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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○月戦隊 旧首都周辺

 支配種討伐のために集められた三百五十名の竜操者たち。
 彼らの参加理由は、様々である。

 それでもたったひとつだけは共通している。
 自分たちの命をなげうってでも、支配種を倒したいという思いである。

 数百年後におこる次の大転移は、もっと大陸の北にずれる。
 徐々に月魔獣の影響がなくなってくる。

 つまり今回こそが最大の戦い。
 そして大陸の存亡、最大の危機でもある。

 ここで立候補しなければ、なんのために竜操者になったのか。
 そんな思いを抱いて、イリスは月戦隊へ志願した。

「ここは俺たちが守る。お前らは中に入って月魔獣を排除しろ。ただし、支配種の方へは決して向かうなよ」

「はいっ!」
「分かりました」

 壮年の竜操者たちが、首都の第二外殻を固める。
 城壁内の掃討はイリスたち若者の仕事となった。

「拠点防衛に竜は向かない。自由に動けるこっちに回されて助かったな、イリス操者」

「ダンドリオ操者。あなたのような未熟な腕では拠点を守り切れないからこそ、彼らが買って出てくれたのよ。私たちは、役目を全うしましょう」

 十九歳のイリスと二十四歳のダンドリオは学院生時代に面識がない。
 ただ二人は同じ部署に配属され、これまでもよく一緒に行動することがあった。

 歳がある程度近いことと、同じ小型の走竜を駆ること。
 そしてふたりとも「欠け竜乗り」であることから、早くから互いに認識し合っていた。

 イリスとダンドリオは、実力で部下を率いる身分になった。
 二人とも異例の出世である。

 天才肌のダンドリオと、真面目で堅実なイリスは両極端なリーダーとして、ともに三体の部下を従える。

 平時は五体でひと組だが、大転移で竜が足らなかった。
 少数編成で乗り切るため、四体でひと組に変更させられていた。



「そっち行ったぞ」
「まだ一体残っているのよ。簡単に言わないでっ!」

「こっちも手一杯だ。なんとか凌いでくれ」
「だから簡単に言わないでって言っているでしょ!」

 ダンドリオの言葉にイリスが叫び返す。
 ふたりとも普段は仲が悪く、顔を合わせると文句ばかり言い合う。

 だがひとたび戦場にでると、互いが互いの動きをよく見て、しっかりとした連携を見せるのだから不思議である。

 ダンドリオが月魔獣をイリスに任せたのも、イリスの実力を知ってのこと。
 イリスもまた、ダンドリオに余裕がないことを見越して、文句をいいつつも受け入れた。

「この付近にはあと二体」
「すぐに狩ってしまいましょう。私は左」
「よしきた。右へ行く」

 ほどなくして周辺の月魔獣は、すべて殲滅することができた。

「……ふぅ、一旦休憩にしましょう」
「そうだな……竜はともかく、俺たちだと連戦はキツい」

 息を整えて、周辺に月魔獣がいないか探る。
 目を凝らしたが、動くものは見当たらなかった。

「いないわね」
「ここは右の外れ。中央付近にはゴロゴロいると思うぞ」
「そうよね……大丈夫かしら、レオン操者」

 イリスが竜の首を撫でながら呟く。

「そういえば、その尾はレオン操者を助けるときに負ったんだっけか」
 イリスとダンドリオの竜は、ともに尻尾がなかった。

 イリスの竜は、まるで鋭い刃物で切り取られたかのような形。
 ダンドリオの竜は、噛み千切られたような形をしている。

 中型竜より上は、部位が欠損しても生えてくることが多く、小型竜でも小さな「欠け」ならば元通りになる。

 イリスとダンドリオの竜の場合、尻尾の大部分が失われており、時間が経っても新しい尻尾が生えてくることはなかった。

 竜はバランスを取ることが難しくなり、イリスとダンドリオは通常とは違う騎乗技術を身につける必要があった。

「気絶していて覚えていないのよね」

 演習のとき、学院の一回生だったレオンが月魔獣を見つけ、周囲に知らせた。
 歩哨に立っていたイリスは笛の音を聞いてすぐに向かった。

 月魔獣の前にいたレオンをなんとか抱え上げ、その場を脱しようとしたとき、もう一体の月魔獣に襲われたのである。

 地面に投げ出されたイリスは強かに背中を打ち、気絶してしまった。
 気がついたときには竜の背だったというオチである。

 あのとき何があったか、イリスは何も覚えていない。
 おぼろげながら、自分を竜に乗せてくれたのが学院生のレオンであることだけは理解していた。

 よくある月魔獣の襲撃事件として、それはもう忘れ去られている。
 だがイリスはときどき、あの時のことを思い出す。

 竜の尾を切って、自分の愛竜を助け出してくれたのがレオンではないのかと。
 まさかとは思うものの、その考えを捨てきれないでいた。

「驚いただろ?」
「えっ!?」
 考えを見透かされたのかとイリスが驚く。

「自分が助けた相手が属性竜の竜操者になって、この大陸の命運を握っているんだから」
「そ、そうね……」

 どうだろうかとイリスは自問する。
 あのとき自分は二回生として竜迎えの儀に参加していた。

 たしかに驚いたが、レオンならばそれもあり得るのかもと、あとのきは思ってしまった。
 なにしろ、演習の後半。

 レオンが月魔獣に対して恐怖心を持ってしまったのではと注視していたが、そんな素振りはまったくなく、泰然としていた。

 ――あれは大物になる

 そんな風に思えたものだ。
 だから属性竜を得たときも「ああ、やっぱり」などと考えてしまった。

「おっ、新手が来たみたいだぜ」
「行きましょう。私たちはここ一帯を守るんですもの」

「そうだな……よしお前ら、休憩は終わりだ。敵を叩きに行くぞ」
「私たちも遅れずに行くわよ!」

 新たな戦いが始まった。

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