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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 竜の渓谷

 リトワーンたちの前に現れたのは、敵方についた竜操者。
 リトワーンが連れてきた兵や、渓谷を守る正規兵が相対している。

 だが、彼らでは倒せない。
 そもそも竜を狩る装備など、ここに持ってきていない。

 そんな事態を想定していないのだからあたりまえだ。

「これは詰みましたかね」

 最後まで諦めたくないリトワーンであったが、状況は最悪。
 いまも次々と味方が殺されていく。

 槍を持っても竜に騎乗した竜操者には届かない。
 かといって、竜を狙ったところで、非力な人間では致命傷を与えることは不可能である。

「後ろは竜の聖門ですが、敵の狙いは聖門の奪取……ではないでしょうね」
 聖門をどうにかして破壊することだろう。

 さすれば、竜国は竜を得ることができなくなり、いまいる竜操者が寿命を迎えれば、この大陸に竜はいなくなる。

 今ではなく、将来的に竜国を滅ぼそうというつもりだろう。
 だからこそリトワーンはここで踏みとどまらねばならない。

「――ふん!」
 持参した弓から矢を放つ。

 動く竜の背に乗っている竜操者に当てるのは至難の業。
 それでもリトワーンが放った矢は、日頃の鍛錬を裏切らなかった。

 ――キィン

 だが、その矢は金属鎧によって弾かれてしまう。

 過去、竜と戦う者は、ことごとく竜操者を狙ってきた。
 それゆえに、飛び道具対策には長い歴史と経験がある。

 苦し紛れに放った矢では、分厚い鎧を抜くことは敵わなかった。
「やはり、万事休すですか」

 聖門の方へ向かって逃げれば助かる可能性もある。
 左右は切り立った崖で逃げ場が限られているとはいえ、真夜中の谷底は暗い。

 しかも、迷路のように入り組んでいる。
 隠れる箇所はたくさんある。だが、リトワーンはそれを選択しない。

「手持ちは剣と槍が一本ずつですか。これで一人でも多く道連れにしましょう」
 覚悟を決めたリトワーンが、竜に取り付こうとしたとき。

 ――ズゥン

 空から巨大な何かが降ってきた。

 それはリトワーンの近くにいた竜の上に降り立った。
 広げた翼をみたとき、リトワーンがすぐにその存在を理解した。

「飛竜……だがどうして?」
 援軍が来るはずがないと思っていた。

 竜の渓谷で起こったことは、王都に知らせが届いてないと思っていた。
 こんなに早く救援がくるとは、予想していなかった。

 走竜の上に降り立った竜によって、背に乗っていた竜操者は潰れたらしい。
 竜は、自分の主がいなくなって困ったように顔を左右に向けた。

 ――ドドドドド

 聞き慣れた足音が響き、新たな竜が顔を出した。
「まさか……いや、やっぱりそうだ。援軍か」
 それは朗報であった。

 絶体絶命のピンチ。
 覚悟を決めたリトワーンにとって、願ってもない援軍だった。

「……だが、あの軍服は?」

 竜国で使われている軍服には共通の特徴がある。
 その傾向が一切ないことをリトワーンは、訝しんだ。

 ――彼らはどこの集団なのか

 じっと見つめるリトワーンをよそに、竜の渓谷内では、竜操者同士の戦いが繰り広げられていた。



 時間は少し遡る。
 陰月の路のただ中に、月魔獣から旧王都を守っている集団がいる。

 名を忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)という。
 彼らは女王陛下の秘密部隊であり、通常表に出ることはない。

 忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)には、学者、弁者、政治家など、表の世界で女王陛下を支える者たちが参加している。

 同時に、領主、貴族、神官など、普段は女王陛下と距離をおくべき人物たちもまた、参加していたりする。

 彼らの思いは共通。
 すべてはサヴァーヌ女王のため。ただ、これに尽きる。

 竜国の暗部を一手に引き受ける〈影〉が一般の者たちからなる女王陛下の手足や耳目であるならば、忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)は地位も名誉もある人々たちからなる集団なのである。

 ではなぜ、竜操者が忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)の一員となっているのか。

 竜操者の子は竜操者になりやすい。
 これはれっきとした統計的にも正しい事例である。

 忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)の一員の子に竜紋が現れた場合、その情報は秘匿される。
 彼らは一般人として生き、竜の学院にも通うことはない。

 当然、パトロンを探すこともなく、竜迎えの儀にも参加しない。
 彼らは竜迎えの儀が終わり、世間の目が竜の渓谷から外れた頃に、ひっそりと竜を得る。

 そして員数外の竜操者として、有事には女王陛下のために戦うのである。

「噂には聞いていたが……実在したのか」
〈影〉の存在を知っているリトワーンですら確証がなかった。

 そもそも竜紋が現れることすら稀な状況で、竜操者の存在を隠し果せられる訳がないと思っていた。

 だが、こうしてリトワーンたちを助けに来たのを見れば分かる。
 竜国には、どこにも属していない女王陛下のためだけの竜操者が存在していたのだ。

 リトワーンは知らないが、普段の彼らの暮らしは町の人と変わらない。そして竜は旧王都で飼われている。

 竜紋は、肌と同化して区別がつかなくなる特殊なシールによって隠され、人前に出ても分からないようになっていた。

 今回、忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)が王都に向かう途中、竜の渓谷が騒がしいため、入り口で事情を聞いたところ、敵の竜操者の存在に気付いた。

 そこで忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)の竜操者部隊は、王都とこの竜の渓谷へ部隊を分けたのである。

 リトワーンが見守る中、竜操者どうしの戦いは、そろそろ決着が付きそうである。
 忠義の軍団(ロイヤル・レギオン)側の圧勝で。

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