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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 宿泊施設に仮設された購買部用の住居。

「義兄さん、ただいま」
「……!? 相変わらず、心臓に悪い登場だな」

 義兄さんが驚いている。
 気配を消して義兄さんの真後ろに現れたからだろうか。

「あまり出現するところを見られたくないんだよね。今度から少し離れたところに出現した方がいい?」

「いや、心の準備をしておけば大丈夫だ。……で、どうだった?」

 義兄さんの隣に食事が置かれている。
 僕の分を取り置いてくれたのだろう。だけどまずは報告だ。

「この先の林に見張りが二人いて、出入りを見張っていたよ。天幕は報告通りの場所にあった。その周辺を見張っているのも二人で、天幕の中には六人。これで全部だと思う」

「ふむ……総勢十人の暗殺者か。舐められたもんだな」

「いやどうだろ。情報がなかったら簡単に侵入されるし、相当な被害が出たかもしれない。天幕の中で油断している人はだれもいなかったし」
 相手は場慣れしていた。強敵だと思う。

「魔国に〈影〉のような組織はないが、依頼を引き受ける非合法な集団はいくつかある。それを雇ったかな」
「全員が灰色のローブで統一されていたから、その可能性もあるかな。けど、引き受けるかな」

「どうしてだい?」
「陰月の路付近には必ず竜操者がいるでしょ。ここを襲撃したって、竜操者をひとりでも逃せば、すぐに援軍を呼ばれるから」

「撤退したところで、遠からず全滅するな」
 追いかける竜操者から逃げきれる者はいない。

「それが分かっていて、依頼を引き受ける組織があるのかなと」

「他国のしかも竜操者を狙うのは難易度の高い依頼か。それに完全成功しなければ、襲撃側は全滅……たしかに引き受けづらい案件だな」

「そのへんは、捕まえられたら聞いてみようか?」

「そうだな。林の見張りが厄介だな。処理できるか?」
「ひとりはできる。残りは半々かな」

 義兄さんがさっき驚いたように、気配を消して敵の背後に出現すれば、気づかれずに倒せる。

「ひとり倒したあとは足止めだけでいい。俺たちが向かう」
「了解。それならできる」

「よし、敵が動く前にこちらから襲撃を仕掛けてやろうじゃないか」
「そうだね、でも先に食事をしてからね」

 僕は冷め切った夕食に手を伸ばした。

 僕が遅い夕食を摂っていると、外を歩く人が減り、静かになってきた。
 食後は自由時間だったが、そろそろみんな疲れが出始めたのだろう。

「引率に聞いたが、ほとんどの一回生は部屋のベッドに直行するらしいぞ」

 少しだけ体力の残った者もいる。
 彼らは敷地内を物珍しく周囲を見てまわるが、しだいにトロンとした目に変わり、やはりベッドに倒れ込むようだ。



 みなが寝静まった頃、現役竜操者の巡回当番であるグイニ・サラインとザザンダ・ローエンは、竜舎と宿泊施設、さらにその周辺を歩いていた。

「なあ、今年はずいぶんと外から雇い入れた者が多いな」
「町の兵士もかなり来ているみたいだな」

「初めての試みらしいが、いいのかね。一般の労働者を多数連れてきて」
「連中を守るために兵士まで連れてきたんだ、何か考えがあるんだろうよ」

「事前に知らされてなくて、驚いたよ」
「オレもだ。まさかこの施設にこれほど多くの人を受け入れるとはな」

 見回り中ではあるが、私語は禁止されていない。
 グイニもザザンダも雑談をしつつ、目はしっかりと周囲に向けられている。

「ん?」
「どうした?」

「そこで何か動いたか?」
「いや、見なかった」

「そうか? だったら気のせいかな」
「気のせいだろ。もしくは幽霊かもな」

「幽霊? おい、冗談はよせよ」
「ハハハ……さすがに幽霊のわけないよな」

 二人ともこの宿泊施設を使ったことは何度もある。
 過去に怪我をしたままここに運び込まれ、そのまま息を引き取った同胞がいた。

 だからこそ、幽霊と言われれば、そのときの竜操者を思い浮かべてしまう。

「そろそろ交代じゃないのか?」
「そうだな、冗談を言っている時じゃないな」

「あと一周したら戻ろう」
