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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 ふたつの月が交わらなければ、鋼殻こうかくは落ちてこない。
 いまは、天頂にエルデノの月が輝くのみ。

「視界を塞いでいる、黒い霧の範囲はどこまでなんだか」

 味方すらこの霧の中の様子は分からないはず。
 同士討ちを避けたければ、霧の中に入れない。

 ならば、やりようはあるか。
 僕は闇に溶けた。

 これでいい。落ち着いて考えられる。

 ただ霧を出すだけの魔道のはずがない。
 かといって、敵味方関係なく巻き込むのは使い勝手が悪い。

「さて、敵の意図はなにかな」

 魔道使いは魔国においてもかなり稀少だ。

 魔道使いになるためには、とある秘薬を飲む必要がある。
 それは天蓋(てんがい)山脈で採れる植物の汁を原料としているが、かなり高所に自生しているため、採取量は毎年微々たるものだと聞いている。

 さらに、それを飲んで魔道が使えるかどうかは運次第。
 魔道使いの子は使えるようになる率が高いが、運次第であることには変わりない。

 それでも古くからの魔道使いの家系は、子々孫々血脈を絶やさない掟をつくっているほどである。

 魔道は無意識の具現化とも言われている。
 僕の『闇渡り』のように、「こうであったらいいな」と思うものが発露する場合が多いという。

 ゆえに魔国の魔道使いは、月魔獣を倒すための力――派手で強力な魔道を身につける者が多い。
 大なり小なり月魔獣戦を想定したものになってしまうのだ。

 だが、それも絶対ではない。
 対人を想定した魔道もまた、それなりの需要がある。

「この黒い霧……そういえば、まとわりついてきたな。それと重いというか、ねばついたというか」

 闇の中を移動する。
 霧の範囲外に出てから確認したところ、一辺が数百メートもある黒い霧の塊ができていた。

「思ったより霧の範囲が広いな」
 風が吹いているのに、流れる霧の動きが緩慢である。

 案の定、敵はだれひとりとして霧の中に入っていない。
 味方はというと、霧を迂回してやってきている。

 味方の一人が、飛来する液体を受けて半身が凍った。
 なにかと思ったが、氷のようだ。

 水が飛来するうちに白くなり、凍っていくのが見えた。
 着弾するころには、完全に凍っている。

 氷の魔道使いか。
 遠距離から一方的に攻撃されるのは厄介だな。

 黒い霧を出した敵はどこにいるか分からないが、氷を飛ばす敵はすぐに見つかった。
 一番近い僕が処理するのがいいだろう。

 幸い、布陣した敵の中では、氷使いは後ろの方にいる。
 遠距離から射撃するために前に出ていない。

 僕は闇に溶けたまま移動し、敵の背後に回り込む。
「警戒はしているわけか」

 布陣の一番左、そこにいる敵が全体に視線を送っている。見張り役だ。
 姿を現せば、すぐに見つかりそうだ。

 先にあいつを処理することに決めた。

 敵味方がそろそろ入り乱れる頃だ。
 戦闘に参加する味方は十二人のはず。

 数としてはこちらの方が多い。
 ただし、何人かは霧の中に囚われたし、見える範囲でふたりが氷漬けになっている。
 残っている味方は少ない。どうも戦況は思わしくない。

 早めに決着をつけよう。まずは、周囲に気を配っているあの男だ。
 僕は周囲を見渡して、だれもこちらに注目していないことを確認してから、姿を現した。

「……っ!?」
 狙いを定めた男がすぐに振り返る。
 マズイ、どうして気づかれた?

 振り向きざまに細身のナイフを投げてくる。
 行動も素早い。一本、二本。ナイフが飛んでくる。

 狙いは正確に僕の喉元とみぞおちを突いてくる。
 正中線を狙ってくるあたり、投げナイフは得意のようだ。

 飛び道具への対処は、父にさんざんしごかれた。
 難なく弾くが、ナイフは牽制だったらしく距離を取られた。

「突然現れるやつがいるぞ。感知結界にはかからないっ!」

 おっと、結界を張ったのはこの敵か。
 闇から出たから感知されたんだな。

 今の言葉で、近くの敵がこちらに注目した。
 最初に狙った奴はもう布陣の中央に戻ってしまっている。僕から逃げたか?

 しまったな。
 だけど、どうせ他の敵を狙っても、闇から出たところで気づかれた。

 気持ちを切り替えていこう。

 敵の布陣が入れ替わった。
 僕を危険人物とみたか、ふたりがやってくる。

 獲物は小剣と……弓?
 考えてみれば、夜陰に乗じて潜入して、寝入ったところを殲滅するつもりだったのだろう。

 歩哨はさっきの氷か、この弓で倒す予定だったのかもしれない。

 ひとりが僕に襲いかかる。
 小剣で受けようとするが、直前に矢が飛んできた。

 いい連携じゃないか。だが、対処できる。
 弓は発射する時だけ注意していれば問題ない。

 半身になって躱すだけで、矢は後方に飛んでいった。
「…………っ!」

 何か言いたそうな顔をしているが、接近してくる敵の対処が先だ。

 僕は指に挟んでおいたつぶてを手首の返しだけで投げる。

 ひとつが敵の顔に当たる。地味に痛いんだ、あれ。
 敵が怯んだ隙に、剣を喉元に差し入れる。
 うまくいった。

 すぐに引き抜いて、もうひとりに肉薄する。

「ひっ!」

 敵は弓に矢をつがえた状態で距離を取ろうとするが、前進する僕との距離はすぐに縮まる。
 狙いを定めず射った矢は、僕の頭上を通過する。
 慌てて腰からナイフを抜いたところで、僕は敵の利き手を切り落とした。

「……ぎゃっ!」

 周囲に視線をやるが、すでに乱戦に移行したため、こちらを注視している者はいない。
 安心して剣を一気に突いた。

 首を貫くように剣が潜り、隙間から血が噴き出したので、脇に避ける。
「残りは……三人か」

 黒い霧はいまだ漂っている。
 いつのまにか氷を飛ばしていた敵は倒されていた。

 集団で襲いかかったのだろう。
 敵の死体の近くに三人の氷像ができていた。

 ああいう目立つ魔道は、乱戦で標的になりやすいんだよな。

 遠距離からの魔道を真っ先に潰そうと考えるのは、だれもが同じである。
 放っておくといつまでも一方的に攻撃されかねない。

「さて、敵の残りは三人だけど、こっちの被害も大きそうだ」

 どうやら撤退するつもりはないらしい。
 腕に自信があるのか、それとも。

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