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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 女王の寝室の隣に、私的な執務室がある。
 普段、ここに客を招き入れることはない。

「あら、早かったのね」
「火急の事態ゆえ、急ぎ参上致しました」

 頭を垂れるひとりの男性に、女王はほほを膨らませる。

「いつからそんなに他人行儀になったのかしら」
 女王がほほをふくらませる。

「さて……女王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく」
「わざとやっているわね。いいこと、妾が命じたのはただひとつ。覚えていて?」

「もちろんでございます」

「だったら、そんな堅苦しい話はなし。これは命令よ。あのときと同じように話しなさい」
「……しかたない。歳をとっても相変わらずだな」

 女王を前にして尊大に話す男。
 周囲に控えた〈左手〉たちは目を剥くが、ふたりはどこ吹く風で会話を続ける。

「だって、あなたにした『命令』は生涯でこれだけ。出会ったときのように、これからも接しなさい」
「だから来たくなかったと言ったら?」

「あなたは来たわ。絶対に」
 揺るぎない瞳に、男の方が折れた。

「分かった、サヴァーヌ。もうその話はよそう」
「それでいいのよ、ハルイ」

 そんなふたりの会話。
 事情を知らない者がみれば、とても奇異に映ったであろう。

 ふたりはかつて、少女と暗殺者だった。
 女王とパン屋の主人となっても、その関係は少しも変わることがない。



「城の中はそのまんまだな。どうなっているんだ」
「外観はそうだけど、あなたがいた頃より、中の様子はかなり変えたのよ」

「途中まで外から来たが、配置もそのままで驚いた。あれでは容易に裏に回れるぞ」
「……どうやらそうみたいね。クニとヒトクは今日の当番かしら」

「あのふたりは気配も読めない。そんな者を当番にするのは止めた方がいい。それと……いつまでもこのロートルを使っていると、資質が疑われるぞ」

 ハルイは、片足をぐりぐりとやった。
 下からくぐもった声が聞こえる。

 ハルイが現れたときから、ヒフを踏んづけていたのだ。

「ヒフはいまだ〈左手〉の中ではトップクラスなのだけど」
「話にならないな」

「うふふ……腕はまだ鈍ってないようね」
「いまの〈左手〉が不甲斐ないだけだ。それに分かっていたんだろ?」

「なんのことかしら」
「あんな手紙を出したんだ。元部下どもの体たらくを見せたかったんじゃないか?」

「さあどうかしら」

 韜晦とうかいする女王に、ハルイは首を振った。
「まったく危ないことをする」

 ハルイは、ソールの町でパン屋『ふっくらフェナード』を経営するレオンの父である。

 同時に、サヴァーヌ女王が王女時代から傍においていた〈左手〉でもある。
 過去には、〈左手〉すべてを束ねていたこともある。

 今回、レオンが演習に向かう前に、サヴァーヌはハルイに手紙を出した。

 魔国に蠢動しゅんどうの気があり、演習先で竜操者を狙う動きがあると。
 そして、派遣される魔道使いには、魔国十三階梯(かいてい)の可能性があると付け加えた。

 女王の読み通り、ハルイは手紙を受け取ったのち、実に三年ぶりに王都を訪れたのである。

「いっそのこと、〈左手〉を全滅させておくか? こんな連中に守らせられん」
「「………………!!」」

 部屋の隅で動けずにいるクニとヒトクは、声にならない悲鳴をあげた。

 侵入者の気配がしたと思ったら、身体を押さえつけられ、いまだ身動きできずにいる。
 実力差どころか、何をされたのかすら分からない。

「それはやめてあげて。あなたなら簡単にできるし、許可したら絶対にするわよね」
「当然」

「だからだめ。……それよりも、話が聞きたいわ。最近どうしていたのかとか」

「いたって平穏に過ごしているさ。娘が結婚して、息子が出ていったくらいだな」
「まあ、娘さんが結婚したのね。おめでとうを言わせてもらうわ」

 和やかな会話が取り交わされているが、周囲はそれどころではない。
 ハルイは、女王陛下を守る〈左手〉をいまだ無力化したままである。

 気を変えて、そのまま女王に斬りかかったとして、〈左手〉たちは何もできないのだ。

「それで十三階梯が動いたのは本当の話なのか?」
「みたいね。竜操者の卵やひなたちを狙うには、過剰戦力だと思うけど」

きたる戦乱を見据えて、こっちの戦力を図りたいのだろう。殲滅にどの程度かかるかによって、戦略に見直しが出る」

「やっぱり、戦乱になるかしらね」

「手紙にあった大転移。あれが本当に起こるなら、そして魔国にその情報が流れたならば、確実に起こる。魔国王は名君だ。道を見失うことはない。生き残る術は、攻め込むことだけだと早晩結論を出す」

「レオンも演習に参加しているのよね。大丈夫かしら」
「あれは自力でなんとかする。そう鍛えてある。問題は王宮だな」

「王宮がどうかして?」

「とぼけるなよ。だから十三階梯のことを書いたのだろう? 学院の演習に魔国が暗殺者を派遣する。しかも大物だ。多くの目がそこに集中するが、それが陽動だった場合、狙われるのは王宮ここだ」

「そうなのよね。困るわ。『石眼せきがん』が来たらどうしましょう。可能性はあるかしら」
「バシリスクか。……私はないと思っている」

「あらどうして?」
「いまはまだ不確定要素が多すぎる。あれが来るのは、確実に殺せる算段が付いてからだ。いま王宮ここに来るとは思えない」

「それでも可能性があるから、ハルイは来たのよね」
「魔国が確証を得たかどうかなんて、私には分からない。もし来た場合、すべての逃走経路は知られて、迎撃部隊は全滅。操竜場ふくめて、あらゆる対策がされているはずだ」

 ハルイが王宮にいた頃、女王の逃走経路は複数存在していた。

 レオンがつい最近つかった王宮の中庭に繋がる秘密の通路。
 表の通路を通り、西の塔に向かう通路。

 裏の抜け道を使用し、エンテランスの隠し扉まで向かう通路。
 長い隠し階段を使って竜舎まで直接移動する通路。

 そのどの出口も、女王の竜が着地できる場所になっている。
 しかも、使用する通路に共通部分はない。すべて独立した経路になっている。

 ハルイは、そのどれもが知られており、対策が採られている可能性を指摘した。

「なかなか怖い話ね」
「魔国王ならば、そこまで確証がないかぎり、バシリスクを派遣したりしない」

「それで今回はこないと?」
「一応、そう思っている」

「もしやってきたら、勝てる?」
「無理だろう。あれを防ぐ手立てはない。私の魔道では一生かかっても不可能だと思う」

「あら、いつかは子が親を超えるものよ?」
「親子の縁は切ってあるから大丈夫だ」

「……そう。でも、もし来たらどうしましょうね」
「あと数年したら、レオンがいい勝負できるかもしれない。だがあれでもいまは無理だ」

「あら、それは楽しみね」
 こんな時でも女王は、うふふふと微笑んだ。

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