心もとない。
 二人のうちどちらかを後ろに通せば、女王陛下の命はないところだった。
 そういう意味では、十分勝算のある襲撃だったとも考えられる。

「それでも成功率はいいとこ六割だな。魔国王ならば、七割以上、できれば八割を超える勝算で攻めてくると思ったんだが」

「今回は小手調べかしらね」
 つまり、本襲撃はあるかもしれない。

「その時は、出てくるだろうな」
 今回の襲撃でバシリスクを投入しなかったのは、竜国の対応力を見たかったのかもしれない。

「王宮の外に青竜を飛ばしたのは間違いだったかしら」

 バシリスクにハルイが負けた場合、女王の命はない。
 そのときは、謁見の間どころか、王宮すべてを青竜の炎で焼き尽くす予定であった。

 青竜の口から放たれる青い炎は、岩盤すら溶かす。燃やすのではない。溶かすのだ。
 炎があらゆる通路をかけめぐり、ありとあらゆるものを溶かし尽くす。

 青竜は女王が最後の手段として、事前に配置していた。

「学院の演習にもいなかったようだしな」
 すでに報告が届いており、そちらにもバシリスクと思われる人物は確認されていないとある。

「どちらかに来ていたら、首都襲撃を強行したのに、残念ね」

 すでに竜国は、大転移が起きたあとの魔国の状況をほぼ正確に予想している。
 国としての体裁は保てなくなるレベルの災害になると認識している。

 魔国が生き残るには、数年以内に他国を侵略し、移民するしか方法がない。

 ならば、個人の最強戦力であるバシリスクを、どこかで投入してくる。
 逆に、バシリスクを投入したことが分かれば、魔国の首都にはいない。

 竜の速度は他の追随を許さない。
 一気に首都を制圧することが可能となる。バシリスクさえいなければ。

「さて、この落とし前をどうつけようかしらね」

 魔国からの襲撃。これをどう外交に活かすか。
 それを考えるのは女王の仕事である。

「いまは時期じゃないぞ」
「分かっているわ。石眼がいるんじゃ、どうせ攻め落とせないでしょう?」

「それと技国が揺れている。ほどほどにな」
「あら、そっちもあったわね。……じゃ、今回は軽くにしておこうかしら」

 商国に一番近い町ソールだからこそ、さまざまな情報が入ってくる。
 商人たちのもたらす情報の中に、技国についていくつか不穏な噂が含まれていた。

 さりげなくそれを女王陛下に伝え、ハルイは腰をあげた。
「そろそろ家に戻る。もう、ここには用はないし」

「あら、まだしゃべり足りないわよ」
「おしゃべりもほどほどが一番だ」

「……それもそうね。ならば次回の楽しみにとっておくわ。次はいつがいいかしら。予定を決めておきましょう」
 女王が微笑むと、ハルイは少しだけ嫌な顔をした。

「そうだな……竜迎えの儀には顔を出そう」
「あら、半年も先なの?」

「そうそう家を空けていられない」
「分かったわ。竜迎えの儀、待っているわね」

 ハルイは一度だけ振り返ると、軽く頭を下げて出ていった。

「それまでの間は、レオンに話し相手になってもらいましょう。ビルもサーラもなぜが寄り付かないのよね。詰まらないわ」

 真面目な性格のビルドラード王子は粛々と政務をこな、外遊好きのサーラーヌ王女はそもそも王都にすらいないことが多い。

 いじる相手を欲していた女王がレオンに白羽の矢を立てたのは、必然といえよう。

「いつ戻ってくるのかしらね。楽しみだわ」
 女王は上機嫌で椅子から立つと、外へ通じる小窓を開けた。

 窓からは、竜舎がよく見えた。
 視線に気づいたのか、白竜が首を巡らせた。

 楽しみね。そうつぶやくサヴァーヌに、白竜は大きな声で応えた。

 下で竜舎の使用人たちが右往左往する間に、サヴァーヌは窓から離れた。
ルクノスはずっと隠していましたが、身体から雷を発する魔道を使います。

それを雷杖を通して放出するのですが、杖から雷を出す魔道だと思わせていました。
指向性を持たせず強力な雷を出す(感電死させるくらい)と、自分にもフィードバックしますので、滅多なことでは使えません。

襲撃に失敗した場合、投降してなんとか女王陛下と面会する整える予定でした。(ルクノス自身、魔国で地位がありますし直接会えるだろうと)

同じく、風呂敷を出して戦っていたイメルダですが、彼女はクロスを操作する魔道です。(風呂敷を操る魔道ではないんですね)

ただし、操作できるのは布1枚のみなので(今後の修業で増えるかも)、これも失敗して掴まったあとは、女王陛下と面会し、女王陛下が着ている服で首を絞めるなどして殺す予定でした。

なぜこの二人が選ばれたのかと疑問に思う方がいるかもしれないので解説してみました。

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