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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 休暇になってから三日間、僕は『ふわふわブロワール』でアルバイトを続けた。
 楽しくもあり、懐かしくもあった人たちと過ごした。

 そして四日目の朝、僕は一通の手紙を受け取った。
「……そうか、戻ってきたのか」
 操竜場へ手紙を届けたのはリンダ・ルッケナ。僕の幼なじみであり、パトロンでもある。

「リンダと再会してから、手紙を貰ってばかりだよな」
 竜の学院の入学式当日、控室の屋上でリンダと再会した。

 リンダは、小さい頃一緒に遊んだときの面影を残しつつ、しっかりと成長していた。
 性格はそのまま。姉御肌であるところは少しも変わっていなかった。

 それから一年、ロザーナさんやアンさんとも出会い、年が明けてすぐに、僕はシャラザードを得た。
 リンダが僕のパトロンとして金銭的な面倒を見てくれることになった。

「今なら分かる。竜国はいくら豊かといっても、すべて竜の面倒を見れるわけじゃないんだな」

 シャラザードだけの話ではない。
 小型竜ですら、維持するだけで結構な金がかかる。

 それをすべて税金で賄おうとしたら、竜国の国庫が破綻するか、民の暴動が起きたかも知れない。暴動をそそのかすのはもちろん商国。

 竜にかかわるお金のすべてと国費で賄おうとしたら、何らかの形で、いまの制度が崩壊していたのではなかろうか。



「ヨシュアさん、お久しぶりです」
 リンダが実家にいる手紙にあったので、会いにきてみた。

「おお、レオンくん。今回は大活躍だったそうだね。シャラザードくんが最後、生き残った竜を連れて脱出したそうじゃないか」

「どこで仕入れてきたんですか、そんな話」
 なかなか事情通だ。

「聞き取り調査の資料を読ませてもらったんだ。今回の遠征費用を用立てているからね。一部の商会には、閲覧許可が下りているんだ」

 今回の遠征、物資やお金を多くの商会から融通してもらっている。
 それが適性に管理、運用されたかを監査する人たちがいる。

 もちろん監査役の人が納得して終わりではない。
 ちゃんと出資した人たちが納得できるよう、もろもろの書類を閲覧できるようにしてあるのだ。

 ちなみに僕も今回の討伐遠征、計画段階から参加している。
 ヨシュアさんと同じく、資料の閲覧許可が下りている。
 面倒なので、見てないけど。

「そういえば、月戦隊の記章を使用できるんでしたよね」
「ああ、早速看板に入れさせてもらった。大繁盛だよ」

 詳しく知らないが、記章を入れるには、大きさや形だけでなく、数も細かく決められている。

 どこにどれだけ、どのくらいの大きさのものを入れられるのか分からないが、宣伝効果はある。
 投資した分の回収ができるのならば、僕としても嬉しい。

「それで、リンダが帰ってきたと聞いたんですけど」
「ああ、一昨日の夜遅くに到着したんだ。家の中にいると思うから、いってみるといい」
「分かりました」



「やあ、リンダ。手紙が届いたよ」
 昨日リンダは操竜場へ手紙を届けたのだろう。
 今朝、それを僕が受け取った。

「おかえりなさい、レオン。それと、無事で良かったわ」
「ただいま。なんとか生き長らえた感じかな。これでパン屋の野望に一歩近づいたよ」

「確認したいんだけど……世界の命運を決める戦いに行ったのよね」
「まあ、そうかな」

「多くの民が固唾を呑んで成功を祈っているときに、パン屋、パン屋って、そんなことばかり考えていたの?」

「いや……どうかな。そんなには考えてなかったと思うけど」
「…………」

 それは本当だ。
 あの戦いが終われば、パン屋への道が確実に開けるとは思ったが、そう頻繁に考えていたわけではない。一日数回程度だ。

「リンダの方はどうなの? 商売は順調?」
「おかげさまでね。ビックリするくらい順調よ」

 リンダはリンダで、シャラザードの姿を模したものを商売のトレードマークにしている。
 僕やシャラザードの名だけでなく、パトロンであるルッケナ商会やリンダの名前は他国にまで広まっている。
 今回の遠征もある。リンダならばこの商機を逃さないだろう。

「商売が順調でなによりだよ」
「ありがと……それと聞いたわよ、商国の話」

「えっ、なに?」
「今回の王都襲撃、商国の五会頭が引き起こしたんですって?」

「えっ、なんでそれを?」
 どこでそれを?

