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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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○竜国 王城 シルル

 私が〈右足〉としてふたつ名をいただいたのは、二十歳ハタチになる直前のこと。

 王都の外れにある廃工場に、不審な者が出入りしているらしいと連絡が入った。
 私は調査することになった。

 見張りに立ったのは私ともう一人、壮年の〈右足〉だった。
 二人で廃工場を見張ること、十日あまり。

 ようやく動きが出たため、かねてより予定していた〈右手〉を向かわせた。
 しかし、向かった〈右手〉は、なかなか戻ってこない。

 不審に思った同僚が動き出したところ、いきなり飛んできた矢に額を打ち抜かれた。

「どうして!?」
 驚いた私が思わず声をあげ、そのせいで位置がバレてしまった。

 ここは王都の外れ。
 逃げても追いつかれるかもしれない。

 そもそも、暗闇の中で正確に矢を射ってくる相手に背を向ける気にはなれなかった。
 かといって、私自身、剣は使えない。

「囲まれたみたいね」
 気配を殺しても、殺気が漏れ出ているのがわかる。

 その日私は、覚悟を決めた。



「……ということがあったのよね。懐かしいわ」
 強さを顕示する者は、自らを表すふたつ名を得たがる。

 だけど私は、非戦闘系の〈右足〉。
 そんな名は自らの首を絞めるものでしかない。

「でも、だからって『花風はなかぜ』はないと思わない?」

 私は三人の黥人げいにんたちに向かって歩いて行く。

 そう、最初についた名は『花風』。
 咲き誇る花に吹く一陣の風。

 それは花を観賞する者の邪魔をし、花を咲かせ子孫を残そうとするのを邪魔をする。

 花屋の私にその名は、さすがに受け入れがたかった。

「だから受け入れることにしたのよ。『叢雲むらぐも』の名を」

 叢雲――それは月を隠す雲の名。月を愛でようとする者にとっては、邪魔でしかないもの。

「ごめんなさいね。私の周りにいると、そうなるの」
 三人の黥人は、よろよろとし、闇雲に剣を振っている。

 私はそれを避け、一人、また一人と手に掛けていく。
 戦闘が苦手な私でも、ただ首筋に剣を突き立てるだけならできる。

 三人の黥人が倒れたところで、拍手が聞こえた。

「今のが『叢雲』か。初めてみたが……何がなんだか分からないな」
 クリスタンが感心した声をあげた。

「知りたいのかしら。だったら、私の近くに来たらどう?」
「いや、遠慮しておこう。おれは目と耳がいいのが自慢なのでね」

「そう。残念だわ。それともう少し待ってね。私、自分でも制御できないの」
「……ああ、頼むよ」

 クリスタンの声が少しだけ固かった。

 竜国の影の中で、若いうちから才能があると分かると、女王陛下から魔道使いになれる薬が賜れる。

 ほんの僅かな確率でそれは発露し、たまたま私はそれに当たった。

 そして得た魔道は、人の感覚を狂わせるもの。
 クリスタンは目と耳だと言ったけど、周りの人もそう思っているけど、実際は違う。

 ――その人の感覚すべてを狂わせる。

 目で見ようとすれば邪魔をし、耳で聞こうとすれば邪魔をする。
 歩こうとすればそれだって邪魔をする。

 範囲は私の周り、わずか三メートルだけ。
 私はどうやら、人の邪魔をしたいと思っているらしい。

 あまり、性格がよくないのかしら。
 そう思うことはあるが、それは決して口に出さない。



○月戦隊 中央部隊 旋風隊せんぷうたい

 中央を征く百五十騎は、地上と低空と空の三つに分かれた。

 支配種の遠距離攻撃に狙われやすいのが、飛竜からなる飛行部隊だ。

 そして最も多くの月魔獣を相手するのが、走竜と地竜の混合からなる地上部隊である。

「前方、包囲が閉じるぞ」

 左右から集まりだした月魔獣が地上部隊の進路を塞ぐように移動しはじめた。
 これまでどおり、個々に向かってくることがない。

 まるで戦術を理解しているような動きに、地上を進む面々は顔をしかめた。

 あそこが閉じられれば、地上部隊の勢いは止まってしまう。
 そうすれば、その先にいる月魔獣は野放しになる。

 それらが反転し、支配種のもとに集まれば、討伐は非常にやりにくくなる。

 ここは一旦速度を落とし、後方からくる地竜部隊に突撃をかけてもらうか。
 そう思っていると、併走している走竜隊の中から飛び出した者たちがいた。

「おいっ! 編隊を乱すな!」
 その叫びはもう届かない。

「なんて速さだ」

 同じ走竜といえども、能力に差があるのは知っていた。
 だが一緒に走っていて、まるで違う生き物のように引き離されるとは。

 そう思っていると、別の竜操者が近づいてきた。

「あれは旋風隊だ。道が閉じる前に突っ込むつもりだぞ」
「旋風隊……聞いたことがある」

 足の速い者だけが集まって、そう名乗っていると聞いている。
 実際に、最大速度で走っているのを見たのは初めてである。

「あれほど速かったのか」
 あれなら間に合うかもしれない。

 かなり先をゆく走竜の群れをみて、そう呟いた。



「テーラン、お前はここまでだ」
「隊長、どうしてです。ボクはまだまだ行けます」

「馬鹿野郎。ここから先は大人の時間だ。お前にはまだ早い」
「そうだぜ。ここで死んでいいのは、昨日まで十分生きた俺たちだけだ。お前じゃない」

「そんな! ボクだって旋風隊の一員じゃないですか」
「あと十年したら入れてやる。だが、今日じゃない」

「それにな、テーラン。お前じゃまだ愛竜の底力を引き出せない。……さあ、最期の花道だぜ。死ぬ気で走れ!」

 竜操者が檄を飛ばすと、何体かの走竜は、更に、更に加速した。
 それは、竜の限界を超えた……そう思える速さだった。

 旋風隊。
 それは人と竜が織りなす、一陣の風。
 彼らはその名にふさわしく、風になった。

 到底避けられない速度と質量を持って、走竜の群れは出口を塞ごうとする月魔獣に体当たりした。

「包囲は破られたぞ。塞がれる前に突っ込め!!」

 再び閉じようとする包囲をこじ開けるようにして、地上部隊は進む。
「全騎、減速するな。このまま進むんだ!」
「「「ハイッ!」」」

 包囲が完成する直前に現れた風によって、地上部隊は最小限の犠牲で抜けることができた。

 包囲を抜けるとき、地上部隊の誰もが無言で敬礼を送った。

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