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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○橋頭堡 駆動歩兵隊

「アンネロッタ様!」

 それは誰の叫びだっただろうか。
 月魔獣が罠を突き崩し、駆動歩兵隊へ殺到した。

 隊全体の崩壊を防ぐため、隊長であるアンネロッタはその場に留まり、部隊の再起動を待った。

 貴重な時は稼げた。
 ほんの僅かな時間であったが、駆動歩兵隊は自らの使命を思い出し、やるべきことを見いだした。

 その代償は隊長の死。
 アンネロッタは大量の月魔獣の中に埋もれて見えなくなった。

「隊長!」
「アンネロッタァ様!」

 駆動歩兵隊は、押し寄せてくる月魔獣を留めるのに精一杯。
 壁を作り、ただ耐えている。

 押し返すどころか、アンネロッタが消えた場所へたどり着くことすらできない。

「うおおおおおっ!」
 闇雲に月魔獣へ攻撃を加える駆動歩兵もいるが、数を相手にして、それはただ無謀な行為。

 多くの駆動歩兵乗りが絶望に打ちひしがれたそのとき。

 ――ドーン

 月魔獣の一部が吹っ飛んだ。
 数体まとめて空を飛んだのだ。

「な、なに?」
 さらにまとめて月魔獣が薙ぎ払われる。

 驚きに目を見開く駆動歩兵隊が見たのは、とてつもなく巨大な尻尾だった。

「大型竜の尾?」
「ということは……」
「パイル・ボレックス操者?」

 大型竜の走竜を操るパイル操者だけは、月戦隊とともに出立しなかった。
 それは、あまりに巨体過ぎるゆえ。

 パイル操者は当年、四十二歳。
 竜操者の中では古参である。

 だが、これまで一度も集団行動をしたことがない。
 する必要もなかったし、すべきでもなかった。

 大型竜は特別にして特殊。

 そもそも属性竜よりも大きいのだ。
 他と絡ませることなど不可能である。

 今回、リトワーン卿の命を受けて、パイル操者が月戦隊に参加表明した。
 だがリドルフ副操竜長は、その扱いに困ることになる。

 集団行動ができないばかりか、支配種との戦いでは役に立たないからだ。
 あれほどの巨体。遠距離攻撃のよい的である。

 属性竜のような特殊な攻撃法法を持たない。通常攻撃でダメージを与えられるか分からない。
 おそらく無理だというのが、一般的な考えであった。

 だがその巨体による力は侮れないものがある。
 ぜひとも月魔獣戦に活躍して貰いたい。

 そこで考えたのが、この橋頭堡の守護。
 いわゆる最後の砦を守る存在としての参加であった。

 だが、あまりに巨大過ぎる身体は、ここを守る駆動歩兵隊とも相容れない。

 ゆえに最後の守護兵として、橋頭堡の中に留め置かれていたのである。

 それが姿を現した。

 薙ぎ払われた尾の一撃で十を越える月魔獣が破壊された。
 それでいて本人は遠くにいるのである。

 ほとんどの月魔獣が押しのけられ、その下から一体の駆動歩兵が現れた。
「隊長!」
「ご無事でっ!!」

「なんとか、無事ですわ。機体も……いえ、機体は少し壊れてしまいましたわね。でもまだ動けます」

 月魔獣がのしかかったことで、駆動歩兵の腕が一本もげ、腰のあたりがひしゃげていた。
 それでも整備が良かったのか、アンネロッタの機体は立ち上がることができた。

「さあ、みなさん。反撃ですわよ!」
「ウォオオオ!!」

 橋頭堡をめぐる戦いは、まだまだ続く。



○陰月の路

 大転移が始まってからと言うもの、ふたつの月が上空で出会うことが増えた。
 それに伴い、降下してくる月魔獣の数が数倍に膨れあがっていた。

「あー、またか。今日で何回目だろ。さあゴウヴァン、あいつらを倒しに行こう」

 陰月の路を往復し、竜の背で生活している竜操者がいる。
 オリヴィエ・ナハラである。

 彼女は夜空を見上げて、流星のように降ってくる鋼殻を見つけた。

 大型の地竜を駆るオリヴィエは、他の竜となれ合うことはしない。
 ずっと、ひとり……いや、地竜のゴウヴァンと一緒である。

 大型の走竜を駆るパイル操者がリトワーン卿の庇護を求めたのと対照的に、オリヴィエは孤独を好んだ。
 月に数回、操竜会がゴウヴァンの餌とオリヴィエの日用品を運んでくれる。

 オリヴィエはもうずっと、ゴウヴァンの背中から降りたこともない。

「今頃、月戦隊が戦っている頃だろうね」

 今年三十二歳になるオリヴィエは、壮年のパイル操者とも、青竜を駆る青年、ソウラン操者とも学んだ経験がない。

 レオンやアンネラは言わずもがな。
 それゆえ、彼らの実力についてはよく知らない。

「そういえば黒竜の……なんだったっけ? あれは面白かったな」
 クククとオリヴィエが思い出し笑いをした。

「獲物を盗られて、本気で怒っていたもんな。ああいうのは元気があっていい。月魔獣を狩るのが義務になっちまったわたしより、よっぽど向いているんじゃないか?」

「ぜひとも生き残ってもらいたいね。あの黒竜の……ええっと……シャラザードっていうのかい? そうか、そんな名前だったっけ」

 オリヴィエとゴウヴァンは、月魔獣の落下地点へ向かう。
 ゴウヴァンが歩くたびに地響きがおき、近くの木々が揺れる。

「でも相手は支配種だろ? 勝てるのかね……へえ、そうなのかい。……おっ、いたいた。いくよ、ゴウヴァン」

 そこに通常の月魔獣が六体、大型種が一体いた。
 ゴウヴァンは躊躇うことなく、月魔獣の集団に突っ込んでいった。

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