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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 宿泊施設を監視している敵は二人。
 どちらもじっと動かず、まるで彫像のようだ。

 すでに僕ら〈影〉は、施設の反対側から塀を乗り越えている。
 作戦はこうだ。

 まず僕が闇に溶けたまま接近し、敵の魔道使いを排除する。
 一人はできるだろう。おそらくもう一人とは戦闘になる。

 仲間の〈影〉は宿泊施設の反対側にいる。
 駆けつけてくるまで時間を稼げれば勝利だ。

「だけど、大丈夫かな。どうみてもプロっぽいんだよな」

 実戦経験は積んだが、父さんにはいまだ敵わない。
 あのレベルの敵だったらどうしよう。
 戦うイメージはできているが、はてさてどうなることか。

 考えていてもしょうがない。
 闇に溶けたまま、監視している者の後ろに回り込む。

 ひとりは低木の根本にうつ伏せになり、視線だけを宿泊施設に向けている。
 もうひとりはやや離れた草むらで身を隠しながら、周辺に異常がないか確認していた。

「気づかれて声を出されると嫌だし、草むらの方を倒すか」

 草むらの敵は周囲と上空に目を光らせていて、背後を気にする様子はない。
 後方は感知結界でも仕掛けているのかもしれない。

 そっと背後に周り、気配を消したまま姿を現す。
 敵はまだ気づいてない。

 あらかじめ抜いていた小剣で、喉元を切り裂く。
 喉から血が噴き出した。敵が何かするより早く距離をとる。

 放っておけば死ぬ。もうひとりからの反撃に備えて構えを……と思ったら、もうその場にいなかった。

「逃げた?」
 素早い判断だ。逡巡すらしていない。

 音がする。一番木が密集した中に逃げ込んだらしい。
 下草をかき分ける音が遠ざかる。

 いつ逃げた?
 僕の姿を見た瞬間だろう。
 思いの外簡単に、ひとりを処理できたと思ったら、これだ。

 てっきり向かってくるものかと思ったが、考えてみれば、岩場には監視している者がいた。
 知らせに走ったのだろう。

「林を抜けられたら奇襲がバレるな」

 戦って負ける可能性が少しでもあれば、交戦すらしないのか。
 この判断、やっぱりプロだ。

 このまま帰したら、計画がおじゃんになる。
 逃げた敵をどうするか。
 宿泊施設からの援軍は絶対に間に合わない。

「僕が追いかけるしかないか」
 僕は闇に溶けた。



 想像以上に敵の足が速い。
 躊躇ちゅうちょしていられない。

 林が切れる前に、敵を足止め……は無理か。
 本気で逃げる相手の足を止めるなら、倒すべきだ。

 闇の中を進み、敵の前に出る。
 距離をおいて出現した僕に驚いたらしく、敵の足が止まった。

 互いに無言で剣を構える。
 プロ相手に斬り合いはしたくないが、仕方ない。
 父さんレベルの敵でないことを祈ろう。

 腰を落として間合いを詰める。
 剣の間合いに入る前に、隠した左手でナイフを投擲する準備に入る。

 敵は左手に飛び込むように身体を預けた。
 気づかれたか?
 木が邪魔で、ナイフが投げられない。

 ナイフは一旦しまって、剣のみで戦うか。
 と思っていたら、敵は二回転して距離を稼ぐと、そのまま走り去ろうとする。

「虚をつかれるところだった」

 何をするのかと見ていたら、手遅れになるところだった。
 敵の向かった先は、もうすぐ林が切れる箇所だ。

「この距離なら、林を抜ければすぐに岩山からの監視に見つかるな」

 全速力で逃げる敵に、かなり距離を稼がれてしまった。敵の意図が分かっていたのだ。
 それを許してしまった! 絶対にここで決着をつけるしかない。

 木が邪魔をして、投げナイフが届かない。
 足を止めてナイフを投げたとする。失敗すれば逃げられる。

「できるかな。いや、無理そうだ」
 敵の位置取りがうまい。

 なら、これでどうだ。
 走る敵めがけて、『闇刀やみがたな』を発動させる。
 僕の右手から先が闇にとけ、敵の前方に出現する。

「……ッ!?」

 慌てたのか、敵が剣で払おうとするも間に合わない。
 僕の腕に何かを切った感触が伝わった。

「当たった?」

 予測して剣を振るったものの、本当に当たるかどうかは賭けだった。
 敵は倒れた。

 肩口から胸にかけて斬ったようで、駆け寄ったときにはすでに絶命していた。

「……ふう。精進しないとな」
 危うく逃がして、台無しにするところだった。

 少しして、義兄さんたちがやってきた。

「両方とも倒したのか」

「急に逃げたんで、無我夢中だったよ」
「よくやってくれたな。林の中で始末できたのは大きい」

「そうだね。これで敵はあと八人。できれば岩場の上にいる監視をなんとかしたいけど」

「魔道結界込みの監視じゃ無理だろう。そこまで都合よくはいかないさ」

 岩山を囲むように感知結界が張られている。
 面での結界はやっかいだ。どこから近づいても、感づかれる。
 解除すれば仕掛けた者が気づく。つまり意味は無い。

「引き続きですまないが、岩山の監視もできるか?」
「ひとりだけならね」

 僕以外で感知結界を抜けられる者はいないらしい。
 どのみち、敵は目視で監視しているので、気づかれずに魔道結界を抜けられる者でも、近づいたらバレる。

「それでいい。どうせ見つかるにしろ、ひとりは倒したい」

 敵は一切動かずに監視している。
 後ろをとるのは容易いと思う。

「大丈夫だと思う」
 ただし、すぐに気づかれる。援軍が遅れる場合、僕が危ない。

「敵の監視に動きがあったら全員で突入する。先ほどのように敵全員が散り散りになって逃げることも考えられる」
 義兄さんの言葉に僕は頷いた。

「可能性はあるね」
「その場合はすぐに竜操者に追わせる。だが、できればこのメンバーだけで処理したい。いいな?」

 集まった〈影〉が頷く。義兄さんがリーダーのようだ。

 もしかして義兄さんって、結構地位が高いのか?
 地方都市の〈右足〉が王都の〈影〉を率いる権限はないはずだけど。

 せっかくだし、聞いてみよう。
「今回の作戦は、義兄さんが指令を持ってきたんだよね」
「そうだが?」

「もしかして現場の指揮も義兄さんが? なんでそんなことができるの?」
 僕の質問に、「ああ、そういうことか」と納得顔をして、僕の頭をなでた。

「俺は、全赦ぜんしゃの『死神』の専属だしな。今回新しく全赦を女王陛下から賜った『闇渡り』も担当しているんだぞ。それに作戦の肝は義弟おとうとの能力だからな。総合的に判断して、一番詳しいオレが指揮するのが妥当なわけさ」

 若くしてふたつ名持ちの僕は、相当な実力があると思われているらしい。
 しかも父の名は知れ渡っている。

 一般の〈影〉からしたら、エリートと一緒に作戦行動すると考えているのか。
 どうりで、僕の単独任務が多いと思ったわ。

「僕はそんなに強くないんだけどね」
「……おまえ、それ本気で言っているのか?」
「そうだけど?」

 キャリアはまだ三年と少し。若造もいいところだ。

「なら、そのそんなに強くない義弟おとうとよ。そろそろ見張りを排除しに行ってくれるかな。動きが出たら、全戦力で向かうから」
「了解」

 僕は闇に溶けた。


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