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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 竜の聖地 リトワーン

「おまえは、ニコライド!」
 リトワーンが叫んだ。

 竜の渓谷に侵入した者を撃破し終えた直後、感知式の魔道結界が発動した。
 渓谷のもっと奥。竜の聖地がある場所へ侵入者が入り込んだのだ。

 商国五会頭のひとり、『鉄耕』のニコライド・ルブランは顔をしかめて、竜の背から下りた。

「ふん。気付かれたか。やっかいなところに魔道結界をしかけおって」
 ニコライドに続いて、三人の男が下りてきた。

 その三人の身のこなしから、鍛錬を積んだ者だと分かる。

「ニコライド、ここへ何をしにきた?」
「分からん訳がなかろう」

「竜の聖地を破壊するつもりか?」
「そのとおりだよ。来るべき未来の為にも、この地は破壊させてもらおう」

 ニコライドが手を挙げると、三人の男たちが足止めに向かう。
 ニコライドの視線はリトワーンのもっと後方に向けられている。

 リトワーンに続いて正規兵もまた、ここにたどり着いていたのだ。

「単独で何ができる!」
「できることはあるさ。……竜が来たな。お前も遊んでやれ」

 ニコライドが乗ってきたのは中型の飛竜。
 小型竜に比べて、大きさは段違い。

 ここで一番の攻撃力をほこる。

「ならば私が、貴様を止めてみせよう」
「相変わらずキザな奴だ。だがワシとて『鉄耕』と呼ばれた身。武器商人が武器に精通していないとでも思ったか?」

 戦争に使う武器防具、他にも兵が使用する糧秣を一手に引き受ける商人がこのニコライド。『鉄耕』と呼ばれる所以である。

 ニコライドは腰から細身の剣を抜くと、リトワーンと対峙した。
 両者は、剣の間合いの外で睨み合う。

「こんなことをしても、お前の望む世界はやってこないぞ」

「そんなことはない。今代は残念だったが、ここさえ壊してしまえば、あとは竜操者の寿命を待つのみ。竜のいなくなった竜国など、具のないスープと同じだよ」

 舌戦を繰り出しつつも、互いに隙は無い。
 リトワーンが一歩踏み出すと、ニコライドが一歩下がる。

 いまだ両者の距離は縮まっていなかった。

「竜無しでも竜国は発展するさ。……だからといって、お前のやることを許すつもりはない!」
「別に許して貰おうとは思っておらんよ。ほれっ!」

 今まで距離を取っていたニコライドが、自ら間合いを詰めた。
 すぐに両者の剣が届く距離になった。

 互いの剣が繰り出され、攻撃と防御が激しく入れ替わる。
 双方が細身の剣を使うことで、展開がめまぐるしく変わる。

「五会頭の望みは分かっている。商人の支配する世界。そうだな」
「そうだよ。理想だろ」

「民を導くには、たゆまない勉強と生涯をかけた崇高な意志や理念が必要だ。商売の片手間にできることではない」

「民に寄り添わずに、なにが政治か。為政者の周りにだれがいる。だれの意見を聞いて民を支配している」

「民の声はしっかりと聞こえている。だが、為政者は民を導く者である。民に迎合したり、おもねたりするものではない」

「……ふん。どこまでいっても噛み合わんな。この剣みたいに」

 互いに剣を繰り出すも、決定的な場面はいまだやってきていない。

 剣の才に恵まれ、努力によって技術を身につけたリトワーンと、年齢に裏打ちされた実力を有するニコライド。

 二人の口撃と剣捌きは互角。
 噛み合わないというニコライドの言葉に、リトワーンも珍しく同意するのであった。

「自分の商会を富ませられない商人は失格だ。同じように、領民を富ませられない領主もまた、失格と思わんかね」

「政治を商売で語るな。たとえいまは損をしても、次代や次々代に残る政策も存在する。近視眼的な視野で儲かった、損をしたと断じるべきでない」

 結局のところ、互いの信じるもの、寄って立つ場所が違っているため、わかり合えないのである。

 一方その頃、ニコライドと一緒に下りてきた三人の男は、この地を守る正規兵相手に、奮戦していた。

「気をつけろ! こいつらの身体能力。ただ者ではないぞ」
 三人の男たちはみな呪国人であった。

 呪国人たちは得意な武器がそれぞれ違う。

 戦争や兵士との戦いを想定していた正規兵たちは、呪国人の使う武器に慣れないことで、後れを取っていた。

「数で押し包め!」
 一対一では分が悪くても、こちらの方が数が多い。

 正規兵たちは、敵との間合いをうまく取って、相手の体力がなくなるのを待つ作戦にでた。

 逆に、中型竜相手に数で押している忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)の面々は、苦戦していた。
 人対竜の戦いでは無双できるものの、小型竜と中型竜の戦いでは、かなり分が悪い。

 竜との戦いの場合、大きさが段違いである中型竜を攻略する術がないのである。
 そもそも竜どうしで戦うことを竜操者たちは想定していない。

 うまく連携を取りながら突破口を見つけているが、一人また一人と中型竜の爪に掛けられている。

 こんな時に重宝するのが飛び道具だが、忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)が飛び道具対策をしているのと同様に、中型竜の竜操者もまた、同じかそれ以上の対策を施していた。

 つまり、現時点でお手上げなのである。

 そうこうしている内に忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)側の被害が増えていった。




 その頃リトワーンは、ニコライドに小さな手傷を負わせることに成功していた。
 技量はほぼ互角。

 経験の差でニコライドに軍配があがるかと思われたが、どうやらスタミナ切れである。

 ニコライドはそろそろ七十歳に届こうかというほどの高齢。
 さすがにリトワーンとは、持久力で劣る。

「これまでのようだな。……呪国人ももう残りはあと一人だぞ。降参したらどうだ」
 三人いた呪国人も二人が倒れている。

 リトワーンはニコライドに投降を薦めたが、内心はそれほど余裕がある訳ではなかった。

 たしかに相対しているニコライドはすでに息切れの状態。
 呪国人も残り一人。

 だが最大の難敵、中型竜は無傷で残っているのである。

「……これまでか」
 ニコライドの言葉をリトワーンの耳が拾った。

「投降する気になったか?」

 最後の呪国人が倒れたのである。
 これで正規兵もリトワーンの元へたどり着く。

「おいっ、こっちはいいから、行け! 行って自分のやることを成せ!」

 ニコライドが叫ぶと、中型竜に乗っている竜操者がひとつ頷くと、周囲を固めている小型竜を押しのけて飛翔をはじめた。

 すぐそばには竜の聖門がある。

「止めさせろ!」
 リトワーンの叫びが夜空に轟いた。

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