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竜操者は静かに暮らしたい 作者:もぎ すず

第8章 大転移-月戦編

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「左、敵と接触しました」
 左翼に向かった百騎の竜操者たちは、襲い来る月魔獣を受け止めていた。

 竜操者が数で圧倒しているため、かなり優勢に戦いを進められている。
 だがここはまだ支配地域の外。本当に危険なのは、この先である。

 そう。まもなく僕らは、危険な領域へと足を踏み入れることになる。

「右、地上部隊が遅れています」
「右翼は、障害物が多いからな」

 魔国の旧首都に近いとはいえ、整備された場所ばかりではない。
 とくに月魔獣が自由に徘徊していることで、通常よりも土地は荒れ果てている。

「左、月魔獣の撃破に成功。そのまま前進しています」
 チラッとみた限りだと二十頭近かったが、難なく退けたようだ。

 さすがに選ばれた人たちだと僕が思っていると、僕らがいる中央部隊の先頭が火のついたランタンを投げ捨てた。

 ランタンはその場で火を灯し続ける。

「シャラザード、ここからはもう支配地域だ」
 あれは危険な境界線を示す道標。

 予想される攻撃はそろそろ始まる。

『月魔獣が見えてきたぞ』
 目の良いシャラザードは、遠くにいる月魔獣を捉えた。

「うん。だけど僕らはそれには構わない。分かっているよな」
『分かっておる。だがしかし……もったいない』

 生死を賭けた決戦だというのに、「もったいない」とつぶやけるシャラザードの神経が凄い。

 というか、いつも思うけど、シャラザードは月魔獣を倒す以外は、本当にどうでもいいと考えているのではなかろうか。

「それはそれで頼もしいんだけど……何か違う」
『なんだ、主よ。何か言ったか?』

「いや、そろそろ編隊行動に移るからな。位置取りは分かっているな」
『うむ。だいたい分かっておる』

「だいたいじゃなくて、ちゃんと把握してくれよ!」
『分かっておるわ。低空飛行をするのじゃろう。大丈夫じゃ』

 リドルフ副操竜長が立てた作戦は、属性竜を支配種の遠距離攻撃に晒さないようにすること。

 中央の地上部隊がまず先行する。
 月魔獣の多くが空を飛べないので、戦闘は地上戦が多くなる。

 僕ら属性竜は、地上にいる月魔獣から届かない距離を、低空で進むことになる。

 過去、支配種に撃ち落とされた飛竜の多くが、高度から偵察を試みた結果だった。
 反対に地上から走竜が進んだ場合、それなりの距離に近づくまで、遠距離攻撃がやってこないことも分かった。

 単純に狙いが定めづらいのだろう。
 地上はとにかく起伏に富んでいて、直接視認できないことも理由のひとつなのかもしれない。

「雲に隠れても無駄なんだよなぁ」

 曇り、もしくは雨の日に、雲の上から潜入を試みたことがあるが、これは意味がなかった。
 支配種は目ではない別の何かで、竜を補足しているらしい。



 指示が出たので、僕らは地上スレスレを飛行する。
 通常の飛竜は、高度を保ったままだ。

 もし飛行型の月魔獣が現れれば、背中を無防備に出している僕らに襲いかかるのは容易。

 それを守るためにも、飛竜は通常の高度を維持しなければならない。
 それともう一つ。

 支配種の遠距離攻撃を僕らの代わりに浴びるため。

 彼らがいくら倒れても僕らに影響がなければ、この作戦は成功。
 飛竜を駆る者たちもそれが分かっている。

 だから僕らは、申し訳ないという思いを捨てて、前だけを見る。
 支配種を倒す、ただそれだけのために力を温存し、すべてをぶつけるために。

「遠距離攻撃来ました。かなり遠方からのようです」

 進行方向から太い光の帯が出現し、僕らの頭上を通過していった。
 直後、光に身体を貫かれた飛竜の一体が、頭を下にしながら落下していった。

「遠距離攻撃は、一旦撃ち尽くせばしばらくはやってこない。今のうちにいくぞ」
 副操竜長の言葉に、周囲から「オオォ!」と声があがる。

 遠距離攻撃は連続で撃てるようだが、その後、ある程度の時間が経たないと、再び撃つことができない。

 遠距離攻撃は、何らかのエネルギーを撃ち出していると言われているので、それが再び溜まるまでは撃てないのだろうという結論になった。

「今のうちだ。進め!」

 犠牲に構っていられない。
 それはまだ、自分の順番が来ていないだけのことだから。

 僕らは地上と低空、そして上空の三つに分かれて、前に進んだ。



○竜国 王城 クリスタン

 地下水路を通って、王城の中庭に出た。
 クリスタンが案内したとはいえ、シルルは初見で魔道結界を回避してのけた。

「ねえ、この中庭、静かすぎるわ」
「そうだな。庭にはもうだれもいないみたいだ」

 ここにいた〈左手〉は城の中に入ったのか、外へ向かったのか。

「考えられる理由はなんだと思う?」

「敵が外を包囲しているのはおれも見たから知っている。遠目からだけどな。だから、外の連中は動いていない。そして城の中を守る〈左手〉は、外へはほとんど関心を示さない」

「城門の外は、自分たちの守る範囲外って思っているものね。それで?」

「外へ向かわざるを得ない事情ができたか、外の包囲はそのままで、侵入者がやってきたのか」

「だとすると、相当な手練れよね」
「もしくは危なっかしくて、他を巻き込みかねないから、外と連携できないとかな」

「急ぎましょう。中が心配だわ」
「そうだな、急ごう」

 中庭には、人の気配は皆無だった。
 クリスタンはあえて自分の感じた『違い』を告げなかった。

 中庭に人がいないのか、生きている人がいないのかの違いを。



 竜国の城内は、通路の繋がりがいろいろおかしい。
 初めて入った者は、必ず迷う。

 通常、中をよく知る者が案内に立つため、城の全貌を理解することは難しい。

 シルルは当然ながら、中をよく知る部類に入っている。

 シルルが先頭になって、人があまり通らない、普段使われない通路を通っていたときのこと。

「止まって!」
「どうした?」

「誰かいるの……あそこ」
 ここは人気のない回廊。

 そして目の前には三人の……黥人げいにん。つまり、外から見て分かるほど入れ墨を入れた人たち。

「おれ、戦闘はからっきしなんだけど」
「だらしないわね……でも、体表に見える入れ墨はちょっとやっかいね」

 呪国人は入れ墨を彫るごとに、まるで魔法と思しき奇跡を発動させる。
 通常は身体の目立たない部分にいれるが、人の身体は有限。

 どうしても手や足、そして顔へと広がっていく。
 つまり、そこまで入れ墨が入っている者は極めて危険。

 何度となく、人を殺めてきたことを示している。

「二重の包囲だったのか」

 外の包囲と中の包囲。
 だとすると、かなりの人数がやってきていることになる。

「逃げるわけにはいかないし、ここは私がなんとかするわ」

 シルルは普段、花屋の店員。
 夜は女王陛下の〈右足〉にして……。

「なら、任せるよ。若くして『叢雲むらぐも』のふたつ名を得たきみの実力を」
「うーん、どうかしら。その銘、あまり好きじゃないのよね」

 そう言ってシルルは、一歩踏み出した。
 三人の黥人たちもまた、動く。

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