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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 王宮 屋上

 中型竜の背から落ちてきた者は十人以上いた。
 竜の背から飛び下りたように見えたが、数本のロープにつかまっていたようだ。

 侵入者はロープで一定の高さまで下がると、王宮の屋根に飛び移った。

「さて、行くとするか」
 ハルイはトンッと跳躍してそのまま落下……せずに、見えない足場を作りながら移動した。



「ぐわっ」
「どうした? うをっ!?」

 無事屋根に降り立ち、行動を開始しようとした男が慌てる。
 足元に見えない何かがあり、躓いたのだ。

「何があるというのだ? ……おい!?」
 一人が起き上がって周囲を見渡すも、なぜか誰もいない。

 いや、全員屋根に押さえつけられていた。
 しかも首が変な方角を向いている。

 とても生きているとは思えない首の角度に、男は戦慄した。
 一体、何が起こったのだと。

「下に意識を集中させて上から忍び込む。計画としては悪くないな」
 町中の騒乱からはじまった。
 敵は多数の囮を使って、王宮内の意識を徹底的に外へ外へと向けさせた。

 最後は王宮への力押しで決着をつける……そう思わせるのが敵の狙いだった。

 もちろん参集決戦の戦力すら囮で、いまも囮となった者たちが女王を狙って、兵や〈影〉と戦っていることだろう。

 そして本命はひっそりと、上から侵入する。
「狙いとしては悪くない」というのは、褒めているようで、そうでない。

 なぜならば、正攻法では絶対に王宮は落とせないと、自分たちで宣言しているからである。

「絡め手というのは、見破られたらお終いなんだ」
 ハルイは魔道『不可視の盾』で拘束された一人を除いて、やってきた者たちはみな事切れている。

「ぐっ!」

 男は自害しようとするものの、四肢を動かすことができない。
 身体のどこもかしこも、見えない何かで押さえつけられているのである。

 視界の端に仲間の死体が映る。
 事切れた男たちは、大なり小なり荷物を背負っている。

 ハルイはゆっくりとそれを広げる。
「火付けの道具に香炉……これに入っているのは毒だな」

「…………」
 掴まった男は顔を歪める。

「黒幕を吐かせるのは後回しとして……」
 逃げ去っていく中型竜をハルイは見た。

 闇夜の中を飛翔する中型竜は、すでに目で追えないところまで離れてしまった。
 これでは追いつけない。ハルイが目を細めたそのとき……。

 ――バサァッ

 一際大きな竜がハルイの頭上を通過した。

 中型竜よりなお大きいその竜は、純白だった。
 この大陸で、真っ白な身体を持つ竜と言えば、一体しかいない。

 女王にして竜操者であるサヴァーヌの愛竜『白姫しろひめ』である。

 白姫は去って行く中型竜を追いかけるようにして、まっすぐ飛んた。

「……ったく」
 ハルイは動けない男に手刀を打ち込んだ。



○竜国 空の上

 中型竜は襲撃者を下ろした後、王都を飛び出して東に進んだ。
 海上に出るためである。

 それに距離をあけてついていくのは、白姫。

「くっ」
 商国五会頭のひとり『花蜜』のハリムは、後ろを振り返り、顔を悔しげに歪めた。

 白い竜は、一定の距離を保ちながらずっと付いてくる。

 なぜ王宮の空にハリムがいたのか。
 ハリムは『麦野ばくや』のフストラからひとつの策を授かっていた。

 ある程度古代語が読めるフストラは、『魔探またん』のデュラルが残した手記を紐解いていた。

 それには、天蓋山脈でデュラルが手に入れた稀少なもの、奇妙なものが多く記されていた。

 それらのほとんどは取るに足らない……そう呼ぶにはやや語弊があるが、ごく一部の好事家こうずかしk欲しがらないものだった。

 何とはなしにそれを訳していたフストラは、奇妙な記述を見つけたのである。
 途中から暗号になっているのである。それはどうやってもフストラに読める内容ではなかった。

 しばらくして、『楽園』に関する記述が明らかになり、デュラルの暗号がほぼ解けたとき、フストラは手記のことを思い出した。

「これを使えば、解けるはず……」
 そうして解きほぐしたのが、天蓋山脈に生える毒草についてだった。


 ある日デュラルは羽虫はむし避けに枯れ草をいぶした。
 虫の嫌う煙が周囲にたゆたったとき、連れてきた荷馬が泡を吹いて倒れたのである。

 原因は毒草で、それはすぐに見つかったが、この周辺では生えていない。
 どこからか種が飛んできて、たまたまここで芽吹いたのだと分かった。

 その後、デュラルは天蓋山脈の奥で毒草の群生地を見つける。
 いくつかの実験の結果、草が枯れることで毒素が濃縮され、燃やされることで強い毒性をもった煙が発生することがわかった。

 これは人を殺める可能性のあるものとして、デュラルが危険視し、暗号化させて残した事も分かった。
 フストラはそのことをハリムに伝えたのである。

 天蓋山脈でハリムの足取りが消えたのは、その毒草を採取しに行ったからであり、彼はそれを使って竜国を転覆させようとした。

 だが、ひとつだけ問題があった。
 煙の効果範囲は狭い。王宮から遠く離れたところで行っても意味は無い。
 また、熱せられて一度立ち上った煙は、外気によって冷やされると下へ下へと下りていく。

 つまり、もし女王を毒殺するならば、より高い場所で使うのが効果的だった。

 王宮の守りは堅い。
 すべての可能性を考えて、ハリムはとにかく城下に注目を集めさせて、上から狙う作戦に出た。

 現在は作戦行動中であるはずだ。
 だが、なぜか殺したいはずの本人――竜国の女王がハリムを追ってきているのである。

「あれを倒す方法はありますか?」
 ハリムお抱えの竜操者に尋ねるも、竜操者は首を横に振る。

「いかに中型竜と言えども、属性竜には勝てません。そもそも逃げ切れるのかどうか……」

「やはりそうですか……もう少しすれば海上に出ます。下が海ならば目撃者も出ません。雲に隠れてやり過ごしましょう」

 ハリムは自分が指名手配されていることは知っていた。
 天蓋山脈を出てからは、ずっと海上の船の上にいた。
 その間竜は、北方の森の中に隠れさせていた。

「もうすぐ海です」
「では高度を上げて、雲の中へ」
「分かりました」

 ハリムを乗せた中型竜は、雲の中に入った。
 白姫はそれを追う。

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