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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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「さっそくだが、ニュースがある」
「義兄さん、いきなりだね」

 義兄さんの顔が近い。
 一歩下がろうかと思ったが、周囲に漏れても大変なので、踏みとどまった。

「知らせるなら早いほうがいいからな。魔国の魔道使いたちが国境を越えたと三日前に連絡が入った」
「その情報はどこから?」

「王都からだ。その時点でかなりの時間が経過している。学院生が野営中に襲われた可能性もわずかながら残っていたんだ。まずは無事に到着できてホッとしたよ」

「襲撃はなかったよ。それらしい気配も感じなかった」
 月魔獣には会ったけど。

「女王陛下の計らいで、今回の野営地は普段と違った場所にしたようだぞ。なるべく周囲に何もない場所を選んでもらっている。その分、陰月の路には近かったようだが」

 そういえば、去年はもっと見通しが悪かったと言ってたっけ……って、陰月の路に近かったのか。どうりで三回も遭遇したわけだ。

「それで、魔道使いたちの情報は?」
「竜国に入ってからの目撃情報はなし。あれは陰月の路を移動しているな。度胸のある奴らだよ」

 国境付近の町にはかならず〈影〉が張り付いている。

 不審な出入りは、結構な確率で察知できる。
 見つからずに移動するなら、陰月の路はもってこいだ。

 町に寄らないで移動すればいいと思うかもしれないが、街道を使わず町を避けて移動する者ほど目立ってしまう。

 ゆえにほとんどの場合、程度の差こそあれ、どこかで情報が漏れる。

「陰月の路を通るなら、月魔獣くらいなら自分たちで対処できるってことかな」

「そうだろうな。魔国は攻撃を主体とした魔道の研鑽に余念がない。今回だって、十人近い魔道使いが動員されたとみている」

 魔国といえども、魔道使いの数は多くない。
 中でも、月魔獣とやりあえるような魔道使いは貴重なはずだ。

「半人前の学院生を襲うのに、大盤振る舞いだね」

「それだけ本気ととらえることもできるし、こっちの守り具合をみているのかもしれない。最悪なのは、一方的に一回生と二回生を殺られてしまうことだろうね。二年間分の竜操者を失うのはかなり痛い」

 女王陛下は、魔国と戦争になると考えている。
 大転移がもたらす災害だけが理由ではないのかもしれない。

 それはいいとして、魔道使いたちのことだ。
 僕らを狙って寄越したことが明らかになれば、戦争に発展してもおかしくない。

 魔国はその覚悟を決めているのか。
 だとすると、義兄さんが言ったように魔国はもう本気だ。

「予定だとここの宿泊施設で五日間、もう一度野営地に戻って五日間で演習が終了だけど」

「女王陛下は敵をこの宿泊施設におびき寄せるつもりのようだ。どうせ来るなら、準備万端の場所を襲撃させた方が、何倍も守りやすいだろ?」

 ここは昔からの宿泊施設であるし、大量に物資を運び込んでいるので、人や物の流れを派手にしてわざと特定させたいらしい。

「もしかしてもう近くまで来ている?」

「鋭いな。ここから十キロメートルほど離れた岩場で何者かが野営しているのを、巡回中の竜操者が発見した。わずかに出ていた天幕片を見つけたようだ」

「意外と間抜けな襲撃者たち?」

「上空から捜索されたことがなければ、天幕の全てを隠すのは難しいはずだ」
「そうか、角度によっては見えちゃうこともあるからね」

「そういうこと。慣れてないと言えばそれまでだが、日頃から月魔獣を探して巡回している竜操者に軍配があがったと見ていいだろう」

「なるほど。経験だね」

「こっちから見張りは出してない。気づかれて移動されると面倒だしな。位置は分かっているので、日が沈むのを待って、襲撃をかけようと思っている」
 先に発見できたのは僥倖だな。

