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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 宿泊施設は高い塀で囲われている。

 四方の物見櫓ものみやぐらには、歩哨が二人立つ。
 これは中の人の安全を守る重要な任務である。

 だが建物の中では、夕食の準備の真っ最中であり、漂ってくる匂いに意識が向かってしまう。
 歩哨たちは、連日の睡眠不足と今日の長旅で疲れがピークに達している。
 賑やかな声を背中に聞きながら、空腹を抱えて外を眺めるのであった。

 僕はその横を闇に溶けたまま進む。
 義兄さんの話では、昼間、通常より多くの竜操者が巡回に出たらしい。

「それであの岩場に天幕を見つけたわけね」
 報告があったのは半日前で、近くを巡回した走竜は発見していない。

 走竜は発見できず、飛竜だけが見つけた。
「空からしか分からなかったわけか」

 岩山の裂け目の中は見なかったのだろう。
 それで正解だと思う。見つけたら戦闘になっていたはずだ。

「距離は宿泊施設から十キロメートルくらいか。……しかし、今頃はみんな、夕食を食べている頃かな」
 出てくるとき、いい匂いがしたが、こちらの偵察任務の方が重要だからしょうがなかった。

 きっと熱が出て休んでいるとか、義兄さんが説明したんだろうな。
 僕の不在は義兄さんが適当に説明してくれたはずだが、あまり突拍子もない理由をでっち上げられても困る。あとでちゃんと確認しておかなければ。

 さて、敵の天幕だが、岩山を登りきらないと見えない。もっと近づく必要がありそうだ。
 僕の『闇渡り』なら、気づかれずに接近できるし、様子を見て、気付かれる前に撤退すればいいか。

 敵の数が分からない以上、ここで戦闘は難しい。
 見つからずに接近できるだろうか? できるな。

 よし、敵の様子と人数だけ調査しよう。



 闇に潜ったまま岩場を進む。
 大きな岩が多く、思ったよりも障害物が多い。ここを登るのは大変そうだ。

 上にいくほど大きな石がゴロゴロしている。この辺は歩きにくそうだ。
 普通に歩くと小石を転がすか、砂利が音を立ててしまう。

「隠れるのにもってこいの場所を選んだな」
 襲撃しようとすれば、かなり手前で気づかれそうだ。

 そしてこの急斜面。登り切るのも一苦労だろう。
「岩場というより、小さな岩山だな……っと、これは魔道結界か」

 周囲に違和感がある。
 目を凝らすと、感知式の結界らしいのが見えた。

「広く展開しているな。しかも気づいても回避できない位置にある」

 地面から数十センチメートル離れたあたりがうっすらと色づいている。
 これは面で感知するタイプなので、空でも飛ばない限り、難しそうだ。

「まっ、僕には関係ないけどね」

 闇に溶けたまま、他の結界がないか確認したが、他になにも見つからなかった。
 ゆっくりと岩山を越えると、その先に裂け目を見つけた。

「これが報告にあった場所か」

 注意して進むと、すぐに天幕が見えた。

 なるほど、うまく隠している。
 よく上空から見つけたなと思える位置だ。

 これを見つけた竜操者は、よほど索敵能力に優れている人だろう。
 天幕なんて、角度によってわずかに見えるかどうかだ。

「……さて、敵はどんな連中かな」

 闇の中から覗く。

 天幕の中には六人いた。
 岩場のくぼみに監視を二人置いているので、全部で八人だ。

 全員が灰色のローブを着ている。顔は見えない。
 だれもが無言で佇んでいる。緊張しているわけではなさそうだ。

 どちらかというと、待つのに慣れている感じか。
 無駄口を叩くでもなく、暇を持て余す者もいない。

 これは強敵なタイプだ。だが、待つことは僕も得意。

 しばらくして、視線が飛び交い、二人出ていった。
 終始無言である。少しして別の二人が戻ってくる。

「……見張りの交代かな」

 天幕の中には相変わらず六人がいる。
 見張りを入れると八人か。

 学院の生徒は六十人弱。
 他にも竜操者がいる。

 宿泊施設を制圧できるほどの数ではない。
 この人数なら寝静まった頃を見計らって侵入、そして暗殺。
 そのくらいしか考えつかない。他に手はあるだろうか。

 竜に乗った竜操者を襲うのは難しい。
 宿泊施設は、月魔獣の襲撃に耐えられるよう、石積みの建物になっている。

 破壊の魔道を使ったところで、一気に押し壊すことはできないはずだ。
 やはり、正面突破は無理だ。ということは暗殺だ。

「とすると、しばらく動きはないな」

 まだ就寝するような時間ではない。
 そもそも竜操者は竜の世話をしている最中だ。
 この時間に襲撃したら、即座に竜に騎乗する。

 深夜まで動きはないと予想できる。

「よし、情報も得たし、帰るか」

 情報は、届けてこそ意味を持つ。ここで見つかって警戒されては意味が無い。

 帰りがけに、岩山以外の場所を見てまわった。
 荒れ地ばかりなので、目を引くところはない。
「…………ん?」

 宿泊施設のすぐ近く、林の中で気配があった。
 捜索すると、ここにも見張りがふたりいた。

「宿泊施設出入り口を監視しているのか」

 岩山の天幕を見つけてから監視は出していないと義兄さんは言っていたけど、出さなくて正解だったな。
 ここから監視されていたんじゃ、いまごろこっちが気づいたことを知られてしまっていたわ。
 岩山と林の中にふたりずつ。見張りは四人になった。

 天幕の六人を加えて、総勢十人の敵が確認できた。

 戻って報告の後、作戦を考えよう。


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