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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○月戦隊 最後の橋頭堡 アンネロッタ

「アンネロッタ様、罠の撤去が終了しました。正面門までの道を確保済みです」
「お疲れ様でした。負傷者の方々はどうなっていますか?」

「順次手当を受けています。ただ、間に合わなかった者も……」
「……そうですか。致し方ありませんね」

 アンネロッタは目を伏せた。
 あれは激戦だった。だれがいつ死んでもおかしくない戦いだった。

 周辺にいた月魔獣がすべて襲ってきたのではないかと思えるほどだった。
 現にいま、見える範囲で月魔獣の姿は一体もない。

「アンネロッタ様。その……もう装着は必要ないのではないでしょうか。皆様はすでに駆動歩兵から下りて、休息に入られております」

 報告に来た部下はおずおずと言った感じで、そう進言した。

 現在、アンネロッタだけが駆動歩兵に搭乗したままなのだ。
 稼働限界の時間はもうすぐやってくる。

 一旦脱いで、身体を休めてはどうかと、部下は心配しているのだ。
「わたくしはもう少し、このままでいますわ」
「そうですか……では、俺は周囲の警戒にあたってきます」

「よろしくお願いします」
 部下は一礼してアンネロッタの前を去っていった。

 橋頭堡内にはもう、満足に動ける者が少ない。
 最低限の見張りで回している現状だ。

 外に設置した罠は、ほとんどが破壊され、用をなさなくなってしまった。
 邪魔以外のなにものでもない。

 アンネロッタは、竜操者たちが戻ってきたときのために、一本道を作ることにした。
 彼らが帰ってきたときに、まるでバリケードのように残骸が積み重なっていては困るだろうと判断したからである。

「レオンくん……」
 率先して見張りを買って出たアンネロッタは、首都のある方角を見て、そっと呟いた。

 ここからだと距離が離れすぎていて首都を見通すことができない。
 距離にして二十キロメートル以上離れている。

 そこで何が行われているのか、漠然としか分からない。

 そう、漠然と……。
 閃光が空に上がり、時折、雷鳴が轟くのを聞いた。

 レオンが、シャラザードが戦っているのだと、アンネロッタは確信している。
 そして最後の轟音が響いてから、首都の方角は沈黙したままだった。

「……レオンくん」

 もうかれこれ一時間以上、アンネロッタは首都の方角から目を離さない。
 駆動歩兵の連続稼働時間がもうそろそろ切れる。

 月晶石つきしょうせきを動力にしている手前、一旦停止すると、入れ替えるためのメンテナンスが入ってしまう。

 アンネロッタは、なるべく動力を節約しつつ、監視を続けるのであった。

「レオンくん、無事に戻ってきてください」
 アンネロッタがそう呟いたとき、かすかに音を拾った。

 ――しゃげごぉおおおん

 そう聞こえた。
 たしかにそう聞こえた。聞き間違えではない。

 そして大地に小さな点が現れた。
 点の数は三つ。なぜか地を歩いている。だがそのフォルムは見間違えようがなかった。

「レオンくん、レオンくん、レオンくんっ!」
 アンネロッタは踵を返した。

「あっ、アンネロッタ様、どちら――へっ?」
 全速力で橋頭堡の中を走り抜け、玄関口を突破した。

 周辺を警戒していた者たちが唖然とするなか、アンネロッタは坂道を転がるように走り、記録を塗り替える速度で、下まで到達した。

「レオンくん、レオンくん!」

 駆動歩兵は走る、走る、ひたすら走る。

 三つのフォルムは見間違えようもないものだった。
 あれは三体の属性竜に違いない。

 向こうも気付いたのか、真ん中の竜が群れを離れてやってきた。

 そのときアンネロッタは、全部で六頭の竜を確認している。
 属性竜の他には、中型竜が一頭と小型竜が二頭だ。

「レオンくんっ!」

 アンネロッタは叫んだ。

 だが、無情にも駆動歩兵は活動限界を迎えてしまった。
 歩みは徐々に遅くなり、ついに止まる。

 アンネロッタは留め具を外し、紐を引っ張り、手足の締め付けを緩めた。
「んっしょっ、どっせいっ!」

 淑女にあるまじき呟きとともに両足を抜くと、自前の二本の足で地面に降り立った。

「レオンくん!」
 すぐに走り出す。

 アンネロッタは走った。
 全速力で。

 走った。走った。
 綺麗な髪が風で乱れるのも構わず、一心不乱に走った。

 黒竜が歩みを止め、そこから一人の青年が降り立った。

「レオンくん!!」

 アンネロッタはその青年の胸に飛び込んだ。

「レオンくん、レオンくん、レオンくん……無事だったのですね」

「はい、アンさん。無事ですよ。勤めを果たして、ただいま戻りました」

 アンネロッタをしっかりと抱きとめた青年――レオン・フェナードは、アンネロッタの両肩に手を回して、そう微笑んだ。

「レオンくんっ!」
「うわっと!?」

 きつく抱きしめられたレオンは一瞬驚くも、すぐに穏やかな顔に戻ると、今度はゆっくりと抱きしめ返した。

「大丈夫ですよ、アンさん。僕はどこにも行ったりしませんから」
「レオンくん」

「それよりもみんなが見ていますし……その……」
 やや顔を赤らめ、照れながら言うレオンに、アンネロッタは状況を理解した。

「うぉっほん」
 わざとらしく咳をするソウラン操者に、周囲の竜操者たちがくすくすと笑う。
 ソウラン操者の目も笑っている。

 そう、ここでようやく生き残った彼ら全員の顔に、笑顔が戻ったのだ。

「レオンくん。本当に……勝ったのですね」
「はい。……っと、こうしてはいられない。みんな怪我をしています。すぐに手当をしないと」

「まあ、それはいけませんわ。すぐに戻りましょう」
「そうですね。アンさんはこっちへ」

 レオンがアンネロッタをシャラザードに乗せた。
「さあ、もう少しで付くぞ。シャラザード、たのむ」
『あい分かった』

 ――しゃごぉおおおん(いくどー)!

 六騎の竜が橋頭堡に着いたとき、出迎えた兵たちから、大歓声が挙がった。

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