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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 王宮

 シルルとクリスタンは、王宮の一番高い所――塔の先端へ来ていた。
 夜の王都を見下ろすも、新たな火の手は上がっていない。

 また、どこかで混乱が発生した様子もない。

「静かすぎますね」
「たしかにね。守る側としては楽でいいけど、この静寂は不気味だな」
 シルルの言葉にクリスタンも頷く。

「何かあれば灯りを持った人がうろつくはずだけど、見えないわね」
 王宮内の安全は確保された。

 だが敵がいる以上、クリスタンたちは女王を置いて外へ出られない。
 ならばせめて町の確認をと思って塔に登ったが、そこから見下ろす町の風景は、いつもとあまり変わりなかった。

「私たちが町にいたとき、敵はかなりの数がいたわよね」
「全部確認していないけど、そうだね」

「王宮にやってくるわけでもなく、どういうつもりなのかしら」
 そこはクリスタンも不思議だった。

 敵は周到に準備してきている。
 結構な数の〈右手〉が始末されている。

 それは何か大きなことを起こす前触れにクリスタンには思えた。
 だが王宮は静まりかえり、町中も異常が見られない。

 これはどういうことかと訝しむものの、その答えは持ち合わせていなかった。
「状況が変わった? もしくは不利を悟って諦めたとか」

「そんな優しい相手だったらいいのだけどね」
「そうよね……ならば、どういうことかしら」

 本気で悩む二人だが、実はこのとき、町中ではある変化が起きていた。



○竜国 王都 町中

「ぐっ……」
「……ん? お、おい、どうした?」

 口を押さえて蹲る一人に、もう一人が駆けよる。
 だが、その者もまた、先の一人と同じように口を押さえ始めた。

 そしてすぐに苦しみ出す。
 このような光景は、別の場所でもみられた。


「く、苦しい……呼吸が……」
「なあに、変な真似して。介抱してもらいたいの?」

 喘ぐ男に気付いた女が軽口をたたくが、男の方は口をパクパクとさせて、いかにも苦しそうだ。

 女が「ねえ、冗談はやめて」と肩を押すと、男はそのまま地面に倒れ込んだ。

「嘘でしょ? ねえ……どうしたの? なんで急……うっ」
 そこで女も異変に気付く。

 胸が苦しく、息を吸い込んでも呼吸ができないのだ。
「だ、だれか……」

 女が助けを求めて手を伸ばした先では、別の男が苦しそうに喘いでいた。


 一人、また一人と胸を押さえ、口から空気を求めるように大きく喘ぐ。
 中には、呻き声を聞いて、家の外に出て倒れた者もいた。

 とにかくそれは、老若男女とわず、だれにも等しくおこった。

 異変に気付いた町の人々が、王都にいる夜間巡回兵を呼ぶ。
 慌ただしく夜間巡回兵が駆け回り、その音に釣られて外を覗く者が出て行く。

 局所でおこった混乱は、次第に大きく広がり、犠牲者もまた同じように増えていった。

 ――王都に異変あり

 この怪異はすぐさま、王城へ届けられた。



○竜国 王都 王宮

 クリスタンとシルルが報告に戻ってからしばらく後、外から飛び込んできたのは「多くの人々が苦しみ、倒れ始めた」という情報だった。

 原因は分からない。
 毒となるようなものを吸い込んだ可能性がある。

 ただし、毒物はまだ見つかっていない。
 そんな内容だった。

「これはどういうことだと思います?」
 クリスタンの言葉にハルイはしばし考えてから言った。

「罠だな。王宮ここの守り手を薄くするために、外で混乱をおこしたんだよ。元から考えていたのか、次善の策なのか分からないが、前の失敗から学んだようだ」

 ハルイたち〈影〉だけでなく城の衛兵もまた、城内に閉じこもって女王を守っている。
 王宮内は閉鎖され、用事のある者だけが通過できるようになっていた。

 そこへ大兵力で攻めるのは難しい。そもそも衛兵や〈影〉が目を光らせている王都のどこに兵を隠しておくのかという問題もある。

 では少数精鋭ではどうか。
 それは前の失敗がある――魔国が十三階梯を投入したときですら、王宮は落とせなかった。

 力業で王宮を落とすのは至難の業。
 どんなに準備をしても賭けの要素が強い。

 ならば、守りを薄くすればいい。たとえば、町中で人が次々と倒れるような変事をおこすことによって……。

「お義父さんは、敵がおれたちを王宮の外へ出すために仕組んだというのですか?」

「そうだろう。まず外の〈影〉をできるだけ始末する。敵の一部が王城への出入りを監視して、残りが城の中を進む。城に入った連中はある程度掃除できればいいのだから、二級を派遣すればいい。どうせ捨て駒だ」

「それがおれたちが会った敵ですか」

「そうだな。これで王宮の中と外で等しく人死にが出たわけだ。すると警戒するだろ?」
「そうですね。どんな形だろうと、おれたちは王宮内に留まらざるを得なくなると思います」

「敵は中と外を遮断した上で、外で騒ぎを起こす。外に〈影〉がいなきゃ、ここから探りに行くしかない。それも少ない中から選んでな」

「だから一度、城の中に攻め入ったのですね」

「そうだ。出て行った奴らは監視している連中と戦闘になり、帰還できないだろう。待ち構えているわけだ。その間に次々と町民の被害が広がるから、次を出さざるを得ない。そうやって中の守備を剥がしていくつもりだろうな」

 これは、王宮を落とす大きな策のひとつであるとハルイは言った。

「どうすればいいんでしょう」
 シルルにとって町中は自分の庭のようなものだ。
 多くの知り合いがいる。

「方法はいくつもあるが、どれが最善なのかは分からないな」
 駆けつける場合、駆けつけない場合、様子だけ見に行く場合……どれも敵は対策済みであろう。

 つまりハルイたちはここへ来て、選択を迫られることになった。
 なまじ敵の策が読めるばかりに、どう動けばいいか、判断に困ることになってしまった。

 外の被害はいまだ増え続けていた。

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