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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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 僕らが橋頭堡から飛び立って、しばらくの間は平和だった。
 敵がやってくることもなく、順調に進んでいた。

 最初に接敵したのは左翼だった。
 月魔獣の群れが襲ってきたのだ。

 個々に役割がある。そう言われていたから、注意を払うだけに留めた。
 彼らの仕事は月魔獣を倒すか足止めをすること。

 その間に、僕らは前へ進まねばならない。
 少しして、無事倒し終えたのが分かった。いい傾向だ。

 支配地域に入ったあとは、遠距離攻撃を警戒しなければならない。
 すぐに僕ら属性竜と、一部の飛行種は低空飛行に入った。

 一番支配種に気付かれにくい位置を進むよう、事前に言われていたからそれは問題ない。
 ただし、中央を進む僕らが三つの勢力に分かれたことで、それぞれがかなり少なくなった。

 シャラザードが月魔獣の大軍に気付いたが、僕らではどうしようもない。
 これまで通り、速度を落とすことなく、進まねばならない。

 地上に現れた多くの月魔獣は、到底倒し切れるものではなかった。

 そして地上部隊を足止めするかのように集まりつつあった。
 このままでは、地上部隊すべてが、月魔獣の群れに巻き込まれてしまう。

 どうすればいい? 属性技を放てば簡単に一掃できるが、そうすると今度は地上部隊の面々も巻き込まれる。

 属性技は、どれをとってもそんなに「甘いもの」ではないのだ。

 僕が悩んでいるうちに、一部の犠牲だけで残りが脱出に成功した。
 あそこにいた月魔獣が反転して襲いかかってくる頃にはもう、勝敗は決しているだろう。

「右翼、一部が離脱しました」
 更に飛行していると、そんな報告が聞こえた。

 低空飛行しているため、右手側の動きが見えなかった。
 敵が近づいていたのだろう。

 離脱したのは小型竜が十体ほど。
 それほど大きな規模ではないようだ。

「シャラザード、何が起こった?」
 それでも一応、シャラザードに聞いてみる。

『大型種だな。五体向かってきておるわ』
「大変じゃないかっ!」

 大転移の最中とはいえ、大型種はなかなかお目にかかれない。
 通常の月魔獣が百体現れれば、そのうち大型種は一体いるかどうかくらい。

 それが五体もまとまってやってくるという。
 月魔獣の大型種は、シャラザードの大きさに迫るほどだ。

 大型種一体を倒すのに、十分訓練された中型竜が五体必要になる。
 それほどの相手である。

 シャラザードの話が本当ならば、右翼の半分以上を投入すべきである。
 だが、向かったのは小型竜が十体ほど。

 明らかに足りていない。

「隊長、右翼ですけど、どういうことです?」
 リドルフ副操竜長に聞いた。

「あれは大型種とはいえ、足の遅いタイプばかりだ。よって倒す必要は無い」
「……!? じゃあ、向かったのは」

「足止めだ。本隊から離せば、追いかけられることもない」

 つまり彼らは本隊から離れるよう移動し、大型種を引き離そうというのだ。
 頑張れば逃げ切れるだろう。

 だがそれは、彼らが逃げる先にただの一度も月魔獣が現れなければだ。

「…………」
 小型竜十体では、大型種の一体すら倒せない。
 それが五体も相手するならば、どういう運命になるか。

 そしてここは支配地域の中。
 逃げ回る彼らの運命は、どれだけ時間を稼げるか。到底逃げ切れるものではない。

「ここから先はそういうケースはいくらでもある」
 僕の気持ちを察したのか、副操竜長はそんなことを言った。

「僕らにできるのは、支配種を倒すことだけ……でしたね」
「そうだ。文句はあっても、いまは飲み込め」

「……分かりました」
 彼らがいるからこそ、僕らは順調に進めている。

