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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 時間は遡る。

 商国は北をアラル山脈、南を技国に囲まれている。
 海に面した土地を所有してないため、専用の港を持つことができない。

 だからといって、海路の交易を諦めたわけではない。
 港がなければ、使わせてもらえばいいのである。

 港を所有し、維持費をかけるくらいならば、使用料を払って必要なときだけ使えばよい。
 そんな感じで、技国や竜国の港から多くの物資を運んで利益を得ている。

 商国は多くの大型船を所有している。
 そのことを知る者は多いが、この時期、それを気に留めている者はいなかった。

 ゆえに……。

「ありゃ、何するつもりだか」
「さあ……おらたちには、分からねえよ」

 技国の南部にある小さな漁村群。
 もちろんほとんどの漁村は、小さく貧しい。
 大型船が係留できるほどの深さもなければ、設備もない。

 あるのは漁師たちが自前で持つ漁船のみである。
 そんな漁村は技国南部にいくつもあった。

 その中のひとつに、たまたま大型船が寄港できそうなスペースを持つものがあった。
 とある商人は大金を渡して、しばらくの間、漁村を借り上げた。

 漁師たちは漁に出る何倍もの金をもらい、三日間ほど漁村を離れればよい。
 みなはその提案に飛びついた。

「金払いがいいから、詮索するなってことだろうな」
「ああ……だったらおらたちは何も見なかった。それでいこうや」

 漁村に住む民たちは、報酬とは別に、港を使用しない三日間分の滞在費をもらって、町で遊んだ。

 漁村にだれもいなくなると、それまで姿を見せていなかった者たちが動き出す。

 沖合に停泊していた大型船が次々とやってきて、順番待ちをしている。
 森の中に隠れていた者たちもまた、姿を現した。

 すでに大型船には、必要な物資が積み込まれており、あとは『それ』が乗り込むだけである。

 そして一日半後、すべてを船に収容し終えると、船は漁村を去って行った。
 残った者が周辺の掃除を念入りにし、漁民たちが戻ってくるのを待った。

 魚村民に金を握らせ、何もなかったと念押しすると、彼らはいずこかへ去っていった。

 漁村の者たちは、何事もなく漁を再開した。
 ゆえにここで何が行われたか知る者はいないし、調べようとした者もいなかった。

 すべては、誰の目にも触れないところで行われたのである。



 そして今。
 王都の北にある竜の渓谷付近に、かつてないほど多くの者たちが集まっていた。

 商人と思しき者、肉体労働者風の男、町民にしか見えない男など、その外見はさまざま。
 唯一共通しているのは、人を呪い殺せそうなほど鋭い瞳を持っていることだろうか。

「時は満ちた。いま竜国は多くの戦力を陰月の路に派遣している」
 大転移による月魔獣の被害がひどく、竜国は竜操者だけでなく一般の兵すらも防衛に回さざるを得なくなっていた。

「月魔獣の支配種と戦うため、この国の精鋭はイヴリールの町へ向かったままだ」
 ちょうどいま、支配種との戦闘がはじまるところである。

「ここから一番近い王都はいま、騒乱の真っ最中だ」
 火事の炎が燃え広がり、王城、王宮周辺もまた、侵入者で溢れていた。

「この期を逃すことはできない。我々で竜国の歴史を終わらせるのだ」
 そう宣言したのは、どこからどう見ても村人にしか見えない男である。

 その男は特徴のない顔に使い古された服を着ている。
 栄養の足らなそうな身体は、手足が細くて長い。
 集まった者たちの前で演説するようには決してみえない。

 だが、彼の双眸だけは、爛々と……もしくはギラギラと輝いていた。

「これより不退転の決意でもって事に望む。同胞以外は敵だ。心してかかれ!」

 村人風の男の言葉に、全員が無言で頷く。
 大きな声は発しない。それはだれもがよく分かっていた。

 集団は、総勢二百名。
 どこから現れたのかと思うほどの大人数である。

 彼らの身のこなしをみれば、誰もが一流であることに気付く。

 彼らは暗殺者なのだ。
 その中でも、精鋭と呼ばれる選ばれた者たち。

 そんな彼らが散開し、適度な距離を取って竜の渓谷へ進む。



 竜の渓谷は、複数の集団によって守られている。
 一番外側を警備するのが、常備兵である。

 近くに兵舎があり、常時百名を越える者たちが監視と巡回を受け持っている。
 それらをかいくぐって渓谷に近づくと、竜導教会の神官と教会に所属する神官兵が守っている。

 彼らは決められた場所で祈りを捧げるため、常時渓谷の中を歩いている。
 そもそも渓谷の中は複雑に入り組んでいて、知らない人が中に入ると、多くの脇道に道を失ってしまう。

 竜迎えの儀のときは、しっかりとした道標があり、間違えやすそうな場所には神官が立っているが、普段そんなことはない。

 神官たちは、崖の形やでっぱりなどを記憶して、ここがどこなのかを把握しているのである。

 迷路と神官たちを抜けても、最後の難関がある。
 竜国の正規兵が最後の砦を守っているのである。

 その後ろは、竜迎えの儀で使用する場所であり、彼らの任務は何人たりともここを通さないこと。
 それは相手が王族であろうとも「ノー」と言える。

 この三つの守りがあるため、竜の渓谷は安全な場所として認識されている。
 だが普通の人が知らないことがもうひとつ。

 ここにも女王陛下の〈右手〉がおり、秘かに渓谷を守っている。

 二百名の侵入者は、この四重の守りに挑戦しようとしていた。

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