「秘かに寝返らせていた竜操者とパトロンを船で運び入れたり、竜国の治世をよく思わない人たちを隠れ里で飼っていたりとか……そういう話が商人ルートの噂でもう流れているのよ」

 さすが商人というべきか、五会頭がそこまで隠蔽するつもりがなかったんだろうと思うべきか。
 リンダは結構深いところまで知っているようだ。

「それってどのくらいの人たちが知っているの?」
「有力な商人の間では広まっているわね。そのせいで、商国商会員の肩身が狭くなっていく感じかしら」

 今回の叛乱に加わっていなくても、同じ穴のムジナと思われてしまっているという。
 たしかに上が悪事を働けば、下にも影響が出る。逆はそんなことないのだけど。

「しかし、耳ざといね。まだ発表されてないと思うけど」
 そろそろ王都襲撃の調査結果が発表されるはずだ。

 女王陛下は、魔国民の残党が引き起こしたと発表するつもりだが、こうなってくると、どこまで信用されるのか分からない。

「商国商会は揺れているし、五会頭が帰ってこないと考えている人もいるわね。そうすると、商国はもうお終い。国としても機能しなくなるわ。大転移が終わる頃には、商国はなくなっているんじゃないかしら」

 リンダの予想は正しい。
 もはや、商国は国として機能しないと思える。

 その場合、商国はどうなるのか。
 ゆるやかに技国に吸収されるのではないかと僕は思っている。

 大昔、商国は技国の一部から独立したのだ。
 となれば、もとに戻ったと言えるか?

 魔国が滅び、商国が消えていく。
 これもまた、必定なのかもしれない。

「そうだ。まだ発表は先だけど、僕も王都を離れるかもしれないんだ」
「ふうん。カイルダ王国に行くのかしら」

「えっ、なんでそれを!?」
 今日のリンダは鋭すぎる。

 カイルダ王国……つまり、僕らが『楽園』と呼んでいる場所だ。

「このまえ、ロザーナ先輩と会ったときに話をしたのよ。竜国は、カイルダ王国への出入りを制限するみたいだって」
「色気を出す人たちを閉め出したいみたいだね」

「するとどうしても向こうに行ける人が限られているでしょ」
「そうだね、現状だと四人かな」

 女王陛下、ソウラン操者、僕、アンネラだ。
 属性竜でしか、あの高度まで辿り着けない。

「その中で、常時向こうに行けるのはだれ?」
「えっと、女王陛下は論外として、ソウラン操者は女王陛下の護衛もあるし、そもそも軍役があるからソウラン操者は駄目。だとすると、僕とアンネラのうち……って、アンネラはまだ学院生か」

 僕しか残っていなかった。

「後輩の卒業後は交互に常駐かしらね。でも今はあなたくらいしか候補がないと思うの。だからきっとカイルダ王国へ行くことになるって話していたの」
「す、鋭い……」

 鋭いけど、考えてみれば当たり前のことだった。

「詳しいことは分からないけど、そうなるだろうと予測して、いま申請を出しているところなのよ。そのために久し振りに王都に来た感じ」

「申請っていうと……?」

「カイルダ王国で支店を出せないかなと思って。もしあなたが行くなら、パトロンであるわたしにも権利があるでしょ。どうせなら、商売につなげたいと思って」

 策士だ。
 リンダは策士だった。かなり深いところまで読んでいる。

「そ、そうなんだ」
 いつの間にこれほど逞しくなったのだろうか。もとからか?

「というわけで、今後ともよろしく……ね」
 リンダはウインクした。

 よろしくも何も、長い付き合いになるだろう、きっと。

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