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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 王都

 王宮の奥にある広い通路。
 そこは女王陛下の扉に繋がる唯一の連絡路。

「……来たか」

 そこにいた〈影〉の一人が囁く。
 外から争っている音が聞こえてきたのである。

「これは……襲撃ですか?」
 クリスタンがじっと耳を澄ませた。

 少しして全員が頷いた。かすかながら、音が伝わってきている。
 城を守る兵士が襲撃者と戦っている。そんなところだろう。

「ここを守る〈影〉を外へ誘いだそうとしたわけですし、攻め込む算段はついていたということかしら」
「まあ、そうだろうね。おれたちが出て行かなかったから、しびれを切らしたかな」

 ハルイによると、町での火事騒ぎからはじまって王都の民が次々と倒れた事件は、王宮の警備を薄くさせる罠だろうと。

 すでに城の周囲は敵に包囲され、様子を見に出かければそこを狙われる。
 斥候が戻ってこなければ、情報を得るために、次々と繰り出さねばならない。

 そうして王宮の外と中を隔離した上で、中の〈影〉を減らすつもりだろうと。
 敵の狙いは町民ではなく、あくまで女王。

 女王を倒すという目的を達する準備は整っており、それをようやく投入してきたのだと全員が理解した。

「お義父さんは?」
「そういえば……『死神』の姿が見えないわね」
 クリスタンとシルルが首を傾げる。

「襲撃者を倒しにいった……わけじゃないよな」
「さっきまでここにいたわよね。でも率先して倒しにいくタイプとは思えないのだけど」
 結構酷い言い様である。

 他の〈影〉たちはとくに気にしない。
 もともと要員として、クリスタンたちは入っていなかったのだから。

「お義父さんのことだから、心配はないと思うけど」
「女王陛下の部屋に行ったのかしら」
 下手をすると、ここにいる全員よりも強い。

「女王陛下の部屋は物理結界が張ってある。わざわざ向かうとは考えられないな」
「用を足しに行ったわけでもないでしょうし……ほんとどこかしら」

 物理結界を解除するには時間がかかるし、力業で結界を破る意味はない。
 ならばどこへ行ったのかとシルルたちは不審がるが、それどころではなくなった。

 争いの音が近づいてきたのである。

「さて、ここまでたどり着ける者がいるのかな」
「どうかしらね」

 竜国の王宮は堅牢。
 いまだかつて、押し入った賊が無事に出てきた例は……ない。



○竜国 王城

 城を攻めているのは呪国人をはじめとした、大陸で少数派に属する者たちだった。
 故郷と呼べる場所はなく、仮住まい中であると考える者たちである。

 国が興り、消えていく。
 その過程で放り出された人たちは、いまの竜国に帰属意識を持っていない。

 また魔国が滅んだことで、行き場を無くした者たちもいる。
 彼らの多くは、竜国に深い憎しみを抱いている。

 国が無くなった直接の原因は支配種の降下である。
 そこから魔国は立ち直すことなく、半ば自滅するように消えていった。
 これを「致し方ないこと」と割り切れる者は、そう多くない。

「迎え撃て!」

 城の警備兵を指揮するノイゲン・ナートンは城の構造を頭に思い描きながら適切な指示を出していく。

 すでにノイゲンのもとに、町の様子が届けられていた。
 組織的な犯行によって、城外にいる兵や〈影〉の多くが狩られてしまったことも理解している。

 今回は久し振りに大規模な侵攻である。
 だからこそ何があっても城を死守する。それがノイゲンの職務であり、矜持でもあった。

 多くの兵を伏せさせたまま襲撃者を迎撃させた。
 城内で戦うことを日々想定して訓練している。
 初めてここに足を踏み入れた者たちなど、ものの数ではないのだ。

 ノイゲンは部下から挙がってくる多大な戦果にも慢心せず、さらなる指示を出すのであった。

「殲滅せよ」
 襲撃者の数は目に見えるほどに減っていた。



○竜国 王都

 竜国王都への襲撃計画は、練りに練られたものだった。
 これは『麦野ばくや』のフストラが立案したものである。

 それを現状の戦力を鑑みた上で、修正を加えたている。

 本来、王城に攻め込む段階で城内の兵力は半減しているはずであった。
 予想通りにならなかった理由はいくつかあるが、最大のものは正体不明の援軍の存在であろう。

 無差別かつ大規模な住民死傷事件がおきれば、どうしても城は対応せざるを得ない。
 長い夜の間中、無視を決め込むことは、被害を徒に拡大させるだけで何も益がないのである。

 ゆえにどの段階か分からないが、城から大量の兵が出てくるか、町民が難民となって城に押し寄せるものだと思っていた。

 だが、実際はどうだったのか。
 町の外からやってきた竜操者の集団が、瞬く間に仕掛けた毒を回収してしまった。
 そのまま町中に散らせてあった襲撃者たちを狩りはじめたのである。

 誤算である。
 町民の被害はもっとずっと多くなる予定であったし、範囲も広がるはずであった。

 だが、被害が拡大する前に終息し、隠れていた仲間が次々と見つけられ、狩られていった。
 仲間たちは、目立たないようにと町中に散らせていたのが徒となった形だ。

 どんなに優秀だろうとも、単独もしくは少人数では、竜に対抗しえないのだ。

 毒の処理を終えた竜操者の一団は、王宮を目指した。
 襲撃者たちは焦ってしまった。
 それを実行させてしまっては、計画そのものが狂ってしまう。

 王宮襲撃のために温存しておいた兵を半分割き、ひとつは予定通りの城内へ。
 もうひとつは竜操者の足止めに向かわせざるを得なかった

 竜国の戦力を減らせなかったばかりか、こちらが兵を二分させられてしまった。
 苦々しい限りだが、これ以上竜操者たちを好きにさせておくと、今夜はもう二度と攻め込めなくなってしまう。

 襲撃を始めるにはまだ早かったが、致し方ない決断だった。

 今回の襲撃に集めたのは呪国人、傭兵、旧魔国民たちである。
 ほかに少数の魔道使いと魔国の暗殺組織のメンバーも入っている。混成部隊である。

 魔国の首都が壊滅したことで、優秀な人材が多数亡くなっている。
 暗殺組織も多くが魔国首都に本部を置いており、大ダメージを受けたのだ。
 今回、それをかき集めて投入した。

 一度襲撃をかければもう後には戻れない。
 どちらかが斃れるまで、それは続く。

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