「おう」
 足を再び動かし、グイニとザザンダが巡回を続ける。

 その後ろを黒衣の者たちがそっと動いた。
 動いたのは、先ほど彼らが外から雇いれたと話していた者――〈影〉たちである。

               ◯

 魔国の西には、人が越えることのできない山々の連なりがある。
 天蓋てんがい山脈と呼ばれ、多くの山々がそびえ立っている。

 山をひとつ越えるのも命がけ。
 それを越えたとしても、その先には更なる山がゆく手を阻んでいる。

「どのような魔道を使おうとも、はるか彼方まで連なるあの山の列を越えることは適わない」

 その言葉通り、山脈越えに挑戦した者は数しれず、成し遂げて戻ってきた者は皆無だった。
 長い間、天蓋山脈の先は、未踏の地とされてきた。

 あるとき、竜国からきた竜操者の群れが、多くの困難を乗り越えてそれを成し遂げた。

「山脈の先には、何もない。枯れ果てた大地が延々と続いていただけだ。貧弱な植物相だったから、大地に栄養がほとんどないと推測できる」

 その言葉が真実か分からないが、その時から魔国は竜国を仮想敵国とし、いつか自分たちを脅かす存在として、危険視し始めた。

 自分たちができなことを軽々とやってのける。
 それが竜国であり、それを可能とするのが『竜』なのだ。
 魔国民の心に、そう深く印象づけた事件であった。



 時間が遡って、魔国の首都イヴリール。
 魔国王の指示のもと、竜国襲撃部隊が今まさに出発しようとしていた。

「無理は承知。蛮勇とそしられよう。だが次代のため、頼む」

「何をおっしゃいます、魔国王陛下。我ら魔国十三階梯、この身をもって誠心誠意、魔国のために尽くす所存です」

「済まぬ」
「勿体ないお言葉でございます」

「大転移の前に、なんとしても成し遂げねばならぬ。我らができぬことを竜国は軽々と成し遂げるやもしれぬ。我が民、我らが子孫のため、その命、貰い受ける」

「是非もありませぬ」

「頼んだぞ」
「必ずや」

 その日、密かに魔国を出立した一団は、夜陰に乗じて竜国入りを果たした。

「ここから二手に分かれる。目的地に着くまで、出会った者はすべて処分しろ。決して目撃者を残すな」
「かしこまりました」

「では行け!」
「はい。ご武運を」
「そちらもな」

 月のない夜。
 陰月の路を突き進んだ一団がふたつに分かれた。
 ひとつはそのまま進み、もうひとつは進路を南にとった。
 南に向かった者の目的地は、竜国の王都。



 陰月の路を進んだ一団に接触する者があった。
 先に竜国に入って、情報を集めていた者である。

「物資の搬入先が分かりました。竜の学院生たちは、この場所にいます。間違いありません」
「よし、ご苦労。我らはこのまま進む。おまえは町に戻り、すぐに離れよ」

「帰還用の隊商として待機しておきます」

「無用だ。どのみち全滅させられなければ、竜操者の追撃は振り切れない。こちらのことは気にせず、戻れ。己の職務をまっとうせよ」
「……分かりました」

 闇夜を進み、一団は翌日には目的の建物を見つけた。

「周囲を確認してこい」

 隠密行動が得意な者が、一晩かけて様子を調べてきた。

「たしかに大量の物資が運び込まれております。竜操者はまだおりません。現在、近くの町で一般人の募集をかけたとのことです」

「そうか。学院生はいまだ現れていないか」
「はい。竜操者の受け入れ準備をしている様子がみてとれました」

「分かった。他に報告することは?」
「中の配置は分かりませんでした。それと、周辺と塀の中を警戒する〈影〉の存在を確認しました」

「竜国の〈影〉か。こちらの情報が漏れたか?」

「分かりません。ただし、警戒はそれほど厳重とは思えませんでした。我々ならば問題なく忍び込めます」

「よし、竜の学院の生徒たちが入った日に作戦を決行する。それまでは遠くから監視する程度に留めておけ」
「わかりました。そのように致します」

「我々は長期間隠れられる場所の選定だ。陰月の路が近い。竜操者が来ないような場所を見つけ次第、夜のうちに移動する」

「ただちに野営地の捜索を開始します!」


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