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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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『鉄耕』のニコライドが乗ってきた中型竜。
 それが夜空に飛翔した。
 巨大な身体を翻し、竜の聖門の方へ向かっていく。

「止めるんだ!」
 リトワーンの叫びに、生き残った正規兵と、忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)が動く。

 空を行く中型竜に対して、彼らは地上の迷路を進まねばならない。
 追いつける道理はない。だが、だれ一人として、歩を緩めようとはしなかった。



「天蓋山脈の北方に、死をまき散らす一帯がある」
「……?」

「生き物を寄せ付けないため、存在はほとんど知られていない場所だ」
「何がいいたい?」

「そこから採れる『あるもの』を使うと、強烈な爆発を起こすことができる。技国もまだ知らない、極めて危険で新しいものだ」

「キサマ、何を言っている」
「知れたことよ。それで竜の聖門を爆破させる。もう間に合わんよ……ふふふ、ははは……ふははは」

 高らかに笑うニコライドの目は、もはや通常の色を帯びてはいなかった。
 狂気か妄執か。もはや正常な判断ではないとリトワーンは判断した。

「キサマらを駆り立てるものは何だ! だれしも十全に満足して生きているわけではないのだぞ」

「簡単なことよ。竜がいなければ、竜操者が現れなければ、この大陸はもっと発展していた。竜に頼り、すがることで人々は自ら考えるのを止めてしまったのだ」

 これは罪である。そうニコライドは言った。
 竜の存在が技術革新を妨げ、正常な発展を阻害していたのだと。

「世迷いごとを! 人の歴史がこうして続いているのも竜の助けがあってこそだ。さもなければ、大転移のたびに文明は崩壊し、人々はイチからやり直していた」

「竜がいなければ、別の発展があったはずだ。たとえ滅びかけようとも、何倍ものスピードで復興し、次はより強固な社会を構築できていた。その可能性をすべて阻害していたのが竜だ。害悪は元から絶たねばならない」

