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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 竜の渓谷

 轟いたのは、竜の断末魔の声。
 複数の竜によって噛みつかれ、爪で抉られた竜は、最後の抵抗を試みるも、多数の前についに倒れた。

 これによって、竜の渓谷に侵入した竜操者たちは、すべて倒されたことになる。

「……全員、最期まで戦うのを辞めませんでしたか。それもやむなしでしょう」
 リトワーンはやるせないとばかりに、首を振る。

 竜の聖地があるここは、禁断の地。

 王族とて勝手に侵入することはできない。
 そこを武力で押し入ったのである。

 たとえ竜操者であろうとも、厳罰は必死。投降したところで死は免れない。
 だがそれも今は昔。すべてが片付いた。

 リトワーンはホッと息を吐き出し、周囲を見回した。
「兵が倒れるも、竜の聖地は守られました。ですが、その犠牲はあまりに多く尊い」

 リトワーンはともに戦った者たちへ声をかけてまわり、怪我をした者は手当をするよう、その場を離れさせた。

(しかしこの者たちの問題が残っていましたね)

 救援にかけつけてくれた竜操者たちには、リトワーンは深い感謝をしている。
 だが、存在が秘匿されていたであろう彼らに、リトワーンはどう声をかけていいか分からなかった。

(おそらくは女王陛下直属の部隊。これまで一度も日の目を見なかったであろう、竜操者たち。はてさて、私の感謝を受けてくれるのかどうなのか)

 目的を達したはずだが、彼らがここを離れる気配はない。
 竜の聖地を守るため、居残ってくれるのだと判断できる。

 ならば、正式に謝意を示すべきとリトワーンは考え、彼らのもとへ歩いた。

「私はウルスの町の領主リトワーン・ユーングラスだ。貴君らの助力、大変感謝する」
 そこでリトワーンは優雅に一礼した。

 竜国では名乗られたら名乗り返すのが礼儀。
 領主が名乗ったのを無視するのは大変非礼となろう。

 もちろんリトワーンとて事を荒立てたくはない。だが、こうでもしないと感謝の意を表すことができなかったのだ。

「任務中ゆえ、我らへの気遣いは無用。極秘行動の最中、この地の争いを発見し、助力するに至った次第。訳あって名乗ることはできませんが、ご容赦願いたい」

「分かりました。任務中であるならば仕方のないことでしょう。それで、この地の守護をともにお願いできますか?」

「王都より派遣されて安全が完全に確保されるまで、この地にて助力致すつもりです」
「それはありがたいことです」

 襲撃で多くの兵が失われたいま、ここを守ってくれる竜操者の存在は何よりもありがたかった。

 兵たちが死体を片付け始めている。
 あとで死体の検分が行われるが、敵方は全員死亡。

 生きている者がいないため、情報が取れないが、ここは生やさしい戦場ではなかった。
 こちらが殺さねば、殺されていた。

(それと、下手に捕まえても扱いに困ることにもなりかねませんし)

 竜操者が生きて掴まった場合、そのことが民に伝わる。
 竜操者が裏切っていたことは衝撃だろうし、裁判で何を口走るか分からない。

 やはり全員斬って正解だったとリトワーンは考えた。

 敵の竜操者は全部で十二人。
 結構な数である。

 学院の卒業生を呼んで首実検すべきだろう。
 彼らの素性を明らかにしなければならないなどとリトワーンが考えていたとき、警報がなった。

(魔道結界に誰かが引っかかりましたね。場所は竜の聖地ですか)

 感知式の魔道結界が発する音が響き渡った。
 リトワーンは少しだけ驚いていたのだ。結界の存在はリトワーンも知らなかった。

(おそらく〈影〉が秘かに設置していたのでしょう。さきに戦いでも〈影〉は出てこなかったですし、完全に別個の指令を受けているのでしょうね)

 リトワーンも見たことがないが、この地にも〈影〉がいるだろうとは、予想を立てていた。
 ただ、戦いになっても姿を現さないので、配置されていないのだと勝手に思い込んでいた。

「竜の聖地に何者かが侵入したようです」

 ここにいる者たちはみな信頼できる者たちばかり。
 リトワーンはみなを引き連れて、竜の聖地へ向かった。

 竜の聖地は、渓谷の奥にある。
 崖にくっつくようにして立っている黒色の壁。もしくは、巨大なトンネル。

 竜迎えの儀のさい、竜が出てくる場所である。

 触るとひんやりしているが、資格を持った者が見ると、もっと違ったように見えるという。
 さらにその者が触ると、手首くらいまでは突き抜けるという。

 竜が暴れても傷ひとつ付かないことから、不壊の門と思われているが、確かめたことはない。

 裏の崖を崩してしまったとき、それがまだそこに残っているのかも定かでない。
 つまり、なにもかも分からないのだ。

 リトワーンは竜の聖地へ初めて足を踏み入れた。
 竜操者以外は、中に入ることを禁じられていたので、いかな領主と言えどもだれも入った者はいない。

 王族でも、王子、王女は足を踏み入れていないはずだ。
 それだけ厳重に守られた場所に侵入者。

 それは一体だれかと思って向かえば、そこにいたのは……

「おまえはっ、ニコライド!?」

 商国五会頭のひとり、『鉄耕てっこう』のニコライド・ルブランがそこにいた。
 彼は自らがパトロンとなった飛竜に跨がってやってきたのである。

 上空からこっそりと侵入を考えたようだが、魔道結界の存在に気付かなかったらしい。

「ニコライド、貴様が黒幕か!」
 リトワーンが叫んだ。

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