 上空では、また一体、飛竜が遠距離攻撃で落とされた。

 散開しているにもかかわらず、支配種は正確に狙ってくる。

「シャラザード、もうまもなく首都が見える。そのときは頼んだぞ」
『もちろんだとも!』

 僕らは犠牲をものともせず、進まねばならなかった。
 彼らの分も前に。



○竜国 王宮 クリスタン

 面倒な通路を抜けて、ようやくおれとシルルは目的の場所についた。

 ――王宮への専用門

 正規のルートで王宮の奥に赴くには、必ず通らねばならない場所。
 門と言っても、正確には部屋。
 中に入る資格がない人は、脇の部屋で待っていなければならず、資格のある者は、ここで様々な検査をうける場所。

 普段は大勢の人が控えているが、今は黒衣の人物がただ一人だけ。

 立っているのは、『死神』の名を冠する凄腕の暗殺者。

「お待たせしました、お義父さん」
「外の様子はどうだ?」

「いまだ城の外を包囲したままです。しかし驚きました。外はそのままで、すでに侵入されていたんですね」
 多くの敵が王城の外に隠れていたことから、まだ突入は先だと思っていた。

「来たのはいいとこ二流の連中だ。女王陛下のもとから逆を辿ってきたが、ロクなのがいなかった」

 ということは、この門から先は安全ということになる。

「あの……二流というのはどのくらいの強さなのでしょう」
 シルルが、おずおずとだが、はっきりと口に出した。

 黒衣を纏ったときのお義父さんは、近づき難い雰囲気がある。
 よく質問なんかできるものだ。

「ここの〈左手〉より少しだけマシってところだ」
「…………」

 シルルが絶句している。
 王宮を守る〈左手〉は最強と信じているクチだろうか。

 たしかに王宮の〈左手〉は、過去何度も暗殺者を捕らえ、また倒してきた実績がある。
 だが実戦の中で腕を磨いて、いまなお生き残っている古参の〈右手〉からすれば、城から出ない〈左手〉など、エリート思考をもった甘ちゃんに過ぎない。

 お義父さんの感覚からすれば、〈左手〉より少しマシというのは、本気で戦うに値しない二流もいいとこなのだ。

「このあとはどうしますか?」
「外を倒しますか?」

 おれとシルルは外から来たから分かるが、敵はまだまだ多い。
 誰かが倒さないと、いつまで経っても脅威がなくならない。

「こんな二流を使ってくるなど、やはりここは囮だったな。と言うことで、本命はどこだと思う?」

 おれたちの言葉には直接答えず、お義父さんはそんな質問を投げかけてきた。
 ちょっと返答に困る問いかけだ。

 女王陛下の命を囮にしてまで狙う場所? そんな場所があるのだろうか。

「ここが本当に囮なのですか? とてもそうは思えないのですけど」

 シルルは随分と怖い物知らずだと思ったが、ここで『死神』の予想に異を唱えた。
 さすがと言っていいのだろうか。それとも、いい加減にしろと起こるべきか。

「外と中の二重攻撃だが、戦力の中身はお粗末なもの。本命の精鋭はどこかにいる。さてそれはどこだ?」

 そう言われても、俺には予想がつかない。
 王子、王女のところではないだろう。

 二人とも女王陛下の後釜として重要な存在ではあるが、大規模な作戦行動を起こしてまで狙う価値はない。

 とすると、王都の重要人物になるのだが、女王陛下よりも大切な人はいない。

「分かりません。どこですか?」

「竜の聖地だな。敵はあそこで何かしたいらしい」

 それはおれも一瞬考えたが、あそこは何もない。
 ただ時期が来たときに竜が現れる場所のはずだ。

「竜国の象徴だからでしょうか」
 シルルも王宮を囮にしてまで狙う意味が分からないようだ。

「もっと実利てきなものだ。といっても、俺たちは関係ないんだけどな」
「……?」

 シルルは首を傾げた。

クライマックスが近づいてきた所でもう1カ所、場面が増えます。
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