挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

662/664

661

 アンさんに連れられて豪華な部屋に入った。
 ここは調度品ひとつとっても、他と違う。

 王宮内でも、ここを使える人はかなり限られているだろう。

「レオンくん、こちらですわ」
 そこは二部屋あって、手前には護衛が待機するようになっている。

 さすが貴賓室だ。そこを抜けて奥にいく。
 奥で待っていたのは……。

「やあ、レオンくん……いや、義息子むすこといった方がいいかな」
 出迎えてくれたのは、マルセル・ラゴスさん。

 技国の序列第一位、兎の種族のすべてを受け継ぐ人だ。
 ディオン種族長の息子であり、アンさんの父親。

 マルセルさんと会うのは、これで二回目になる。
「お久しぶりです、マルセル様」

「堅苦しい挨拶は不要ですよ。わたくしたちは、これから家族になるのですから」
 そうコロコロと笑うのは、マルセルさんの奥さんでコレットさん。

 いつも朗らかな笑顔を絶やさない。
 アンさんの穏やかなところは、このコレットさんに似たのだろう。

 室内には二人だけしかいない。
 おそらく少しの間、この部屋を借り切ったのだろう。

「それでは、お義父様とお義母様と呼ばせていただきます」

 ここで遠慮してもよくないと思って、そう言ってみた。
 お二人とも、満足そうに頷いた。

「月魔獣については、ひとまず目処が付いたようだね」
 挨拶が一段落して、マルセルさんはそう切り出してきた。

「はい。大転移による被害はこれからも続くと思いますが、国が揺らぐことはないかと思います」

「でしたら、娘のことを進めようと思うのですよ。ここへ来る前に、あなたの実家に寄らせていただきましたの」
 コレットさんの言葉に、僕は一瞬息が詰まった。

 以前、僕とアンさんが婚約したときも、マルセルさんとコレットさんが我が家にやってきた。
 母はひどく驚いていた。

 おそらく今回の訪問も事前連絡なしだろう。
 ごめん、母さん。今回もさぞ驚いたことだろう。

「女王陛下にも結婚の許可を取ったとろこでね、来年の早い内はどうかと思っているんだ」

「陛下の許可が得られれば、僕は構いません。ただ、任務で遠くへ行くことになるかもしれません」

「その話は聞いている。カイルダ王国を拠点とするらしいね」
 なるほど、女王陛下から話があったか。

「はい。しばらくはあっちに行くことが多いかと思います」

「ちょうど私の国もカイルダ王国と友好関係を結ぶことになったので、娘を派遣しようと考えていたんだ」

 マルセルさんは氏族長ではないが、その仕事の半分くらいを引き継いでいる。
 他の氏族に関すること――渉外を受け持っている。

 息子のモーリスさんが、マルセルさんの後を継ぐためにいま勉強中だと聞いている。
 アンさんは兎の氏族から出て、兎の氏族のために働くことを求められている。

 そのため竜国に留学したわけで、竜国との深い繋がりを在学中に作ることができた。
 今回の支配種討伐でも、駆動歩兵隊を率いて大活躍した。

 つまりアンさん個人の実績は十分。
 カイルダ王国に行っても、十分やっていける。
 人選としては申し分ない。

「では向こうで一緒になれますね」
 誰も知り合いがいない土地だけど、向こうでアンさんと新婚生活をはじめるのもいいかもしれない。

「それとレオンくんは、パン屋を希望しているのですわ」

 そう、パン屋の問題が残っている。
 この件については、アンさんを通して話してもらっていたのだけど、まだ両親から正式に許可はもらっていない。

 以前、マルセルさんとコレットさんと初めて会ったときにも、僕はパン屋になりたいとは伝えていた。

 そのときは、変わっているとは思われたが、やりたいものがあるのはよいと、技国らしい言葉を貰っている。

「カイルダ王国でパン屋を開くのかい?」
「開ければいいなと思っています」

「前にも言ったけど、娘が賛成しているのならば、私はいいと思っている」

「わたくしも賛成ですわ。べつに何を生業にしようとも、その人の価値は変わりませんし、氏族の繋がりがなくなるわけでもありませんもの」

 両親のその言葉を聞いて、僕は胸をなで下ろした。アンさんも微笑んでいる。
 本当に理解のある両親だと思う。

 その後は軽い雑談を交えながら、結婚式の日取りについて話し合い、細かい調整をしてお開きになった。

「今日は有意義な話し合いだったよ。今度はいつになるか分からないけど、よければ氏族の方にもきてくれ。歓迎しよう」

「はい。ぜひお伺いいたします」

 今日決まったことを女王陛下に伝えて、もろもろの許可を得れば、結婚は本決まりとなる。

「よかったですわね、レオンくん」
「そうですね。僕の夢に近づけた様な気がします」

 辺境でパン屋を開くのが僕の夢。
 その傍らに美人の奥さんがいて、子供たちが走り回る。

 いつか分からないが、それが事実となるよう、僕は頑張らなければならない。



 パーティ会場に戻ると、どこぞの淑女のみなさまが、僕に話しかけてきた。
 今度は余裕を持って応対することができた。

 いつしかパーティの参加者が減り、お開きとなった。
 僕が王都で出席しなければならない公的な行事は、これですべて終了した。

 アンさんはこの後、自国に帰って駆動歩兵隊の編成を行うらしい。

「今度は別の者が担当すると思いますわ」
「そうなんですか?」

「わたくしは……そのかわり……」
「?」

「花嫁修業をしようと思いますの」
 アンさんは頬を赤らめて、僕にそっと囁いた。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