「僕も襲撃に参加した方がいいよね」
「ああ、斥候を頼みたい」

「分かった。ここの守備状況と周辺の情報を教えてくれる? 別働隊がいたり、入れ違いになると困るし」

「この宿泊施設を敵に知らせるため、近くの町でわざと大量に現地の人を雇っている。その中に今回働いてもらう〈右手〉をそっと潜り込ませた。それと、雇用した民間人を守る名目で軍人も呼んである。この付近に住む軍人は警戒慣れしているから、他の町にくらべて使えるぞ」

「それはいい感じだね。施設の防備は?」

「そっちは何とも言えないな。月魔獣への防御を重視するあまり、全体的に死角が多い。ここで待ち受けるのはちょっと危険だ。中に入り込まれたら見失いかねない」

「たしかに、ちょっと見ただけでも死角が多くて目視で敵を見つけるのは難しそうだね」

 どこに視線をやっても、建物や壁がその邪魔をする。

 重要施設はふつう、その手の対策がとられてあって、なるべく死角をつくらないようにするものだが、そうもいかないらしい。

「竜は外敵には敏感だが、竜の感覚を信頼しすぎるわけにもいかないぞ」

「軍人さんが信頼できれば、巡回を強化してもらいたいね」
「要人警護の練習のつもりで警備するように伝えてある」

「そのほうがいいね。〈影〉の規模は?」

「戦闘のできる〈影〉は全部で十二名。ただし、ふたつ名持ちはおまえを抜かせばひとりだけ」

「敵の数は分かっているの?」
「それほど多くないと思っている。七、八名、多くても十五名は超えないだろう」

 こっちは十二名。数ではいい勝負だ。
 襲撃をかける側に回れば勝機はあるか。

「王都にいる〈右手〉はクセのあるのが多いらしくてな。あまり繊細なのがいない。おまえにいろいろ頼むことになりそうだ」

 闇に隠れた者を見つけ出す〈右手〉は少ないらしい。

「それは構わないけど、強さはどんな感じ?」
「敵にもよるが、それなりだ。魔道使い相手では、一対一だと厳しいかもしれないな」

 通常、〈影〉の暗殺対象となる人物は、戦闘訓練を積んでいない素人がほとんどである。
〈右手〉には、潜入して処理する技術が求められる。

 それだけではいざ戦闘になったときに大変なので、日頃から〈右手〉には戦闘訓練が課せられている。

 ただし、任務中で同業者どうしの戦いは、ほとんどおきない。

「こっちから話せる内容はこのくらいだな」

「分かった。ありがとう義兄さん。僕はすぐに偵察に出たほうがいいよね」

「一応、案としてここで迎撃体制を整えて迎え撃つというのもある。敵が動き出したのが分かった場合、すぐに切り替えるつもりだ」

「なおさら敵の正確な状況が必要だね」
「そうだ。頼む」
「了解」

 すでに宿泊施設に入った〈右手〉たちが周囲の巡回を終えているという。
 いま、敷地内は彼らに任せて、僕は侵入者の発見、観察に動くことした。

 敷地内で働く掃除婦や調理人が、今回動員された〈右手〉だと紹介された。
 町で臨時に雇われた。そういう名目でここに来たらしい。
 彼らが雇われた期間は、演習が終了するまで。

「それと〈右手〉だけでなく、〈右足〉を四人雇った。戦闘能力はお察しだが、斥候くらいまでなら手伝える」

「それは嬉しい。〈右足〉は義兄さんを入れて五人か。監視と連絡を中心にやってもらうとして、宿泊施設すべてを監視するのはちょっと厳しいかな。かといって、感知魔道に頼っても、向こうは本職なわけだし」

「ここで迎撃は不安が残る。なるべくなら、こちらから襲撃をかけたい」

「了解。じゃ、ちょっと行って、敵の全貌を明らかにしてくるよ」

 僕は闇に溶けた。

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