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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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「……行ったか」

 クリスタン・ローザイトは長い息を吐いた。
 今回、自分を含めて、作戦に参加する〈右足〉の戦闘能力は皆無に等しい。

〈右足〉に与えられた仕事は監視と報告。
 とくに襲撃者以外の目がないか、敵の取り逃がしや身内に協力者がいないかなどを見張ることが任務である。

 そのため、実際に戦闘に携わるのは〈右手〉のみ。
 だからこそ分かる。
 迎撃の成功率は、レオンの能力に大きく依存していることを。

「どうして自分は弱いなどと思うのかね」

「………………」
 クリスタンの言葉に、周囲の〈右手〉たちが沈黙を守る。

 女王陛下からの指令に横槍を入れた『千本針』を処理し、『悪食』に絶対服従を課した。
 その情報は王都にいる〈右手〉すべてが知ることとなった。

 少なくとも、ふたつ名持ちは簡単に、そして一方的に排除できる相手ではない。
 簡単に排除したように見えたならば、そこには断絶した実力差があるからである。

 しかも、王宮の最深部まで自由・・に出入りし、〈左手〉を翻弄したばかりか、〈左手〉からの侵入をことごとく排除したことも、まことしやかに語られる。

 この時点で実力は折り紙つきである。
 だが、それだけではない。

 現在過去を通じて、女王陛下の〈影〉最強と噂される『死神』を親に持ち、代替わりを行った三年半前には、弱冠13歳で複数の〈右手〉と交戦し、対象の無力化に成功している。

 その噂が〈影〉の間に広まると、だれも『闇渡り』を軽く見る者はいなくなった。
 本人は自覚がないようだが、敵対していい相手ではないと思わせるに十分な経験を積んでいる。

 チームを組んだとき、『闇渡り』を戦闘のかなめに据えるのは必然である。
 レオンをよく知り、信頼されている〈右足〉の自分が全体の調整をするのは当然のことであった。

 他の〈右手〉も否はない。あの噂を少しでも覚えていれば、功名心から横槍を入れることもないだろう。
 邪魔をした瞬間、首が飛ぶくらいは理解しているはずだ。

 それだけの実力があれば、先頭を任せても安心だ。そう思っていることだろう。
 現にいまも、監視していた敵はレオンが処理している。

「敵はおそらく死にものぐるいで反撃してくる。そのつもりがなければ、あんな危険な陰月の路を通ったり、こんな少人数で襲撃を仕掛けたりしない。自分の命よりも、目的の達成を至上としているだろうね。それでもおれたちは阻止しなければならない。分かるね」

 集まった〈影〉が頷く。〈右手〉が十二人、〈右足〉が四人いる。

「まず〈右手〉、岩山にいる見張りの一人は『闇渡り』が処理してくれる。そこで戦闘がはじまれば、全員で突っ込む。あとは個々の判断になるが、とにかく一人残らず処理しろ」

「かしこまりました」

「そして〈右足〉。すばやく岩山の周囲に散るように。戦闘はしなくていい。ただし、だれひとり見逃すな」

「承知しております」

 クリスタンは、木々の隙間から岩山を見る。

「距離はここから一キロメートルくらいかな。道中の半分くらいは上り坂になっている。みんな、頼むぞ」

 しばらく待っていると、岩山の頂上で動きがあった。
 レオンが行動を開始したのである。

「よし、行くぞ」
 クリスタンの言葉に、全員が動き出した。

              ○

 岩山へ来たのは二度目だ。
 監視もまったく動いていない。

 改めて思うが、見張りが二人というのはやっかいだ。
 ひとりを処理している間に、もうひとりは逃げるか戦うかを選択できる。

 そしてここには仲間が近くにいる。
 仲間を呼んで戦いを選択した場合、こっちの味方が駆けつけてくるまで、孤軍奮闘しなければならない。

「できれば、多人数のプロに囲まれたくないな」
 一撃を与えたら逃げることにしよう。

 先ほどと同じように、ひとりの背後に周り込む。
 念のため、しばらく佇む。敵に気づいた様子はない。

 探ったが、この近くに魔道のたぐいは感じられない。
 闇の中からそっと姿を現し、敵の背後から心臓の位置めがけて剣を差し込んだ。

「……ぐあっ!」
 よし、刺さった。

 剣を捻りながら引き抜き、もうひとりを見ると、口笛を吹くところだ。
 これは間に合わない!

 ピィ――――ッ!

 闇夜に響く音を聞きながら、僕は岩山を駆け下りる。
 残った一人と斬り合えば、あとからやってくる敵が背中に回る。
 ここは逃げが正解だ。

 案の定、口笛を吹いた敵は僕を追ってきた。
 最悪足止めさえすればいいと考えての行動だ。

 敵と味方、どちらが早く到着するか。もちろん敵だ。
 逃げたいが、ここで完全に背中を向けるのは怖い。

 敵が姿を現すのが見えた。予想よりはやい。
 味方は……ようやく林を抜けたところだ。

 さて、このまま味方が到着するまで、時間を稼げるか。
 そう考えたところで、周囲に黒い霧が広がった。

 僕の闇とは違う、薄くてねっとりとする嫌な霧だ。

「敵の魔道か?」

 振り返ったが、何もみえなかった。
 どうやら、この霧には視界を塞ぐ効果があるらしい。

「マズイな」

 僕はいい。闇に潜れる。
 だが、あとからやってくる味方がこれに飲み込まれると、一方的に攻撃されたり同士討ちの危険がある。

 霧を発生させた敵を確認しようとしたが、視界が奪われ、何も見えなかった。

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