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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 王都

 シルルとクリスタンの二人は、王城から王宮へ入った。
 王宮の中でも、重要な施設への通路は限られている。

 そこを通ったとき、敵の待ち伏せに遭った。黥人げいにんと呼ばれる呪国人たちである。
 シルルは普段、女王陛下の〈右足〉として活動しているため、戦闘している姿は見せたことがない。

 ゆえに彼女の持つふたつ名『叢雲むらぐも』の由来を知る者は少ない。
 クリスタンは名前だけ知っていた程度である。

 実際目の前で見せられると、ああも強力なものかと背筋が寒くなった。

「敵の気配はありませんね。味方ともすれ違いませんけど」

 隣でクリスタンがそんなことを思っているとはつゆ知らず、シルルの口調は落ちついている。
 二人はは警戒を解かずに、王宮の中をゆっくりと進んでいる。

「ここで戦闘が行われていない?」
 血の臭いもしないし、死体もない。
 すると他の敵はどこへ消えたのか。

 複雑な通路を抜け、二人は王宮の最奥部についた。あっけないほどである。
 二人を出迎えたのは〈左手〉たち。もちろん、互いに顔見知りである。

「途中で襲われたのだけど、ここは無事かしら?」
 シルルが尋ねると、〈左手〉は「一度襲撃があった」とだけ言った。

「おう、来たな」
 竜国が誇る暗殺者『死神』こと、ハルイが無造作に立っていた。

「途中で一度襲われました」
「後から来た奴だな。最初に来た連中は全員処理してある」

 どうやらすでに撃退し終えていたようだ。
「お義父さん、王宮は囮と言っていましたよね」

「ああ。本気ならば、もっとしっかりと攻めてくる。外の情報を中に入れない――封鎖が目的だろう」

 王城の外を張っている敵は、城に背を向けて警戒している。
 つまり、竜国の最強戦力を王宮に集めて、外からの情報を遮断させようとしているのだと。

「そうすると、ここにいないで外へ出た方が良いように聞こえますけど」
「出たら攻撃目標がここに変更になるだけだ。外へ出した連中は戻ってきていない。そうだな?」

 自分たちはここから動けない。そうハルイは言っている。

「……はい、だれ一人」
 ハルイの問いかけに、ヒフが答える。

「そういうことだ。外は外で何とかするしかない」
 それは投げやりな言葉では無く、守るべきものを分担するということ。

 同時に、ハルイが守る優先順位をつけたことを意味する。

「おれたちをここから出さないと言ったら……やはり、攻撃対象はあそこですか?」
「竜の渓谷だろう」

 竜国の最大戦力を王宮内に留めてまで狙う場所。
 それは竜国の象徴たる、竜の渓谷しかないとハルイは言った。



○竜国 竜の渓谷

 渓谷の中に侵入した多数の暗殺者たち。
 それを迎え撃ったのが、リトワーンが率いる部隊である。

 勝負の行方は互角。やや暗殺者側が押してきたと思われた直後、竜国正規兵の出番となった。

 戦いの趨勢はそれで一気に竜国側へ傾いた。
 ここに来るまでに人数を割いていた暗殺者側が押され始める。

 このまま逃げ場も無く、暗殺者側が全滅するかと思われたその時、再び戦況が動いたのである。

 ――ドドドドドッ

 竜国の者ならば馴染みのある音。
 その重厚な音は馬では出すことができない。

 竜が地を走る音であった。

「王都から使者でも来たのか?」

 最初、その音を耳にした者はそう考えた。
 だがそれにしては、音が大きい。複数の竜が立てる音である。

「援軍? ここの戦いは王都が知ることとなった?」

 そう考えたが、すぐに否定した。
 もし援軍がくるとしても、早すぎる。

 では一体なにが?

「おーい、止まれ! ここから先は、竜の乗り入れは禁止だぞ」
 暗殺者を囲っていた正規兵のひとりがそう叫んで手を振った。

 ――ズシャッ

 投げた槍が、正規兵の胸を貫く。

「ぐはっ」
 両手で槍を抱くようにして、その兵は絶命した。

 ――敵っ!

 リトワーン以下、暗殺者を迎え撃った者たちが戦慄した。
 竜操者が敵になったのだ。

 驚きとともに、防御態勢を取る。
 だが、それをあざ笑うかのように、高所から槍が降り注ぐ。

 次々と倒れる正規兵。

 一方、リトワーンの考えは千々に乱れた。
 領主の反乱? 王族のクーデター? どれが正解かと。

 多くの考えが渦を巻く。
 リトワーンが思い切った命令を下せないでいる間に、敵となった竜操者が、次々と正規兵を倒していく。

 頼もしい味方であるはずの竜操者が敵にまわると、こうも恐ろしいのか。
 正規兵たちは、今まで他国が抱いてきた、竜に対する根源的な恐怖を体験することとなった。

「壁に寄れ! 防御を固めろ!」

 そう指示を出したリトワーンだが、手持ちの武器では竜を倒すことができないことを知っている。

 人が竜に単独で立ち向かっても、無理なのである。
 だからこそリトワーンは不思議だった。この竜操者たちはどこの者なのか。

 一体、いつから敵に回っていたのか。



 技国のとある小さな港から出航した大型船は、そのまま沖合を進みながら竜国に入った。

 その大型船は、竜国の港を使わなかった。
 夜間にひっそりと浜辺に向かって進み、これ以上近づけなくなったところから、竜操者たちが竜ごと海に飛び込んだのである。

 しばらく竜が海を泳いで砂浜に上陸すると、彼らは夜陰に紛れつつ、どこかへ消えていった。

 人に見つからないように移動は夜間のみに限定された。
 それでも竜の移動速度を考えれば、苦にもならない。

 わずかな日数で、彼らは竜の聖地である竜の渓谷にたどり着くことができた。

 竜の聖地を守るリトワーンたちに襲いかかったのは、そんな彼らであった。

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