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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 魔国の旧首都に一番近い、三番目の橋頭堡。
 この場所は、かつて王族が避暑にきていた宮殿跡らしい。
 中を歩いていると、石造りの豪奢な建物ばかりが目に付く。

 暑くなると、王族が毎年ここへ涼みにきたのだろう。
 山の上の辺鄙な場所なので、正直羨ましいとは思えない。

「ここも夢の跡か」
 立派な建物もこれから朽ちていくだけだなと考えていたら、そんな声が聞こえた。

「あっ、ソウラン操者。身体は大丈夫なんですか?」
 木陰にある長椅子に座って、ソウラン操者はこちらに手を振っていた。

「動くと少し辛いかな」
「見ていて、痛々しいですよ」

 ソウラン操者は包帯だらけだ。
 僕らが支配種と戦っているとき、ソウラン操者は多くの大型種と戦っていた。

 そのとき青竜が無双したらしいが、撃破したときの余波を結構浴びたのだとか。

「人の頭くらいある岩が無数に飛んでくるんだよね」
「よく無事でしたよね」

 竜が無事でも、竜操者が死ぬことはよくある。
 むしろ、その方が多いと言っていい。

 大型種を破壊するとき、数千におよぶ小さな破片が飛び散ったらしい。
 小さなといっても、僕ら人間からすると、直撃したら大怪我か死ぬレベルの岩だ。

 ソウラン操者は腕や足、胴体にいくつもそれを浴びたという。
 なんとか頭だけは死守したんだよと笑っていたが、額から血を流していたので、「実は当たっていたんじゃ?」と思った。

 ソウラン操者の怪我は数日で回復したりしない。
 しばらくは痛みに呻くことになるのではなかろうか。

「もう一生分戦った気分だよ」
「大転移はまだ終わってませんけど、僕も同じ気持ちです」

 これが終わったら引退するつもりだったが、竜の数が激減したいま、「辞めたい」と言っても、それが通るのだろうか。

「そういえば、レオン操者はどこへいくんだい?」
「アンネラの見舞いに行こうかと」

「そうか。目を覚ましたと聞いたけど、容態はどんな感じかな」
「僕と同じならば、力を使い果たしているんじゃないでしょうか。人竜一体は、負担の大きな技ですから」

「なるほど。とすると、しばらく動かすのは無理かな?」
「そうですね……もしかして、移動ですか?」

「そう。ここは防衛力が心許ないし、物資も不足気味だ。ひとつ手前の橋頭堡へ移った方が安心できるからね」

「そうですね。アンネラにも聞いてみます」
 いま、軍属の中でいうと、ソウラン操者が一番上役だ。

 年齢と軍歴でいえば、パイル操者が上。
 だが竜操者内の役職では、女王陛下のお供を長年続けてきたソウラン操者が上官になるのだ。

 ソウラン操者が移動するといえば、僕らは従うことになる。
 あまり無茶な命令を出す人ではないが、たしかにここは防衛力が低い。
 早めに移動を考えた方がいいだろう。

 僕はアンネラの見舞いに行った。



「やあ、アンネラ。身体の調子はどう?」
「レオン先輩。……身体がダルくて動けないのと、左腕と肋骨が折れているけど大丈夫です」

「それ、大丈夫じゃないんじゃ……」
 意外と重傷だった。

「大丈夫ですよ。命は無事だったのですから。……それよりもターヴェリさんの方が心配です」
 なるほど。僕もシャラザードの怪我が心配だ。

 支配種の攻撃は、遠距離だけではないと予想していた。
 ただ、どのような攻撃があるか分かっていなかったため、出たとこ勝負の感があった。

「ターヴェリは衝撃波と尾の攻撃を受けたんだよね」
「はい。それと全身を光で貫かれました……あれはなんだったんでしょう」

「僕も分からないけど、シャラザードの肉が焼けた臭いがしたから、きっと熱線だったんだと思う」
 それで何度も体内を貫かれたのだ。

 治癒能力に優れているとはいえ、完治までにどのくらいかかるか分からない。
 事実、シャラザードの身体に空いた穴はいまだ塞がっていない。

「……移動ですよね」
 アンネラに言われて、僕は天井を見上げてしまった。

 アンネラはまだ学院生とはいえ、実戦を多く経験してきた。
 いまの状況がよくないことは理解していたのだ。

「食糧も残り少ないし、医薬品も足りない。なにより、月魔獣に対する防壁が貧弱だ」
「出発はいつですか?」

「……できるだけ早く」
「分かりました。気合いで傷を治しますね」

 微笑むアンネラに、僕はなにも言い返せなかった。
 ターヴェリの怪我はひどく、目を瞑って傷の回復に専念している状態だ。

 それでも皆が生き残るためには、移動しなければならない。



 アンネラの見舞いをしてから二日後。
 僕らは、ひとつ手前の橋頭堡に向かって移動をはじめた。

 支配地域だったせいか、多くの月魔獣がいまだ活動を続けていた。
 半日の移動で五回も襲撃を受けた。

 そのせいで、予定が大幅に狂った。
 結局深夜になって、ようやく橋頭堡に着くことができたのである。

 翌日。
 連絡に王都へ戻っていた飛竜がやってきた。

 僕らの移動が難しいならば、ウルスの町から物資を運ぶので、しばらく療養に専念するようにとのことだった。

「ありがたい」
 実際、月戦隊が出張ってしまったことで、竜操者が足らなくなり、竜国の町や村で被害が出ているらしい。

 いま、竜はいくらいても足らないのだ。

 それでも、僕らのために物資を運んだり、竜の食糧となるシャナ牛を運んだりしてくれた。

 ここで七日間休息を取り、僕らは他の竜に守られるようにして、もうひとつ手前の橋頭堡に向かった。

 そこで竜国の様子を聞くことができた。

「王都が襲撃されたんですか?」
 なんと、僕らがちょうど支配種と戦っていた日に、王都は謎の集団から襲撃を受けたのだという。

「それでどうなりました?」
 勢い込んで聞いてしまった。

 やはりというか、王都の防衛力はかなり落ちていたらしく、町の人や王城を守る兵たちに多くの死者が出たらしい。

 襲撃者たちの素性は現在調査中だという。
 魔国人の姿が多数見られていることから、国を失った魔国の人たちの逆恨みではないかと言われているとか。

 王城からの公式発表はまだない。

 王都からここまでかなりの距離があるので、今頃は調査も終わって、発表がなされているかもしれない。

 そんな報告に驚きつつ、僕らはここでも五日間過ごした。

 ターヴェリもようやく会話できるくらいに回復していた。
 飛ぶのはまだ厳しいらしい。

 ソウラン操者に巻かれていた包帯は少なくなり、アンネラは出歩けるまでに回復した。

「さあ、王都へ帰ろう」
 ソウラン操者の言葉に、全員が大きく頷く。



 そう、僕らは王都に帰るのだ。

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