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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 海の上

 海上は厚い雲に覆われていた。
 ハリムを乗せた中型竜は、その厚い雲の中へ入る。

 一旦中へ入ると、そこはもう真っ白な世界。視界がまったく利かない。
 同時に、追ってくる白い竜からも見えないはずであった。

「白姫、やりなさい」
 サヴァーヌ女王のひと声で、白姫は「溜め」に入る。

 白姫の周囲の空気が冷やされ、キラキラと幻想的な雰囲気をつくりあげる。
 舞っているのは微小な霧、ダイアモンドダストである。

 ――ザァアアアア

 白姫が吐き出した氷吹雪は、厚い雲を突き抜けていく。
 雲の中に入った中型竜はというと……。

「わぁああああ」

 周囲が氷点下になり、氷の粒が中型竜の至る所に付着する。
 ここから逃げる術はない。

 白姫の放ったブレスは威力こそ低いものの、影響範囲がとてつもなく大きかった。
 延々と続く氷吹雪。

 ついに中型竜の翼が凍り付いて動かせなくなる。
「た、たて直すのです!」

 言うは易しである。
 竜が懸命に羽ばたこうとするも、高度は徐々に落ちる。
 ついに雲の下へ出てしまった。

 姿を現した中型竜は、そのまま滑空しつつ着水した。

「早く、羽ばきなさい。このままでは追いつかれます」
「無理です。竜が言うことを聞いてくれません」

 海水に浸れば、翼についた氷は溶け出すが、だからといって逃げられるわけがない。
「いいからすぐに出しなさい!」

「あーら、どこへ行くのかしら?」
 上空から聞こえた声に、ハリムが慌てて空を仰ぐ。

「やってくれましたね、女王!」
 ハリムもまた全身に氷を纏わせていた。

「逃げて隠れるなんて真似をするのですもの。追い立てるにはちょうどよくって?」

 あくまで余裕綽々のサヴァーヌに、ハリムは悔しげに唇を噛みしめる。
 自身を守る者を含めて、先ほど全員、王宮に下ろしてしまった後だった。

 少しでも勝率を上げるのが目的だったが、早まったかとハリムは考えた。
 だが、海上に浮かんでいる状態で、上空の女王に何かできるとも思えない。

 中型竜を騎竜としているハリムには、竜の非常識さはよく理解している。
 それゆえ、反撃手段がないことが悔しいのである。

「あなたの道を閉ざせなかったのがとても残念ですよ。もっと早く実行に移していれば違った結果になったでしょう」

「さてそれはどうかしら。つまらない話しかできないあなたでは、何をしても無駄ではなくて?」

 商国五会頭であるハリムは、過去何度か女王と会ったことがある。
 その時から互いの意見は平行線を辿っていた。

 ハリムが何か言おうとも、女王は「つまらない話ね」と取り合わなかった。
 大陸の流通を担っている五会頭相手に「つまらない話」と言い切ったのである。

「民を蔑ろにするあなたに未来はない。決してありませんよ。あなたは必ず打倒されます。その姿を見ることができないのが残念ですが、あなたの運命は絶対に変わらない」

 それはまるで呪いだった。
 ハリムが……ハリムたちが目指している、国政を平民の手に委ねるという昔からの理想は、必ず成就する。その夜明けはもうそこまで来ている自覚があった。

 ただ、今回は負けた。それだけなのだと。

「あなたはたしか……軍事費の突出でしたっけ?」

 ハリムが言っていたのが、月魔獣戦にかかる戦費の捻出である。
 民の暮らしよりも月魔獣との戦いを重視するあまり、軍事費の割合が多くなってしまっている。

 民が働いて稼いだものを軍費として消費している。
 これは民に還元しない行為であり、民は自らの安全を多大な軍事費で賄っているという考え方であった。

 ハリムはそれに反対している。
 税収強化は貧しい民を生み出し、切り捨てられる人々が出てくる。

 とくに自国民以外に対してそれが顕著で、呪国人をはじめ、交易商人などもまた重税による不利益を受けていた。

 ハリムは、民意による政治、流通の自然な流れによる価格維持、税収に見合った政治を女王に進言したが、それは一顧だにされなかった。
 話がつまらないという理由で。

 五会頭それぞれがまた違った理想を抱いているが、それを実現するために立ちはだかるのが竜国であった。
 竜による支配によって、人々は目先の不満を反らされているのである。

「……やっぱり、あなたの話はつまらないわね。もういいわ」
 女王はそれだけ言うと、空高く舞い上がり、下方で叫んでいる存在に向かって言った。

「悔しかったら、実現させてみなさい」

 白姫が放ったブレスは、ハリムと中型竜だけでなく、その海域を凍らせた。
 結果を見届けることなく白姫は反転する。



「……ねえ」
 と女王は言った。

「来ているんでしょう?」
「……なんだ?」

 応えがあった。
 女王がゆっくりと振り向くと、黒衣の男――ハルイが立っていた。

「いつの間に乗り込んだのかしら」
「王宮を出るときだな」

 ハルイは不可視の盾で足場を作り、それを伝って空を行く白姫に飛び乗ったのである。

「どうなると思う?」
「さあて、今頃決着が付いているんじゃないか?」

「だから、どうなると思うの?」
「俺は知らん」

「つれないわね。息子が頑張っているんでしょうに」
「あれは独り立ちしている。もう俺の庇護も、心配もいらん」

「まあ、あなたならそう言うと思ったけど……どちらが勝つのかしらね」
 女王は最終決戦の結果が気になるようだった。

 いま凍らせた存在など、もはや忘れ去っているようである。



 ハルイの言うとおり、支配種との決着は……まさに今、付こうとしていた。

というわけで支配種関連以外はすべて決着し、あとは最終決着のみになりました。

商国の理想ですが、絶対王政時代に反発する市民革命という形でイメージしています。
ただしこの世界には竜がいて、月魔獣がいます。

王権の神格化は竜の神格化に通じるものがあるかなと。
あと市民革命って、名前が悪いですよね。
当時は「市民=超富豪」という認識ですので、一般市民のことは指していません。
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