「やはりキサマの言うことは理解できん。もはや口で何を言ったところで詮無きこと。そろそろ決着を付けさせてもらおう」

「それはワシの言葉だぞ。この先、竜がいなくなれば分かる。人だけの力ですべてをなし得たとき、竜の存在などただの害悪でしかなかったとな」

 リトワーンとニコライドは互いに剣を引き、次の一撃にかけた。

 老練な剣を扱うニコライドと、剣の才に溢れるリトワーン。

 防御を無視して、ただ敵を貫くために神経を集中させる。

 他の者は中型竜を追っていったのであろう。
 静寂が支配した中、両者はピクリとも動かない。

 互いに一歩で心臓を貫ける間合いにあってなお、動かないのだ。
 そんなとき、竜の聖門がある方角から大きな爆発音が聞こえてきた。

「……ッ!!」
「!?」

 どちらが早かったのだろうか。
 その刹那、互いの剣が交差した。

 剣が肉を貫く音が響き、両者の動きが止まる。

 リトワーンの足下に大きな血だまりができた。
 ニコライドの身体から吹き出た血は、まるで噴水のように脈動し、二人の中間に降り注いだ。

「……肺の少し上に入りましたか」
 剣を抜いたリトワーンが、左手で自らの胸部を押さえ、よろめく。

 リトワーンの剣は、正確にニコライドの心臓を刺し貫いていた。
 口から血の泡を噴き出したニコライドが、ゆっくりと大地に倒れた。



 時間はほんの少し遡る。
 中型竜は、迷うことなく進んでいた。

 竜の聖門は、通常の者だとただ黒い壁としか認識できない。
 身体のどこかに竜紋が現れた者のみ、その姿は違って見える。

 そこに巨大なトンネルが存在しているように見えるのだ。

 竜操者の使命は、竜の聖門に爆弾を投下すること。
 まったく新しい技術で作られた巨大な爆弾は、点火することでその効果を発揮する。

 爆弾はあまりに大きすぎるため、人の手では持ち運びができない。
 また、他の者に任せるには重要すぎる。

 そこでニコライドは自身が運ぶことを選び、すでに何十年という付き合いである己の半身たる仲間、ニコライドに忠誠を尽くしている竜操者に爆弾を持たせたのである。

 もう少しで竜の聖門というところになって、竜操者は頭を押さえた。
 強烈な頭痛が彼を襲ってきたのである。

 原因を探ろうとして気付いた。
 竜が向きを変えている。

「戻れ!」
 命令するも、竜は「?」と竜操者の意味を理解していない。

 これはなんだと訝しんだが、すぐに理解した。
「魔道攻撃か」

 竜操者が気付いた通り、これは竜国の〈影〉が起こした魔道による攻撃であった。

〈影〉は総じて忠誠心が高い。
 忠誠の対象は、女王個人か、竜国そのものか、民の暮らしに向いているかの違いがあるが、彼らは絶対に裏切らない。

 中でも竜そのもの、もしくは竜の聖地を神聖視している者たちが、この地を守っていた。
 そして、魔道に優れた者もまたここに配属されていた。

 竜国の王宮を守るのと同じくらい重要なこの地。
 なぜ王宮に有能な魔道使いがいないのか。

 孤立無援なこの地を守るために、魔道使いが派遣されていたのである。

 中型竜が受けたのは、竜の感覚を少しだけ誤解させる魔道。
 それによって、中型竜は本来行くべき場所に向かっていると思っているものの、実際には少しだけズレ(・・)ていた。

 竜操者がそれを正そうとしても、竜は気付けない。
 このままでは目的地は大きく外れてしまう。

 しかも竜操者自身もまた、酷い頭痛に苛まれていた。
 これも魔道の仕業であろうと竜操者は考えた。

 事実、少し竜の聖門から離れただけで、それは治まってきていた。
 おそらくある一定範囲内にいる者に、強制的に頭痛を与える魔道であろうと竜操者は予想した。

 ただの頭痛であるから我慢できる。
 だが、竜が感覚を狂わされているのはよろしくない。

 どう指示を出しても、竜が知覚しない。

「……ならばっ!」

 幸い上空にいるため、ここから爆弾を落とすことは可能だ。
 ただし、距離は離れている。

 もう一度竜の聖門に向かわせたが、同じ結果となった。
 竜は向かっているつもりでも、方角がズレてしまうのである。

「ならばここからっ!」

 竜操者は爆弾を結んであった紐を解いた。
 爆弾の重さは相当なもので、人が持ち上げられるものではない。

 竜に反転してもらい、落とすくらいしか方法がないのだ。
 竜操者は自由にならない竜の背で、タイミングを計った。

「……ここだっ!」

 爆弾に点火し、竜に反転を促す。
 重力に引かれて落下した爆弾は崖に当たり、跳ね返る。

 爆弾は大地に到達したあと、勢いを少しずつ殺しながら転がっていった。
 あとは運を天に任せるだけである。

 爆弾は転がっていった後、道の途中で止まった。
 竜の聖門まではまだ距離がある。

 ――ドーン

 轟音とともに激しい突風が吹き荒れ、周辺の崖をすべて吹き飛ばしていった。
 土砂が乱れ飛び、土煙がもうもうとあがった。

 それが晴れたあと、竜の聖門は……。

 聖門があった崖の一部が崩壊していた。
 だが、聖門はそこにあった。

 どうやら、崖と聖門はくっついているように見えて、実際は違っていたようである。
 ただそこに、存在が重なっていただけ。
 爆風で吹き飛ばされた崖の一部を見て、竜操者はそれを知るのであった。


 竜の聖門破壊は、失敗に終わった。

リトワーンとニコライドの決着もつきました。
また竜の聖門は無事でした。《影》活躍です。

これで残っているお話は、支配種関連と王宮のみになりました。
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