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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 アンさんをシャラザードに乗せて橋頭堡に入った途端、僕は意識を手放した。
 人竜一体を使うと、どうしても身体に負担がかかる。そのせいだ。

 僕の身体は、支配種との戦いで疲弊していたようで、気がついたらベッドの上だった。
 アンさんに聞いたところ、安心したのか、大きく息を吐き出した途端、コテンと糸が切れた人形のように崩れ落ちたらしい。



「そんなことがあったのですか」
 見舞いに来たアンさんに、支配種との戦いの様子を伝える。

 アンさんに伝えられるのは、僕が見聞きした範囲だけ。
 あとで生き残った全員の聞き取り調査が行われるだろう。

 それは一級資料として王宮で厳重に保管されることになる。

「あれはきっと大地の怒り、もしくは大地が支配種ではなく、僕らを選んだんじゃないかと思うんだ」

 絶望的な状況の中、支配種は最後、溶岩の中に消えていった。
 僕らが脱出するとき、溶岩は大きな池のようになっていて、どんどんと広がっていた。

 今頃、首都がすべて飲み込まれている頃ではなかろうか。
 溶岩の海、想像するに恐ろしい光景だ。

 なぜそんなことになったのか。
 属性技で作った大穴が直接の原因だが、僕は帰還途中でソウラン操者の言葉がずっと耳に残っている。

「地中深くにある溶岩は、とても温度が高いらしいね。どれだけなのか、想像がつかないほどなんだ」

 今回の溶岩がそれではないかとソウラン操者は言っていた。
 噴火で出てくるものとは、比べものにならないほど高温高圧ではないかと。

 もしそうならば、なぜあのタイミングで出てきたのか。
 僕は、この大地の意志をそこに感じてしまう。

「ではいまもまだ、溶岩の池は広がっているのですね」

「火山の噴火だと、何日……いや、何年もということもあるからね。半日やそこいらじゃ、おさまらないんじゃないかな」

 あれは穴を開けた僕らのせいになるんだろうか。
 ならないよな? 自然災害だし……うん、たぶん。

「首都が溶岩に飲み込まれるのですか。あそこに生き残った方がいらしても……」

「脱出できなかったと思う。僕らもギリギリだった。シャラザードの咆哮に反応した竜だけで脱出するのがやっとだったし」

 ターヴェリはほぼ気絶状態だった。
 それでも立ち上がったのだから、シャラザードの咆哮には、竜の意志にかかわらず従わせられる力があることになる。

 もう随分昔の話になるが、『竜迎えの儀』のとき、竜操者の意志を無視して竜が従ったのだ。そういう事態も想定できた。

 裏を返せば、シャラザードの咆哮が聞こえて竜が生きてさえいれば、あの咆哮で集まってきたと思う。

 もし来なかったのならば、それは竜が生存していないか、歩くことすらままならない怪我を負っていたことになる。

「三百名が出発して、生き残ったのが七名……激戦だったのですね」
「そうですね。本来ならば僕もアンネラもソウラン操者もここにはいなかったはずですから」

 僕らが助かったのは溶岩の噴出のおかげ。
 あれが偶然なのか必然なのか分からない。
 けれど、感謝したい。人類を救ってくれたのだから。

 アンさんとそんな話をしていると、疲れがぶり返してきたのか、僕はまた眠りについた。
 次に目を覚ましたときには、事態は少しだけ動いていた。



「レオンくん、パイルさんが戻ってこられましたわ」
 パイル・ボレックス操者は、大型竜の走竜を駆っている。

 僕らが戻ったあと、この勝利をどうやって伝えようかと思案して、パイル操者が連絡役を買って出てくれたのだ。

 二番目の橋頭堡には、連絡用の飛竜が来ているらしい。そう言って出て行ったのだという。
 単独で往復できるのは、パイル操者しかない。

 その頃僕ら竜操者は、ほぼ全員が前後不覚に陥っていた。
 詳しい事情も話せず終い。
 そのため、簡単な事実のみを伝えに行っただけだと思う。

「パイル操者は、連絡用の竜操者に会えたって?」
「ええ。怪我が回復するまで移動できないと伝えたようです」

「そうか……そうだよな」
 ここにきてからシャラザードの姿を見ていないが、身体中穴だらけで、最後は飛ぶのも難儀していた。

 ターヴェリは半分死んでいた。
 一応歩いていたが、目を開けていたのかどうか怪しいくらいだった。

 竜だけでなく、竜操者も大怪我を負っていた。
 アンネラはいまだ目を覚まさない。

 人竜一体の影響で、身体の芯から疲弊しているのだと思う。
 それだけでなく、支配種の攻撃を受けたことも原因か。

 とりあえず、戻ってきた七人の中で、満足に動ける者はいない。

「ここは食糧が少ないし、準備が整ったら、少しずつ移動した方がいいよね」

「そうですわね。ここに食糧を届けてもらうこともできますけど、防御力で考えるのでしたら、最初か二番目の橋頭堡の方が安全でしょうし」

 支配種が死んだいま、月魔獣の不死性はなくなった。
 だいたい十四、五日で体内の月晶石が空になる。月魔獣の死だ。

 月魔獣が魔国の奥から竜国の町まで来ることはできないだろうし、生き残った月魔獣は人知れず土に還ることだろう。

 問題は、生き残った月魔獣がこの近くにもいることだ。
 アンさんの話では、僕らが戦っている頃、大規模な集団が襲ってきたという。

 すべて蹴散らしたため、今は月魔獣の影すら見られない。
 だが三、四日経てば、放浪している月魔獣の姿があってもおかしくない。

「レオンくん、いまは怪我を治すことだけ考えてくださいませ。いいですね。無理は厳禁ですよ」
「そうですね……はい、分かりました」
 僕が先に戻ろうかと考えていたのだが、僕の考えていることが分かったのか、アンさんに釘を刺された。



 結局、その日はベッドの上で過ごした。
 僕は翌朝、ようやく起き上がれるようになった。
 すぐにシャラザードに会いに行った。

「どうだい、調子は」
『うむ。問題ないぞ』
 問題ないわけがない。

 血は止まっているが、空いた穴が塞がる様子はない。
 完治にはしばらくかかりそうだ。

「飛ぶのはできそうか?」
『できんこともないが、これではな』

 翼に空いた大小の穴は、痛々しいほどだ。
 出撃前にシャナ牛をたらふく食わせてあったが、これは早めに戻って食糧を与えた方がいい。

 そして実は、シャラザードよりもターヴェリの方が重傷だったりする。
 空いた穴の数はシャラザードよりも多い。

 人間で言うならば、重傷だ。
 本来ならばターヴェリを動かすべきでないが、安全面を考えれば、一両日中に移動するのが望ましい。

「アンネラは目を覚ましたようだし、みんなにも会いに行ってくるな」
 生き残ったのは竜が六体で、竜操者は僕を入れて七人。

 そして全員が満身創痍だ。
 僕はアンネラがいる部屋に向かった。

支配種を倒したのは、星の意志……っぽい何かかもしれません。

支配種が星の中心部から噴き出た溶岩によって溶かされるというのは、初期に決めていたことですので、それをようやく披露できてなんとなく感無量です。

主人公が倒すべきでは? という意見が出てくる向きもあるかと思います。
ですが、これもまたひとつの物語ではなかろうかと思ったりします。


さて、ここからはエピローグです。
風呂敷を広げるのは作者の役割ですが、それを畳むのもまた作者のお仕事です。
忘れ物のないようにしなければなりません。
650話を越える話になると、どうしても漏れが出てきそうで。。。
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