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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 シャラザードが制動を間違えて支配種に突っ込んでしまった。

『うう……失敗したわ』
「おまえ……」

 僕も頭を打ったのか、目がチカチカする。
 目を開いたら、ものがぼやけて見えた。焦点が合っていないようだ。

 シャラザードが起き上がったのが感覚で分かる。
 支配種はどうなったのか?

 大地の上では、逃げ場がない。尾の攻撃を受けたらひとたまりもないのだが。
 頭がクラクラする。どうやら、かなり頭を痛打したようだ。

 ぼやける視界の先に、巨大なものが映った。支配種だ。
 支配種の身体はシャラザードの倍以上ある。

 あれだけの速度と質量でぶつかったのに、もう身体を起こしたらしい。
 頑丈にもほどがある。

「拙いぞ、シャラザード! 動け」
『うむ……腹減った』

「寝ぼけているのか? というか、わざとか!?」
 少し前の「まかせろ」はどこに消えたんだ。

 よろよろとシャラザードが身体を起こすが、到底間に合う感じはしない。
 支配種がこちらをみている気配がする。本格的にヤバい。

「先輩から離れなさーい!」

 上からアンネラの声が聞こえた。
 僕らが攻撃している間に、ターヴェリが持ち直したようだ。
 尾のダメージは回復したのだろうか。

 ――ゴゥ

 何かが聞こえた。
 僕が耳を澄ますと……それは徐々に大きくなり、周囲の風が震えた。

 ――ゴゴゴゴゴ

「なんだこれ!?」
 痛い。風が痛い。
 圧力を持った風が、シャラザードごと僕を押さえつけにきた。

「シャラザード、逃げろ!」
『言われんでもやってるわ』

 これもターヴェリの属性技だろうか。
 考える暇もなく、シャラザードは這ってその場から遠ざかった。

「……なんだあれ?」
 支配種を中心に竜巻が起きていた。
 旋風というやつである。

 旋風は支配種から真上に伸びている。
 中心にいる支配種にはどれだけの圧力がかかっているのか。

 周辺の土砂が削られ、支配種の身体が何百メートルも下降する。
 それだけ周辺の土砂が削り取られているのだ。

「あれは大地に優しくない技だな」
 シャラザードが撃った雷も酷かったが、あれも相当だ。

 ようやく視点があってきたことで、周囲がよく見えるようになった。

「あれ? ソウラン操者は?」
『上におる』
「えっ?」

 アンネラがいる場所の更に上方にソウラン操者がいた。
 青竜の周辺に真っ黒な炎がたゆたっている。

「もしかしてあれ……落とすのか?」

 ――ザァー

 黒い炎が滝のように流れた。
 それがターヴェリの出した旋風に巻き込まれ、燃え上がる。
 竜巻は火炎旋風となって吹き荒れた。

「アチチチ」
『アチチチ』

 シャラザードがさらに這って逃げた。

 大地が溶け、支配種の身体がさらに沈む。



○月戦隊 左翼部隊

「おい、クローネ。返事をしろよ」
 左翼に向かった中で、生き残っている者は少ない。

 ダーミノ・ナリスリンはピクリとも動かないクローネ・フォルトを後ろから揺さぶる。
 ダーミノがどんなに揺すっても、クローネは目を開けない。

「マジかよ。おれを置いていくなよ」
 自分でも泣き言だと分かっているが、どうにも止まらない。

 大量の月魔獣と戦っているうちに、騎竜から振り落とされ、竜を見失ってしまった。
 落ちた拍子に足を挫き、蹲っているところをクローネに助け上げられたのだ。

「ここを突破するわよ」
 少し前まではほぼ同数の月魔獣と戦っていた。

 敵が増えたなと思ったときには、大量の月魔獣に囲まれていた。
 竜は強力だとはいえ、足を止めて戦うのに向いていない。

 とくに防御型の月魔獣が相手となると、ヒットアンドウェイで少しずつダメージを与える戦法を採るのが普通だ。

 二重三重と囲まれた状態では、それも敵わない。
 結局、ガチのつぶし合いに発展し、二進も三進もいかなくなって脱出突破することにしたのだ。

 クローネが乗っていた竜は地竜。
 地竜は拠点突破に向いている。

 ゆえに包囲された状態でも、問題なく進むことができた。
 だが、竜はそうでも竜操者は違う。

「危ない!」
 前に座っていたクローネが指示を出し、竜が急旋回した。

 蜘蛛型の月魔獣が細長い足を一本、振り上げてきたのである。

 狙いは後ろのダーミノだった。
 クローネはそれを躱し……結果、自分が被弾した。

 竜は月魔獣を押しのけながら進み、囲みを脱することに成功。
「やったぞ、クローネ」
 ダーミノそう語りかけたもの、クローネからの返事はない。

「おい、クローネ」
 肩を揺するも、クローネは力なくうなだれ掛かってくるばかり。
 目を閉じた顔は綺麗なままだった。

 月魔獣の攻撃を生身で受けたことで、骨が砕け、内臓を傷つけたのかもしれない。
 ダーミノがクローネを強く抱きしめると、口の端から一条、血が滴り落ちた。

 すでにクローネは事切れていた。

「クローネ、マジかよ。なんでおまえが逝くんだよ。見ろよ、ほら。月魔獣の包囲から脱したんだぜ。おまえの手柄だぞ」

 だがクローネは答えない。

 そんなとき、一頭の竜がやってきた。
 ダーミノが乗っていた竜である。

「おまえ、無事だったのか」
 竜は近づくとダーミノの側で頭を下げた。乗り移れということらしい。

「なあ、もうおれはいいよな。十分やったよな」
 竜は答えない。乗れとも促さない。ただダーミノの前で頭を下げるのみ。

「おれにこれ以上どうがんばれっていうんだよ。もう十分だよ」
 ダーミノが振り返った。

 支配種のいるあたりに、強烈な光の柱が降り注いだ。
 それは周囲を真昼のごとく照らす光だった。

「ああ、戦っているんだな」とダーミノは思った。
 自分たちだけではない。

 それどころか、支配種というかつてない強大な相手に立ち向かっているのだ。
 それが分かった。

 同じ場所に、竜巻が巻き起こった。
 何キロメートルも離れているのに、風がここまで感じられる。

 その後、竜巻は炎を受けて、さらに大きく燃え上がった。

「……もう十分ってことはないんだな。そうだよ。考えてみれば、おれたちが戦うのって、おれたちだけのためじゃないんだ」

 村や町にいる善良な人々。
 彼らは、ダーミノたちにすべてを託している。

 クローネもそうだ。
 志半ばで倒れたものの、後をダーミノに託したのだ。

 さまざまなものが、生き残った者の双肩にのしかかっている。
「いくよ。おれだって、やれることはある」

 ダーミノは愛竜に乗り移った。

 左翼の生きのこりは……少ない。
 だが、抗う炎はまったく消えていなかった。

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