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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第1章 魔国蠢動編

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 ふたつの月が頭上にあるとき、陰月の路付近に月魔獣が落下することがある。

 それは正しいのだが、今回のように突然現れることもある。
 月が頭上にないときも警戒すべきと思い知らされるには、十分な出来事だった。

 ゆえに移動中や休憩中に、いつまた月魔獣が出現するかもしれない。
 そう考えた学院生たちは、警戒を緩めなかった……いや、緩められなかった。

 月魔獣に出逢えば死ぬ。
 間近で見れば、その凶暴さと絶望的な力の差を肌で感じ取ることができる。

「まっ、なんとかなるだろ」そう考えて気を抜く者は、だれもいなかった。

「いつまでもそんな状態じゃ、疲れてしまうんだぞ」

 演習が始まって四日目。
 疲労を溜め込んだ学生たちを見かねて、引率する竜操者のひとり、ヒラング・アーチェルトはそう諭した。

 あまり口出しせずに学生たちだけで考えさせ、問題を解決させたかったが、このままでは体調を崩す者も出る。
 老婆心ながら、口を出さずにはいられなかったのだ。

「明日にはここを離れて、もう少し安全な場所へ行く。それまでに力を入れずに警戒する方法を考えておけ」

 ヒラングは竜操者となって十年。ベテランである。

 学院生たちを演習に連れてくるのは三回目だが、さすがに周囲を竜操者たちで固めていた中に月魔獣が現れたことはない。

 今年は本当に運が悪かったのだ。

 それでも出現があと数百メートル、学院生側にずれていたら、かなりの被害が出た。
 その意味では、不幸中の幸いだと思っている。

 寝込みを襲われた者たちにしてみれば、不幸以外のなにものでもないだろうが。

「来年からヒヨッコどもの野営地にも、竜操者を入れておくかな」
 いくら演習とはいえ、大人たちにおんぶに抱っこでは、卒業後が心配される。

 それ故に、いくらでも失敗していいからここは突き放すべき。
 そう思うものの、日に日に顔色が悪くなる学生たちを見れば、なんとかしたくなる。

「とくに一回生がひどいな。だが、初日に巻き込まれた彼はなんともないようだが」

 報告では、歩哨での巡回中に遭遇。
 すぐに笛で合図をし、同じく歩哨をしていた竜操者と一緒に撤退する途中にもう一体の月魔獣と遭遇。

 隙を衝いて野営地までとって返したと聞いている。
 一回生が受ける試練としては、かなり厳しかったのではとヒラングは思う。

「なんというか、平常心だな。あれは性格なのかね」

 一番心理的外傷があるだろうと注意して見ていれば、一番よく食べ、よく寝ている。
 いまも視線を周囲にときおり巡らすのをのぞけば、いい意味で緊張していない。

 ヒラング自身、あの歳でそれほど落ち着きをもって陰月の路を歩いた記憶はない。

「警戒し慣れているのか? だとすると、何度か陰月の路を通過したことがあるのかもしれない」

 脱力しているレオンを見て、ヒラングはそんなことを思った。

 一方、周囲から注目されているレオンはというと……。

               ○

 いま僕らは、周囲の哨戒中である。いや僕だけは、魔国からの襲撃者に目を光らせている。

「やはり、気配はないか」
 敵は僕たちの居場所をつかめていないのかもしれない。

 聞いたところ、野営地は毎年決められた場所ではないらしい。
 適当に決めるのだとか。

 演習の日にちと大体の場所はすぐに分かるが、野営の情報はない。
 これでは襲撃はできないか。

 それに陰月の路付近にいるときは、月魔獣の襲撃に備えて警備がかなり強化されている。

 野営地は周囲に遮蔽物がまったくなく、数キロメートル先まで見通せる場所が選ばれた。
 遠くから接近しようとすればやたらと目立つ。

 野営地への襲撃の線は薄いと考えていたが、思った通りその気配もなかった。

「明日からは、ちゃんとした屋根も壁もある場所で寝られるんだっけか」
「そうだよ。寝床が恋しいね」

 僕のひとりごとに反応したのは、毎日竜に乗せてくれているマーティ先輩だ。

「去年はどんな感じだったんですか?」

「もう少し木々が多い場所ばかり進んだかな。月魔獣との遭遇は、演習中で二回だけ。かなり少ない年だったみたいだね」

 演習中に二回だけか。
 初日を入れてもう二回も月魔獣が現れている今年が多いのか。

「とすると宿泊施設も別だったんですか?」
「明日向かう場所の地図はもらったけど、昨年とは違っているね」

 なるほど、宿泊施設は複数あって、普段は竜操者が使うために周囲を高い壁で覆っていると義兄さんは言っていた。
 そのうちのひとつが明日僕たちが泊まる場所だ。

 学院生の演習にも使うが、普段から人が常駐しているとも言っていた。

 よほどのことがない限り、その付近まで月魔獣は出てこないという。
 見かけるのは年に一、二回らしい。

「おっ、小休止みたいだね。一旦おりて休憩するかい?」
「そうですね。乗りっぱなしだと疲れますから、そうします」

 僕は竜からおりて、人のいないあたりで腰をおろした。
 魔国からの襲撃があるとすれば、宿泊施設の方かな。

「だとすると、義兄さんに会ったら、魔道使いたちの情報を仕入れておきたいな。なぜか、ここんとこ僕が他の竜操者たちから注目されているんだよな。どうしてだろう」

 初日の件だと思うが、行く先々で僕を追う視線を感じる。
 その方向にはたいてい、大人の竜操者がいる。

 別段話しかけてくるわけではないので、気づかない振りをしているが、それがあるため、周辺を探る行動がしづらくなっている。

「まっ、すべては明日だな」

 結局その日も何事もなく過ぎる。
 翌朝、予定していた宿泊地に向かった。

 移動中に一度だけふたつの月が重なり、数体の月魔獣の落下を確認したが、距離が離れているため、別の竜操者たちが向かったと聞いた。

 それ以外にはアクシデントもなく、僕たちは無事、宿泊施設へ到着することができた。

「やあ、待ってたよ」
 臨時に設置された購買に行ったら、義兄さんが出迎えてくれた。

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